021
あたしは、初めてチュラッタ以外の家に招かれた。
ガルアの家は、鉄の構造だ。ゾンタの町並みにも、よく溶け込んでいた。
家に来たこの日は、疲れもあったのですぐに眠ってしまった。
そして、翌朝を迎えた。
台所にいた、あたしはなぜか手伝っていた。
台所ではガルアの母親と、エプロンを着させられたあたしがいた。
「なるほど、本当にガルアが言っていたのね」
「はい、あたしを嫁だと」
「だったら、料理も勉強しないとね」
ガルアの母親、『スノ・ノトス』はあたしを台所に招いていた。
あたしに教えてくれたのは、料理だ。
ハルピュイアの主食は、肉だ。
古代文明から持ち込まれた、羊という生物を繁殖させて食べた。
他にも、いろんな肉を家畜として育てて食べていた。
奴隷のあたしでも、肉は食べたことがあった。
チュラッタは、奴隷であるあたし達にも平均的な食事を与えていた。
それに、あたし自身も調理担当になったことがあった。
残念だけど、料理はどちらかというと苦手だ。
「小さな火打ち石で、火をおこして……焼く」
「焼くのですか?」
「そう、料理は焼き加減が全てよ」
白い翼のスノが、手取り足取り丁寧に教えてくれた。
料理を教えるのはチュラッタよりも、ずっと分かりやすい。
そんなスノは、昨日ほどあたしに対する嫌悪感が無くなっていた。
「ねえ、あなたどう思うの?」
「ガルアのことですか?」
「当然よ」母親が、心配するのも無理もない。
ガルアが連れてきて、嫁と宣言したのが黄翼のハルピュイアだ。
黄翼のあたしは、白翼族にとって差別の対象だ。
母親ならば、どうしても気にならないはずもない。
「彼の好きを……正直理解できない。
あたしは奴隷が……とても長かったから」
「でしょうね」
「でも、彼のことは分からないことだらけ。
ここの家で、昨日彼の話も聞かされた。
生い立ちや、幸せな家庭のこと、機工師のこと。あたしは、いろいろ知った。
知って、ますますあたしは分からなくなっていた。
なぜ、彼があたしでいいのかを。
一目惚れと言っていたガルアが、なぜ三ヶ月経った今でもあたしが好きなのかを」
「同情はするけど、私はまだ認めていない……お肉焼けたわよ」
母親に促されて、あたしは焼いていた肉を皿に盛りつけた。
今回の料理は、生まれて一番上手に出来た。それは、間違いなかった。
「くんくん、いい匂いだ」
台所の奥から、声が聞こえた。ガルアだ。
母親が、あたしの事を促していた。
心配そうな顔だけど、どこか温かい女性の目だ。
あたしは皿を持って、ガルアの方に向かっていく。
「あっ、ガルア」
「おっ、今日はレステが俺のために作ってくれたのか?」
「うん、スノさんに教えてもらった」
「そうかそうか、流石は嫁だな」
ガルアは嬉しそうな顔で、テーブルの方に向かっていった。
そのまま、近くの鉄の椅子に座っていた。
「早く食べようぜ。レステの手料理」
「あ、うん」
ガルアに言われて、あたしは少し照れくさくなっていた。
だけど、あたしもテーブルに着いた瞬間にガルアが険しい顔になった。
「なあ、レステ」フォークを手にしたガルア、あたしは小皿をガルアに渡した。
「何?」
「どうやら風獣が、ゾンタ空域に現れた」
「そいつって?」風獣の話を聞いてあたしも、一気に真顔に変わっていた。
「災いの風獣『エインガナ』。間違いなく災厄の風が呼び出した、俺たちの敵だ」
「エインガナ、どんな奴なの?その風獣の情報を、あたしは教わっていない」
「エインガナ、そいつは……」
ガルアの話を、あたしは真剣に聞き入っていた。




