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エリザベートとオスカー

俺はこの遠征でエリザをよく知る機会を得た。

一目惚れで、ほとんど思い込みのまま求愛した俺であるが、彼女と遠出するのは初めてだ。

いささか変則的ではあるが、二人の共同作業でもある。

この遠征を通じて、彼女の事をもっとよく知りたいと、俺は非常に張り切っていた。


というか、本来は求婚する前に相手の事を調べておくべきなのだな。


「よく知りもしないのに結婚を申し込むとか、閣下は随分と未来に生きていらっしゃる」


とコレットにもつつかれた。


我ながら、本能のままに生きているな。

反省する事しきりな俺であるが、この約三ヶ月間ににわたる遠征で、その直感の正しさと間違いをそれぞれ知る事になった。




エリザは逞しい人だった。


とりあえず食い意地が張っている。

遠征中もすばらしい食いっぷりを見せてくれた。

フードファイターエリザベートの勇姿を見て、俺も俺の軍の者達もたちまち彼女の虜になった。


兵士にとって、よく食べ、よく寝られるのは一つの才能だ。

とにもかくにも熱量を確保しなければ、行動する事は難しい。

その点エリザは、高貴な生まれとは思われぬ素晴らしい同行者であってくれた。


一応言うと褒めているぞ。


例えば王都の防衛中は、帝国軍の将兵にも豊富な備蓄に物を言わせた人間的な温食が毎食提供されていた。

調理時間も取れたしな。

しかし今回の遠征では、進軍を急いだ関係で、昼休憩の時間が消えた。

結果、将兵は、昼飯代わりに携帯食をかじりながら行軍することになったのだ。


ただ、この携帯食、おどろくほど不味いのだ。

帝国軍の技術開発局には、とかく機能性ばかりを追い求める悪癖がある。

この糧秣もその悪例の一つ、桁外れの熱力圧縮率と引き換えに、一口で口の中が砂漠化させる驚き食感の逸品だった。


しかも硬いのだ。

食う人間はまず顎の力が試される。

棒状に成形したら立派な殴打武器になるだろう超鋼度でがじがじとかじりったりねぶったりしないと食べられない。


本当にこいつの原材料は小麦なのか?

釘ぐらいなら打てそうな鋼度だぞ?


