022
ゾンタ空域に、あたしはガルアと一緒に飛んでいた。
魔力調律中のアイは、工房に残したままだ。
まだ、魔力の調律が終わらないのでこの戦いに参加しない。
アイが最初からいない戦場に、あたしは不安が顔に出ていた。
この日の空は、雨が降っていた。
これはメリジェーヌのように、魔法で呼び出した雨ではない。
単なる通り雨だが、あたしは雨には余りいい思い出がない。
「そのエインガナというのは、十年前にガルアの父……ジャックが倒した」
あたしは、ガルアから聞かされた真実。
「別名『死の竜』だ」険しい顔のガルア。
雨が降っている以外、この場所にはハルピュイアの存在はない。
そもそも雨が降ると翼が重くなるので、ハルピュイアはあまり外を出歩かない。
静かに雨の音だけが、しんしんと降り注いでいた。
「羅針盤は、このあたりを示している」
「風獣は、死の竜と呼ばれていたわよね」
「そうだ」
「あなたは、怖くないの?」
「怖いわけ無いだろ。親父も倒したことがあるんだ!」
ガルアは、手に持った羅針盤を腰にくくりつけた。
それでも、質問責めをするあたしはソワソワしていた。
「不安か?」ガルアが、流石に違和感に気づいて声をかけてきた。
「アイがいないから」
「アイのことは、俺の親父もいるし全く心配いらない。
今日は、魔術師バエサ様も来てくれているからな。
レステこそ、ちゃんと家で休めたのか?」
「うん、温かいベッドに久しぶりに寝た」
「やっぱり俺と一緒のベッドの方が、良かったか?」
「馬鹿なことを言わないで!」
相変わらず、軽口を叩いてきたガルア。
でも、彼の言葉はあたしの緊張をほぐしてくれた。
「ありがとう、ガルア」
「ん?」
「いや、なんでもない」
あたしはそっぽを向いた。
そのまま、照れるように少し離れて空を飛ぶ。
離れようとした瞬間、ガルアが動き出していた。
「だめだ、そっちには行くな!」
「え?」あたしは驚いたが、上空から雨……ではなく大きな針のようなモノが飛んできた。
反応が遅れたあたしは、不意打ちの針を避けきれない。
だけど、ガルアがそのままあたしの方に飛んできた。
体当たりしたガルアは、あたしを押し飛ばす。
そして、大きな針を受け止めた。
五十センチほどの長い針が、ガルアの背中……翼の間に刺さった。
そして、ガルアの目には……一気に意識が遠のいていた。
「ガルアっ!」あたしは思わず叫ぶ。
「大丈夫だ、レステ!これは『死の針』、そいつを倒さないと俺は……」
ガルアが雨の空から落ちていきながら、あたしに声をかけた。
そして、上空を見上げると一匹の翼が生えた蛇が見えていた。
黒い何かは、間もなくしてあたしの目の前に降りてきた。
あたしは直感した。
この翼の生えた大きな蛇こそ、災いの風獣『エインガナ』であることを。




