古き日々との決別
「ちゃんとレベルが下がってる…成功だ!」
相変わらずメインジョブの部分が文字化けしており、何と書いてあるのか分からないが…それは兎も角としてアクセサリーはしっかり機能してくれたようだ。
他のステータスも確認して行くと、その中に期待していた通り効果が表示されているのを発見する。
△▼△▼△▼△▼△▼
装備品:八芒星のペンダント──装備した者のレベルを制限する事が可能になると。但し、一度引き下げたレベルは1日に1ずつしか変更出来ない。
装備品:虹彩色の指輪──痛覚を段階的に遮断する事が可能になる指輪。八芒星のペンダントと同時に装備する事で状態異常に対して耐性を得る事が出来る。
△▼△▼△▼△▼△▼
ペンダントは初期の設定でレベル100になる様に調整した。レベル100でも十分に超人の域ではあるのだが、余りに下げ過ぎると普通にモンスターにやられる可能性がある為にここが分水嶺だと考えたのだ。レベルが1ずつしか変更出来ないのは設計上変えようが無かった故の仕様だ。
痛覚遮断はこの世界で生きていくなら必要になると思い組み込んだ性能だ。どれだけ似ていてもここは自分がプレイしていたゲームの世界とは違う。殴られれば痛いし斬られれば血が出る。腕の一本も切り落とされればのた打ち回り戦うどころの話ではないだろう。勿論敵は痛いからといって待ってくれるはずもない。例え痛みがあっても戦えるようにする事はこの世界での最低条件だと考えられた。
状態異常耐性は呪殺・石化・魅了・麻痺・混乱・毒等のあらゆる状態異常耐性が99%になる、チートといえる性能だ。但し、このチートには種がある。この耐性はアクセサリーの効果でレベルに制限を掛けるという、要は縛りプレイをする事で得ている限定的なものである。その効果は本来のレベルに近づく程に下がり、どんどんと耐性が低くなる為に過信は禁物だ。
完成したアクセサリーの性能に満足しつつも、予定通りもう一つのアイテム作成に取り掛かる。とはいえ素材をセットするだけなのだが。
素材をセットし装置を起動。こちらはサイズが大きい為、完成は明日の朝だろう 。動作が正常である事を確認し部屋を出る。
家の中に入るとミアが洗い物をしているのか台所から水の音が聞こえて来る。台所に居る後ろ姿のミアに「お風呂入って来るね」と一声かけ、そのままお風呂場へと向かう。
脱衣場に着くと徐にボロボロの衣服を脱ぎ棄て、直ぐに浴室に入る。浴室は現代的な作りをしておりシャワー類も設置されている。見た目で言えば地球のお風呂と異なる部分は殆どないだろう。違う所はその根本の部分、構造の元が電気や水道を通じたものではなく、魔力を元にしているという事だろう。
この世界でも科学は発展しており、現代とまでは行かないが近代に近い文明水準である。ただその根幹を支える部分が電気ではなく魔力と錬金術である為、独自の発展を遂げた結果一部の分野では現代科学を凌駕していたりもする。例えばお風呂ならお水を入れるのには水の魔力が結晶化したクリスタルを使用し、お湯を沸かすには火のクリスタルを、お風呂場の明かりを灯すには雷のクリスタルを使用する。
───閑話休題。裸で考えるような事でもないだろう。まずはと汚れた身体にシャワーでお湯をかけその全身を濡らす。そうしてそのまま頭を洗おうとシャンプーに手を伸ばしかけた所で浴室内の鏡にふと視線が向き、改めて今の自分の顔をまじまじと眺める。そこに映る姿は勿論地球上での自分の顔ではなく、以前のアバターによく似ているが、それよりも更に年若い姿であった。
「そういえばミア、姿が若返ってるはずなのに何も言わなかったな…もしかして気が付いてない?」
…ありえる。普段は割としっかり者のミアだが、時折天然な所があるというサポートAIにそこまでのリアリティを求めるのかという性格をしていた。現実となったこの世界でもその性格は恐らく変わっていないだろうし、ミアの天然が炸裂し気が付いていない可能性がある…お風呂から上がったら聞いてみよう。
───変化に気が付かなかったミアを天然と評しているが、それよりも自らの姿が『アビスゲートオンライン』のアバターと同じ(若干若いけど)になっている事を全く気にしていない辺り、天然どうこうよりもそっちの方がおかしいはずなのだが…それを突っ込む人間はこの空間には存在しない───
ともあれ鏡から視線を外し頭、体と次いで洗っていく。最後に全身の泡を洗い流した所で漸く湯船に浸かると、思わず「あぁ~…」と思わず声が出ていた。いまだかつてない程の激動と言える一日の疲れが湯船に溶けていく様に感じ、大きめの浴槽にその手足を伸ばしながら身を投げ出す。
「ゲームではレベル上げだの何だのと常に忙しくしてて、ホームでお風呂に入ったの事なんて殆どなかったけど…気持ち良いな…」
誰かに強要された訳でも無く自ら始めた『アビスゲートオンライン』。純粋に楽しんでいた部分も勿論あるが、両親を失った悲しみから逃避する為の手段になっていた部分も否定できない。そうして没頭するうちに気が付けば世界最初のレベル200到達者になっていた。そうするとゲーム内のプレイヤーから認知されるようになり周囲から注目され始める。注目された所で自らのやる事に変わりはないのだが…それでも何処か意識してしまう部分が芽生え始め、常に何かに追われる様な感覚を覚えながら更にレベル上げに没頭していく。
そうしてプレイを初めてから幾星霜の月日が経過したのか…狂気の果てに、遂に世界最速での最高レベル到達者という肩書を得ていた。しかしレベルが最高になったからといって勿論やる事が無くなるわけではない。その肩書に急かされる様に最高の装備を集め、最高難易度のコンテンツの攻略もノルマの様に挑み続け…苦痛とは言わないが、少なくとも心休まる日々では無かったことは確かだ。
そんな日々から突然、強制的に解き放たれた訳だが…その心を占めているのは或いは解放感だったのかもしれない。明日をも知れない我が身でありこれからの事を考える必要はあるが…少なくとも今の自分にノルマ等はなくどんな事だって出来るはずだ。そう考えると不安よりもワクワクした気分が改めて湧いてきたが…
「あっつ…のぼせる前に上がろう…」
気持ちが湧く前にのぼせ上って頭が沸騰しそうだと思い、浴槽からザバッと勢いよく出てくる。そのまま全身を濡らす水滴をタオルでふき取り、ミアが用意してくれた着替えをその身に纏い始めるのだった。
この度は私奴の作品をお読み頂き誠に有難う御座います。
本作をお読み頂いた上で少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたなら
・ブックマークへの追加
・画面下の「☆☆☆☆☆」からポイント評価
等をして応援して頂けると、作者の力になり励みになります。
何卒宜しくお願い致します!オナシャス!