そんな食い物疑惑さえあるレーションを、なんとエリザはペロリと平らげてしまったのだ。

端からバリバリと咀嚼して、ごくりと飲み込み腹の中に収めてしまう。

彼女はその後、行儀悪くげっぷした。

ぐぇーっぷー、というガマガエルのごとき重低音が、麗しき乙女の口からこぼれ出す。


俺は恐る恐る質問した。


「……不味くて我慢できないなら言ってくれても構わんぞ。別の物を用意させるから」


「いえ、結構です。これはこれで、味があって良い」


彼女の言葉に、俺と見物していた兵士達はわけもなく拍手を送ったものだ。


彼女は遠征中、俺達と同じ物を同じ量だけ食べた。

いや、むしろちょっと多めに食べた。

遠征慣れした熟練兵さえまずいと嘆く携帯食を、文句も言わずもしゃもしゃ食べた。


その様子を見ているうちに、味がマシになったように錯覚した。

もしかしたら、これ人間の食い物なんじゃないだろうかと俺達は思ったのだ。


まぁ、錯覚なので、一口かじれば口の中は容赦なくぱっさぱさになるのだが、それでも気分的には大分マシだ。

エリザのおかげで、兵の食事に対する憤懣は低水準に抑えられた。


我が軍には、食い詰めて兵士となった者も多く居る。

彼等からしてみれば、高貴な身分の女王様が自分達と同じものを食べているという事実だけで、ご飯が何杯も食べられるほどの栄誉である。

俺とても同様だ。

故に逞しくも少し意地汚いエリザベートは、俺達にとってのアイドルになったのだ。


正直、風紀的にはどうかなぁ、と思うシーンもあったりはした。


だが、まぁそのあたりも含め、彼女がいてくれて良かったと俺は思ったのだ。

乏しい旅の潤いを、元気なエリザは一人で賄ってくれたのである。


ちなみにだが、エリザの従者達は、彼女よりもよほどやわだった。


コレットは、「豚用の飼料を脱水して固めたみたいな味がするので、もう食べたくない」と食べる事を放棄した。

生憎、俺は豚用飼料を食したことはない。

だからこれは予想だが、多分家畜はもう少しマシな物を喰ってるんじゃ無いかと推定する。

なにせ、こんな物を食わされた日には、家畜も痩せ細ってしまうだろう。


アリスは、「薬品くさくて辛いです。後遺症が出ちゃいそう」とあらぬ嫌疑をかけてくれた。

だが俺達は、これを食って体を作ったのだ。

健康には間違いなく良いはずだ。

食べても幸せにはなれないが、健康だけは保てるものと俺達は信じている。


エリザは、従者達が上げた不平不満をやんわりと退けた。

私はこれを食べるから、お前らは美味しいケーキバーでも食ってろよと、半ば挑発気味に宣言し、コレットとは喧嘩になっていた。


彼女は有言実行の女だった。

エリザは最後までこのクソまずレーションを食べ続け、そして合間にケーキバーも別腹だからと胃に収めつつ、すこし腹周りを肥大させてこの遠征を乗り切った。


彼女は言った。


「私だって皆さんと同じ苦労をするべきでしょう。それが、自己満足に類するものであったとしても」


彼女の言葉は正しい。

たしかに、兵は喜んだ。

女王陛下は俺たちと同じ物を食べて、同じ道を歩んだのだと、土産話で語れるから。


逞しいエリザの行いは皆にとっても励みであった。


また彼女はよく寝た。

戦闘のあった翌日などは、神経の昂ぶりから熟練兵でも不眠を煩ったりするのだが、その点エリザの神経は太かった。


休めるときにはさっさと仮眠を取るらしく、俺が小休止に遊びにいくとだいたいエリザは昼寝中ですやすやと眠っていた。


「私の立場だと、仮眠を上手に取れるかが日々の仕事に関わってきますからね」


「医療従事者の心得という奴か」


「ええ。救護所も戦場になりますし」


彼女はよく寝た。

そのせいか聖都につくまで、これっぽっちも疲労した様子を見せなかった。

新兵の八割は、長期の作戦でなんらかの不調を訴える。

しかしエリザは、元気なままこの旅を乗り切ったのだ。


