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英雄の娘  作者: かおもじ
14/24

遠慮と軽挙と

 大通りを進みながら冒険者ギルドを目指すルナであったが、その姿に昨日迄の緊張した様子は見られない。その理由はきっと高原のど真ん中からスタートした激動の一日が過ぎ去り、日を跨いだ事で少し落ち着いた…等というメンタルの問題ではなく単純にレベルを下げる事に成功した故だろう。


「所々街並みが変わっているけど、変わってない部分もある…15年だもんなぁ…」


 昨日は周囲の様子を気にする余裕も無かったが、改めて街中を眺めるとそこには確かな変化が感じられた。昔はあった筈の店が閉店していたり、そもそも建物自体が無くなっていたり…逆に全然知らない建物が立ち並んで居たりという様子を見ていると、正しくタイムスリップして来た様な感覚に陥る。


「まぁ、それを言うと違う世界に来てる時点でタイムスリップどころじゃないんだけども…」


 ジャンルとしては異世界転生…異世界転移だろうか。何かもう色々設定詰め込み過ぎだろ…と自分自身の置かれた状況にセルフ突っ込みをし苦笑する。


「まぁでも元よりゲームに捧げた人生だし、その世界で生きていけるっていうならむしろ願ったり叶ったりではあるかね」


 両親が亡くなり家に引き籠ってからの自分は正に天涯孤独と言える状態だったし忽然と姿を消したとてさして影響もないだろう。


「っと、見えてきた───アレ?アレだよね…?」


 考え事をしながらその歩を進めていたが、その視線の先に大きな建物が見えてきた。外装は変わっているがその場所は15年前に冒険者ギルドがあったのと全く同じ位置であり、建物自体の大きさも変わっていない様に見える。ここで間違いない筈…なのだが。


「扉派手過ぎじゃない…?」


 そう思わずこぼす程に入口に設置されている扉は豪華な装飾で彩られており、正しく絢爛と言えるものだ有ったのだが…過去の冒険者ギルドのイメージからはかけ離れたものだった。


「冒険者登録を義務化するにあたってキャッチーな感じにしたかったのかな…逆効果な気もするけど」


 少なくとも私の感性からしたらこんなド派手な佇まいの建物にはあんまり足繫く通いたいとは思わないが…まぁセンスは人それぞれなのでどうこう言うのは止めておこう。


「ええい、ままよ!」


 何処かで聞いた事のあるフレーズを口にしながら半ばやけくそで正面玄関から中に入る。『アビスゲートオンライン』における冒険者ギルドとは名前ばかり立派な組織と建物であり、ゲーム開始時の各種登録と冒険者ランクを上げる時にちょっと顔出す程度の場所であった。故に建物がデカいだけで地味な場所だったのだが…自分の目に映っているのは小奇麗な内装と白塗りの立派な受付カウンター、そしてそのお洒落な内装に見劣りしない美人の受付嬢達であった。


「はぁ…すっご…」


 関心と飽きれが半々の声を漏らした後に建物の中をグルっと眺めながる。比較的早い時間であった為か幾つかのカウンターは空いており、視線が合った受付嬢の一人から「コチラへどうぞ」と声が掛かる。声の主へと視線を向けるとそこにはセミロングの黒髪と泣き黒子が特徴的なスラッとした美人がおり、カウンターへ来るように促していた。


 促されるままカウンターの前に行くと、「いらっしゃいませ、本日はどういったご要件でしょうか?」と如何にも受付という感じの内容で尋ねられる。


「えっと、冒険者登録がしたくて」


 そう端的に答えると、受付嬢は用紙を一枚差し説明を始める。


「ではまずこちらの用紙にお名前と必要事項のご記入をお願いします。お名前は…ルナ様ですね、年齢は15歳と。10歳未満は保護者の方の同意書が必要なのですがお客様は対象外の様なので書類の記入のみで結構です。それと、冒険者登録をした際のレベルに応じてランクの判定が御座いますのでこちらのクリスタルでレベルの測定をお願い致します」


 本当の今の自分の年齢が15歳なのかは知らないが、見た目の年齢はこれくらいだろうと思い適当に記入する。


「わかりました、手を置けば良いんですかね?」


 どうやら冒険者登録をする際には必ずレベルの測定をされるようだ。こうなると尚更アクセサリーを完成させておいて意味合いが大きくなる。今の所この世界は『アビスゲートオンライン』が元になっているのは間違いない。となれば15年の時を過ごした旧冒険者でも高く見積もってレベル300位だろう。今の自分のレベルが2000だという事がバレたらパニックになる事請け合いだ。───まぁ、ドミネス高原からここに来るまでたまたま出会わなかっただけでレベル1000を超えた怪物がウヨウヨ徘徊してる可能性もあるが…いや、やっぱり無い。そんなのがウヨウヨしていたらとっくにこの大陸から文明は消え去って更地とかしているだろう。


「はい、こちらのクリスタルの上に手を置いて頂くとレベルが数値で出るので、その数値を元に初期ランクを決定させて頂きます」


 そんな事を考えていると受付嬢から説明された為、自らの手を水晶型のクリスタルの上に乗せる。するとその透き通った透明色が見る見る赤に染まっていく。


「赤……す、数字は…100!?」


 なんだろう…レベル100位ならそこまで騒ぐほどの数字では無い筈なので色が問題なのだろうか…?


