EP 49
ピカリの涙と……ボタン電池の奇跡!
魔神王を打ち倒した歓喜は、一瞬にして凍りついた。
「ピカリちゃん! 嫌ぁっ、消えないで!」
「ピカリ……! そんな、私達のために……!」
サリーが大粒の涙を流し、ライザも唇を強く噛み締めて肩を震わせている。
宙に浮かぶピカリの体は、限界を超えて魔力を中継した代償で、徐々に透明になり、光の粒子となって空へ溶けようとしていた。
『みんな……泣かないで。ピカリ、太郎たちと一緒に美味しいご飯食べて、お風呂に入って……とっても幸せだったよ』
「ピカリ! 駄目だ! まだ一緒にサウナに入ってないだろ!?」
『……ありがとう。大好き……バイバイ』
完全に体が透け、最後の光がフッと消えようとした、その絶対的な悲劇の瞬間。
「……ふざけるな」
僕の目が、カッと見開かれた。
「誰が悲しい結末なんて許すもんか! ピカリは『光の妖精』だろ!? 光のエネルギーが切れたなら……補充すればいいだけだ!!」
僕は空中にスキルウィンドウを乱暴に展開した。
カテゴリは『家電・スマホ周辺機器』!
「頼むぞ、現代の叡智! 出てこい、『リチウムコイン電池(CR2032)』と『ワニ口クリップ付きUSB急速充電ケーブル』!!」
空中に現れたのは、見慣れた銀色の丸いボタン電池と、黒いケーブルだ。
僕は消えかかるピカリの背中(羽根の付け根あたり)に、ワニ口クリップをガシッと遠慮なく挟み込んだ。
『ピヤッ!?』
「太郎様!? 何を……!?」
「いくぞ! 俺の魔力を電気に変換して直接給電だ! 急速チャージ!!」
僕は自身の魔力をケーブルを通してピカリへと強引に流し込んだ。さらに、銀色のコイン電池をピカリのおでこにペタッと貼り付ける。
バチバチバチッ!!
「ピギャアアアアアアアアアア!?」
感電したかのように、ピカリの小さな体が激しく痙攣した。
「た、太郎様!? ピカリちゃんが感電してますわ!!」
「むごい! むごすぎます太郎様!! なぜ最期にそんな拷問を!?」
妻二人がドン引きして悲鳴を上げるが、僕は充電をやめない。「いけええええええ!!」と叫びながら魔力を押し込む。
数秒後。
ピカリの体から、眩いばかりの強烈な光が放たれた。透明だった体は完全に実体を取り戻し、輪郭がくっきりと元通りになっている。
『……ハッ!?』
ピカリはパチッと目を開き、空中でキレッキレのバク転をキメた。
『ピカァァァッ! フル充電完了! ピカリ、元気100倍!! なんだか前より体が軽いよ! うおおおお!』
彼女は空をビュンビュンと飛び回り、先程までの悲壮感など微塵も感じさせないほどのハイテンションで笑い声を上げた。
「…………え?」
「……でんち? で、生き返った……?」
サリーとライザは、目からポロポロと涙を流したまま、ぽかんと口を開けて猛スピードで空飛ぶ妖精を見上げている。
感動の別れが、一瞬にして台無しになった瞬間である。
「ほらね? だから言ったろ、ただの『電池切れ』だって」
僕はホッと胸を撫で下ろし、ケーブルと電池を回収した。
「も、もう! 太郎様ったら!!」
「本当に……本当に、心臓が止まるかと思いましたのよ!!」
サリーとライザが、涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら僕の胸に飛び込んできた。
さっきまでの悲劇のヒロインの顔はどこへやら、安堵と少しの怒りが混じった、いつもの可愛い妻たちの顔に戻っている。
「ごめんごめん。でも、これで誰も欠けることなく、完全勝利だ!」
僕は妻たちの背中を優しく撫でながら、元気に飛び回るピカリを見て笑った。
「ピカリ! 帰ったら特大のハンバーグを作ってやるからな!」
『やったー! ピカリ、チーズも乗せてー!』
魔神王討伐という世界を揺るがす大偉業は、100円の「ボタン電池」によるギャグのような奇跡の復活劇によって、涙一つない爆笑と歓喜のハッピーエンドを迎えたのだった。