遠征も後半戦になり、少し疲れを見せるアリスから、俺は報告を受ける機会があった。


「陛下は、今日もお元気です。あの逞しさは、王者の風格と言ってもいいかもです」


「同感だ」


俺達の視線の先には、燃え尽きたポーズでうなだれるエリザの姿があった。

うつらうつらと船をこぐその顔はだらしなく緩んでいる。

幸せそうに寝よだれを垂らすエリザの姿は、ちょっとした眼福だった。




また、エリザは強かな女だった。


聖国との和平交渉の場で、エリザは開口一番、こう言った。


「賠償金の支払いは最低限で結構です」


戦後処理では、金は結構重要な案件だ。

戦費だけでも馬鹿にはならぬ。


帝国軍一万人をおよそ半年に渡って拘束。

後方支援に動員される人間も含めれば、動員数は倍以上になるだろう。

エリザはそれらの一部を自弁するといい、聖国の負担軽減を申し出たのである。

聖国に求めた賠償金は、金貨にしておおよそ八千枚程度、しかも、分割払いを認めている。


この寛大な申し出に、聖国側の交渉団は驚いていた。

ルチアでさえ、表情を取り繕うのに失敗した。


「我らがこのようなことを申し上げるのもおかしな話でありますが、本当によろしいのですか、エリザベート陛下? 今少しであれば、我らも受け入れる事はできますが……」


「不要です」


エリザは静かな笑みで謝絶した。


そもそもだ。


王国と聖国の間に結ばれたのは「和平」であった。

聖国の「降伏」ではない。


ゆえに結ばれた和平条約は、対等な関係のそれ。

聖国側からしてみれば拍子抜けに近いほど寛大な内容で、彼等は喜びつつも訝しげな表情を浮かべていた。


俺もその素案を見て随分と不思議に思ったものだ。


「随分と手ぬるいな。ルチアへの配慮か?」


エリザは莞爾として笑うと首を振った。


「違います。利己的な判断ですよ。お金をもらっても、私達の立場では、安全は買えませんからね」


「俺達を雇えばいい」


「オスカーは、お金で雇われてくれますか?」


「いや、すまん。金では動かんな」


でしょう、とエリザは唇の両端を持ち上げた。

ちゃんと見抜かれているようだ。


「貧乏人が余計な金を貯め込んでも、守る方法がありません。むしろ盗賊を呼び込んでしまうでしょう。必要以上の金貨は王国の幸せに寄与しませんわ」


「なるほどな。だが、それで国内はおさまるのか? 国を一度は焼かれたのだ。聖国に厳罰を求める声もあるだろう」


「黙らせますよ。そもそもこの戦争で勝てた事自体、帝国軍の尻馬にのっただけなのですから。分際をわきまえさせます」


エリザは優しい女王だといわれている。

ともすれば、女の甘さがどうのこうのという誹謗も聞いていた。


だが、この物言いはどうだ?


彼女はむしろ徹底した現実主義者であった。

その判断の根拠には、感情が廃されている。

激する事が少ない彼女は、透徹した現世利益の探求者だ。


だからこそ、感情論を真っ向から否定する穏健策を平然と口に出来るのだろう。


歴史を振り返ってみれば彼女の正しさは明らかだった。


とある国家は、戦争で下した宿敵に、国内感情の赴くまま天文学的な賠償金支払いを要求した。

だが、続く大戦で国土を完全に蹂躙される羽目になったの。


敵手を経済的に困窮させたところで、害意は枯死したりはしない

貧困から来る憎悪を糧に、強く深い恨みの根となって残るのだ。


聖国をいくら痛めつけても、王国の安全は買えないと彼女は理解していた。

だが、それを、自国民に平然と要求するあたり、相応に覚悟を決めている女王であった。

結構怖い。


「感情論に走っても、待っているのは破滅です。私達の王国は弱い。そして強くなるにも限度がある。それが理解できない人間は王国の首脳には要りません。国民が不満を言おうとも、聞き届ける気もありません。別の褒美で我慢してもらいます」