「えぇと、赤だと何かマズイんですかね…?」


 事情が分からず恐る恐る尋ねると、受付嬢はやや切れ長の目を瞬かせながら答える。


「す、すみません…このクリスタルは測れる数値の上限が100で、100に近くなればなるほど赤くなるという仕様なのです。ですから赤色自体がマズイという事ではないのですが───ただ、その、15年前のギルド再編時なら兎も角、お客様ほどお若い方がレベル100なんて聞いた事が無かったので驚いてしまって…」


「あ~、そうなんですね…」と気のない返事をしながらも、受付嬢には聞こえない様に小さな声で「やらかしたぁ…」と呟き、自身の浅はかさに密かにダメージを受けていた。


 15年前の『あの日』以降に生まれた人間は本当に只の人間だ。PC(プレイヤー)でもNPC(イベントキャラクター)でもない。重要なクエストに関わるNPC(イベントキャラクター)の中にはPC(プレイヤー)を超える強さを持つ者もいる。でもそれはNPC(イベントキャラクター)故に設定された強さなのだ。15年前の事件以降に生まれた人間はそういった設定とは無縁な存在であり、安全マージンを重視する今の世界で若くして高レベルになる事は恐らく難しいのだろう。


「と、とりあえずご記入頂いた書類で申請して来ますね」と言って受付嬢は私が書いた紙を持ちながら何処かへ…恐らく事務方の職員が居る場所へと消えていった。


 そうしてそんな我々のやり取りを遠巻きに見ていたであろう職員らしき男が一人、真っすぐこちらへ向かって来る。先程からコチラに視線を送っているのは気が付いていたので声を掛けられる事は想像が付いた。


「とても興味深いお話がコチラから聞こえて来ましたので、失礼かとは思いましたがついお声掛けさせて頂きましたが…少しお話をさせて頂いても?」


 そう話すその男は年の頃なら40過ぎ位だろうか。スラリとした長身に肩口よりやや上で切り揃えられた薄い灰色の髪型、そして左目に装着されたモノクルが落ち着いた雰囲気を醸し出している。丁寧な物腰が断り辛い空気を作り、思わず「あ、はい」と返事をしてしまう。


「ありがとうございます。…なんでもその若さでレベル100に到達しているとか。お見受けした所純粋な人種であるかと思うのですが、失礼ですがご家族に長命種の方がいらっしゃるといった事は?」


 ミアの様なハーフやクォーターの可能性を疑っているのか、そんな質問を投げ掛けてくる。


「いえ、純人種ですけど…」


 アバターの設定ではそうだったが恐らくそうなのであろう。…今の自分が本当に人種かは疑わしい部分もあるが。


「そうですか、これは大変失礼致しました。純粋な人種の方がその若さでレベル100というのは私も記憶に無かったものでつい興味を惹かれまして。余程幼いうちから研鑽を積まれたのでしょう、敬服致します。───申し遅れましたが私こちらで副ギルドマスターをしておりますカッツェという者です。以後お見知りおきを」


「あ、いえ、そんな…って、副ギルドマスターですか?」


「若輩の身ではありますが、何とか務めさせて頂いておりますが…どうやらレニィ嬢が戻ったようですね」


 カッツェと名乗った男性の視線の向こうに目を向けると、先程迄対応してくれていた受付嬢がコチラに歩いてくる姿が見える。レニィというのがあの受付嬢の名前なのだろう。


「お待たせしました、只今書類の申請を致しましたので1時間ほどで冒険者免許が発行されるかと思います…ところで副ギルドマスターはなぜコチラに…?」


「いえ、先程のレニィ嬢とルナ様のお話が耳に入ってね。失礼かとは思ったのだけれども大変興味深かったのでお声を掛けさせて頂いたんですよ」


「そうだったんですね…所でルナ様、免許の発行までまだお時間がありますがコチラでお待ちになりますか?」


 1時間となるとただじっと待って居るには微妙な時間ではあるが…そう考えているとはたともう一つの目的を思い出す。


「あ、それじゃあ買い取って貰いたいモンスターの素材があるんですけど、今のうちに出来ますかね?」


「分かりました、素材の状態確認と買取り価格の査定にも少しお時間を頂くので、免許証の発行までの時間を考えれば丁度良いかと思います。状態確認をする為の素材置き場は後ろの建物になるので、コチラかお願い致します」