こうして聖国に対しては、表面上寛大な戦後処理が実現に移されたのだ。


ただ、エリザはこれ以外に手を打っていた。


「国防は考えなきゃなりません。兵を多少増やしたところで焼け石に水。そちらも最低限は増やしますが、それより互恵関係の強化が大事だと私は考えます」


互恵関係、両者共存、いや、むしろ、聖国から金を引っ張って王国に投資をさせるというべきか。

投資資金を人質に、エリザは安全を買う気なのだ。


賠償金の代わりとして、彼女は、両国共同で実施する国土開発計画を飲ませていた。


聖都から王都を経由して帝国に至る街道の整備。

王国からほど近い港湾都市トレーニの経済特区化と通商関税の撤廃、港湾施設の開放。

そしてなにより、王国の大学の建設費用。


「王国と聖国で国家的利益を共有します。これらは聖国の利益と相反しません。なればこそ、王国の安全保障にも寄与するでしょう」


「取り込むほうを選ぶのか」


「まぁ、国の大きさ的には取り込まれる側なんですけどね」


エリザは苦笑しつつも言い切った。


「結局は帝国軍の抑止力あってのことなのです。軍事力の裏付けがあるから対等な顔で交渉できるので。帝国軍の威を借りるエリザベートです」


俺は、少し嬉しかった。

虎の皮か犬の皮かはわからないが、エリザに借りてもらえるなら本望だ。


「だがあまり聞こえはよくないぞ。俺も俺の部隊も、悪評が多いからな」


俺が自虐をしたところ、エリザからはそんなことはないと力一杯のフォローをされた。


高貴な身分の者達からは、ただの暴力装置扱いをされることが多い俺達だ。

ありがたい事だと思う。


エリザは慈悲深いだけの女王では無い。

だが計算高いだけの為政者でもない。


この辺りの自然なバランス感覚が、聖国との合意をわずか三日で取り付けることに成功させたのだろうと俺は勝手に考えている。


要するにエリザはすごい。


俺は自らが感じた事をエリザに伝えた。

エリザはすごい、最高だと。包み隠さず力説した。


彼女はたいそう喜んだ。


そうだ私はすごいのだと、威圧する雄カンガルーのごとき体勢でふんぞり返るエリザを見て、彼女の従者は贔屓の引き倒しだと笑っていた。


逸らしたおっぱいがロケット弾みたいに強調されているエリザは、あまり女王っぽくは見えなかったが、彼女が取り持った条約は、その後の恒久平和の礎となる。




最後にエリザは可愛い人だ。


これこそ、おれが力一杯叫びたいことであるが、実際に試してみたところ、近所迷惑だと苦情を言われたので、ここでは控えておこうと思う。

とても可愛い。

食べてしまいたい。もう食べたけど。


今回の遠征は、まぁ、自明のことであるが軍事的な作戦行動の一環だ。

野戦も攻城戦もする。


ここに可愛い恋人を連れていく。

以前の俺なら、間違いなく鼻の先で笑っただろう。


今まで下した敵国にも、女連れで戦場に出てくる将がいた。

そんな連中を戦場でたたき伏せる度、俺も俺の部下達も心の底から馬鹿にしたものだった。


戦場に不要なお荷物を連れて、貴様ら殺し合いをする気があるのかと。

気の抜けたことをしているからお前らは負けたのだと。


同じ立場になったから言える。


それとこれとは別問題だ。


戦争はする。

恋人とは一緒に居たい。


なら、戦争に勝ちつつ、恋人と一緒に居るのがベストなのだ。

別に矛盾するところではない。


以前の俺達の発言は、ぶっちゃけ単なるやっかみである。

要は強ければ負けないのだ。

女連れだろうがなんだろうが、強けりゃ戦争には勝てる。

女は関係無いのである。


まぁ、それに軍隊に女はつきものだし。


俺は、掌を返した。

俺の部下達も、「エリザ様と一緒がいいっす。今までナマ言ってすみませんでした」と反省の言を述べてくれた。

帝国軍中央即応群は硬派な集団を辞め、可愛いエリザと行くことを選んだのだ。


そんな恋人との旅であるが、流石の俺も作戦行動中の逢瀬は自重した。

彼女を愛でている間に何かあったら事だからだ。


この点、やっぱり妻をいっぱいつれて戦場に出てくる王族などはすごい神経してるなと思う。

南の方の王様はハレムを連れて戦場にも赴くらしい。

まぁ、それは別の話だ。


野営する際はエリザの安全も考えて、彼女の天幕は俺のそれのすぐ近くに建てさせた。

しかし、これが俺にとっては思わぬ試練になったのだ。


夜。


エリザがすぐ近くで眠っていると思うと、俺は辛抱たまらない気持ちになってしまったのだ。

ゴロゴロと寝返りを打っていると、俺と一つ屋根の下で暮らすふくよかな相方が釘を刺した。


「スカさん、わかってるよね。エリちゃんのとこに遊びに行っちゃだめだからね」


「ああ、わかっているとも。士心を失うような真似はすまい」


俺はつとめて己の欲望に蓋をした。

しかし、薄い布を二枚隔てたすぐ側で、彼女が可愛い寝息を立てているのだと考えると、やっぱり辛抱たまらない気持ちになってしまうのだ。

何度も言うが、辛抱するのが辛いのだ。

辛い事を抱えるのが辛抱、俺は良く理解した。


エリザは気を許した相手には、殊更に隙を見せる。

日中と言わず、夜中といわず、ふとした瞬間に彼女は俺を誘惑した。

俺の理性はそのたびに劣情の矢を猛射され、血とそれ以外のなにかを垂れ流した。


だが、俺は心に誓っていた。


聖都を落とし、和平が結ばれるまではいろいろなことを我慢しようと。

初めての夜の反省で、おれは慎重になっていたのである。


実のところ、王都に帰還するまで我慢する予定であった。

和平が結ばれても、しばらくは聖都での仕事がある。

聖都は元敵地であるし、油断は絶対にするまいと、俺はこころに決めていた。


残党の首を根こぎにした後だからと、油断をしてはだめなのだと。


しかし、和平条約から三日、エリザの側に使えるコレットが俺に許可をくれたのだ。


その時、エリザは聖国の迎賓館に泊まっていた。

国賓向けのその館は、警備も行き届いているらしく、また、コレットがエリザの身辺を掌握もしてくれたらしい。


「迎賓館の安全は確保しました。護衛にぬかりはありません。陛下の御寝所をおとなう際は、お申し付け頂ければ、我らで準備をいたします」


要は、夜這いオッケーの許可である。


俺は生唾を呑み込んだ。


「……いいのか?」


俺はこの言葉にいろんな思いを込めたのだ。


お前、前に俺がエリザを襲ったとき、ぶち切れてなかったか?

というか、メッチャ反対してましたよね。


俺の問いに、コレットはやるせなさ百パーセントのため息を吐き出した。


「やむを得ません。陛下が寂しがっておられるのです。『やっぱり、オスカー様とご一緒する時間が少ないのは残念ね』と。会議などで、散々顔を合わせているのにこの台詞。陛下は独り寝が寂しいと仰せです」


彼女のあきれは果たして誰に向けたものであったのだろう。


俺か。

それとも駄目男キャッチャー、エリザベートへと向けたものか。


この際、どちらでも構わなかった。

俺は、俺史上最速でエリザのところへ向かおうとして、風呂場へと進路を変更した。




その晩、俺はエリザのもとをたずねた。


迎賓館は、冬枯れの風情を見せる自然庭園の片隅にひっそりと佇んでいた。

その姿は慎ましやかで、これを設えさせた持ち主の、たしかなセンスが感じられるものだった。

まぁ、リンディだ。

あの女、性格さえまともなら、極めつけに有能な人材であったのに……。

正直ちょっと惜しまれる。


館におとないを告げ、エリザの寝室の扉を開けると暖かな空気が流れ出した。

品の良い調度品。

暖かい常夜灯が照らす部屋の中で、エリザが俺のことを待っていた。


少し厚手の寝間着を着たエリザは、恥じらいをにじませたはにかみ顔で俺のことを見つめていた。

解いた髪の一筋が、が天井の照明に白く輝きながら体の前へと流れていく。


肌はほとんど見えなかったが、胸元の組み紐からわずかに覗く乳白色が俺にはとてもなまめかしかった。


俺が彼女の姿に見惚れていると、エリザはなにやら慌てて説明をし始めた。


「あの、この夜着なんですけど、ルチアから譲ってもらったんです。前の持ち主の未使用品だって。中古でお迎えするのはどうかなって思ったんですけど、とてもよく似合うって言ってもらえて。ひらひらは少ないんですけど、肌触りがとてもすてきなんですよ。オスカーも触って……」