 そう言いながらレニィ嬢は自ら担当しているカウンターに受付中止の看板を置きながら席を立つ。そうして歩き出した先には恐らく裏手へと繋がっているのであろう頑強そうな扉があり、その後ろを付いて歩く。更にその後ろを副ギルドマスターのカッツェが付いて来ていた。


 「私もルナ様の持ち込んだ素材に少々興味があるのですが、ご同席させて頂いても?」


 特段断る理由も思い浮かばず、「えっと、構いませんけども」と返答をする。その後も2~3会話を挟んでいる内に、目的の場所に着いたようだった。


 「この中が素材置き場になります」


 そうレニィ嬢が指さした先には体育館程の大きさの建物があり、その入り口もそれに合わせてかなり巨大だった。建物を眺めていると「そちらの入り口は素材や解体道具の運搬用ですね、コチラが出入り口です」と声が掛かり、側面側にある入口へ促される。


 中に入ると目に付くのがまず素材を置くのであろう広大なスペースと、それとは別に奥側に有る解体用と思われる空間と大小様々な刃物や用途の分からない器具達。それらを使いながら忙しそうに働く屈強な男性陣の姿であった。


「素材を置く場所だけあって広いんですね…それに肌寒い…」


「ええ、大型のモンスターの素材を置く事もあるのでかなり広く作ってあります。今なら手前の素材置き場は空いているのでどちらに出して頂いても」「これなら何とか置けそう」とレニィ嬢が言い終わる前に マジックバッグに手を宛て、指向性を決めてから素材を放出する。


 「えっ?」


 そうしてバッグの中から取り出した素材…モンスターの巨大な亡骸を見たレニィが間の抜けた声を上げる。更にはカッツェも「これはまさか…ナイトメアシープですか?」と驚いた様に声を絞り出す。


 そうだ、思い出した。戦った時は名前までは思い出せなかったけど…ドミネス高原にだけ少数生息する固有種…漆黒の毛と凶悪な角を持つ初心者殺しの悪魔。サタンシープだ。


「はい、ドミネス高原に居たのでナイトメアシープで間違いないと思いますけど」


 亡骸となってもその巨体は存在感を放っており、他者を圧倒する威圧感を放っている…が、とはいえ冒険者ギルドともなればこれ以上のモンスターも頻繁に運び込まれるだろう。となれば驚いている理由は別に在りそうだが…あれ?ナイトメアシープといえば確か…


「これは…ルナ様が一人で討伐したのですか?」


 何か思い出しかけ下を向きかけた所でカッツェから声を掛けられ、ハッと顔を上げて返事をする。


「ええっと、はい。ドミネス高原に居たら急に襲われて迎え討つ形で…どうやったかは言えませんけど、倒したのは私です」


 必要に迫られてと云うならば兎も角、無闇に自分の戦い方をひけらかす気は無いし、もっと言えばレベル2000のパワーで風穴開けましたなんて言える筈も無い。故に手札は伏したまま事実だけを述べる。


「それは勿論、冒険者の方であれば秘中の秘も在るでしょうし詮索する様な事は致しませんが───これは予想外というか…」


 そんな事を話しているとポカンとしていたレニィが冷静さを取り戻したのか、「と、とりあえず査定班に声を掛けて来ますね」と言ってその場を離れる。


 何かを考えこんでいる様子のカッツェが黙り込んでしまった為に場を沈黙が支配する。気まずい空気に何か話を切り出そうかと思うが、特に話題も思い浮かばず困っていると再びカッツェがその口を開いた。


 「ルナ様、冒険者登録が済み次第で結構です。恐縮ですがギルドから早速がご依頼が御座いまして、お話を聞いて頂いても構いませんか?」


 その一言に何やら不穏な気配…面倒ごとに巻き込まれた予感がしてやや顔を引きつらせる。しかして相手の真剣な眼差しとノーと言えな日本人気質が交わり、「あ、はい…」と反射的に返事をしてしまう。


 ただ冒険者登録をしに来ただけのルナであったが図らずも…半ばボロを出した己の失態の気がしなくもないが、ともあれコチラの世界で初めてのクエストがこうして始まるのであった。

タイトルの遠慮は遠慮深謀の遠慮ですね。


色々と考えている割にはウッカリというか脇が甘いルナなのです。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼


この度は私奴の作品をお読み頂き誠に有難う御座います。


本作をお読み頂いた上で少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたなら


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何卒宜しくお願い致します!オナシャス!

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