「ああ、とても綺麗だ」


口から出たのはそれだけだった。


エリザを抱きしめると、彼女は体をしならせた。

柔らかで暖かい。


首元に鼻先を埋めると、なにかの花の香りがした。

俺は花に詳しくない。

ただ感じた事のみを口にする。


「良い匂いがする。香水か?」


「スズランだそうです。私もいいなって。少し流行とは違うらしいんですけど……」


「そうか」


俺は、彼女を寝台へと押し倒した。


まぁ、こんな感じで俺は逢瀬を果たしたのだ。


寝台の上でエリザは何度も俺の名を呼んだ。

健気に俺の体に縋り付きながら、俺に責められる度、彼女は甘く切ない声で鳴いてくれた。


まぁ、これ以上、詳しく様子を述べると障りがあるだろうから、このあたりでやめておく。

初めての夜にも増して、エリザはエロかったとだけ書き添えてこの話は終わりにしたい。




以来、俺は、機会さえあれば、毎晩エリザのもとをたずねるようになった。

飽きもせず、毎晩だ。


俺は戦場暮らしが長い。

当然、体力はある。

対するエリザは「私頑丈なんですよ!」と自信満々に告げてくれたが、所詮は一般人。


多少の無理が出来るようにと、俺は身体強化をエリザの体にかけて彼女のと行為を楽しんでいた。


彼女もまた精一杯、俺に応えてくれるのだが、朝になると必ずそのことを責められるのだ。


「……オスカーは酷い人です」


頬に残った、涙の跡が愛らしい。

甘い声で許しなど乞われれば、当然、俺はそれに応えてしまうのだが、彼女は私は誘っていない、酷い事をするななどと俺をなじってくれるのだ。


まぁ、エリザはこんな感じで可愛いのだが、おっかないのは彼女の従者のほうである。


俺の訪問は連日のこととなっており、エリザはだんだんしんどくなっているらしく、朝寝の時間が徐々に長くなっていた。

それでも彼女は喜んでくれているのだが、コレット率いる従者隊活動が徐々に攻撃的になりつつあった。


最近は、定時になると扉をガンガンぶん殴るのだ。


超怖い。

ちなみに、夜もほどほどにせよと言われるが、エリザも俺もお互い好き合っているせいで、これがなかなか止まらない。


俺が彼女を離しがたく思うので、どうしても行きすぎてしまい、そして壁ドンにつながるというわけだ。

名残惜しげに、ベッドの中で身を寄せ合っていると、今日のコレットは無礼にも、部下まで連れて部屋の中に踏み込んできた。


「朝ですよ! 起きて下さいバカップル! 最低限、下だけはつけておいて下さいね!」


下とか言うな。


「……ほら、コレットに怒られちゃったじゃないですか」


「俺も一緒に怒られてやる。だから許してくれ」


「もう、仕方ありませんね」


「それで、今日の晩も来ていいか?」


「……はい」


「いつまでいちゃついてんだ、バカップル!」


俯いて顔を背けたエリザの顎を捕まえて口づけを落とす。

エリザは黙って俺を受け入れてくれた。


衆人環視の中でやからしたせいで、コレットにはぶん殴られた。

とても楽しい。

あれだな、バカップルの気持ちがよくわかったわ。

恋人ができると割と周囲の目がどうでも良くなってしまう。


しかし女王の恋愛なのだから、多少は融通を利かせてくれてもいいんじゃ無いかな、と俺は思う。

俺も話に聞くだけだが、王族は結構オープンにいちゃつくらしいと聞いていた。

ロイヤルな恋愛も悪くないと思うのだ。


以上、もちろん、俺達がバカップルでいるための方便である。



まぁ、こんな感じで、俺はエリザの事をよく知る事ができた。

仲も当然良くなった。


そして聖国の遠征も双方の遺恨も少なく、俺にとっては珍しい形で終わったのだ。


「四方、丸く収まって良かったと思います。花丸ですね」


「ああ、エリザのおかげだと思っているよ」


彼女の言うとおり、およそ大成功と言って良い遠征だったと俺は考えている。


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