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天井からトラックが降ってきたので、100円ショップスキルで異世界を生き延びます  作者: 月神世一


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EP 23

壁ドンのち、白い歯の革命

城内が爽やかなミントの香りに包まれ、家庭の平和を取り戻した騎士たちの笑顔が太陽の下で輝き始めた頃。

国王である太郎は、自室の壁際で絶体絶命の窮地に追い詰められていた。

ドンッ!!

逃げ場のない壁際で、太郎の顔の横に、白く美しい手が勢いよく叩きつけられる。

いわゆる「壁ドン」である。

しかし、それは少女漫画のような甘酸っぱい胸キュンイベントでは決してない。

目の前にいるのは、美しく微笑んでいるが「目が全く笑っていない」妻、サリー。

そして、退路を完全に断つように背後で腕を組み、冷ややかな視線を送る妻、ライザだ。

「な、何かな? 二人とも……」

太郎は額から冷や汗をダラダラと流した。

浮気はしていない。隠し子もいない。仕事(という名のマルスへの丸投げ)も順調そのものだ。

怒られる心当たりが全くない。

「太郎様……」

サリーが、吐息混じりに甘く囁く。その息は、先日渡した歯磨き粉のおかげで最高に爽やかなストロングミントの香りだ。

「確かに、太郎様が騎士団に配ったこの『歯磨き粉』は、口内をスッキリさせますわ。朝起きた時のネバつきも綺麗に取れますし、とても素晴らしい品です」

「そ、そうだろう? 気に入ってくれて何よりだ。いくらでも追加で出すよ?」

「でも……」

ライザが横からスッと顔を近づけ、太郎の口元をビシッと指差した。

「この薬効と爽快感だけでは、太郎様の『不自然なほど真珠のように白い歯』は、全く説明がつきませんよね?」

「うっ……!」

太郎の心臓が、ビクンッと大きく跳ね上がった。

鋭い。鋭すぎる。

男性陣(マルスや騎士たち)は「口臭予防」や「虫歯予防」といった機能性だけで大満足していた。

だが、美を追求する女性陣の観察眼は甘くなかった。彼女たちは、太郎の歯が単に清潔なだけでなく、まるで発光しているかのように「白く輝いている」ことに気づいていたのだ。

「太郎様……。私達に隠しているもの、包み隠さず全てを出して下さいまし」

サリーがジリジリと距離を詰め、逃げ場をなくしていく。

「私達は、愛し合う夫婦ですもの。美しさの秘訣を自分だけ独り占めするなんて……そんな意地悪なこと、なさいませんよね?(ニッコリ)」

「(い、命の危険を感じる……! 極大魔法が飛んでくる!)」

太郎は完全に観念した。

ここで下手な嘘をついて隠し通そうとすれば、どんな恐ろしいお仕置きが待っているか分からない。

「わ、分かったよ! 降参だ! 出す! 出すから!」

太郎は震える手で空中にウィンドウを開き、自分用にこっそり隠し持っていたアイテムを取り出した。

「これだよ!」

ドンッ、とテーブルに置かれたのは二つのアイテム。

100円ショップのコスメコーナーの奥で売られている、

『高機能ホワイトニング歯磨き粉(ステイン除去・ポリリン酸配合)』と、

『薬用マウスウォッシュ(ホワイトニング・デンタルリンス)』だ。

「こっちは普通の歯磨き粉より研磨剤の質が良くて、歯の表面についた茶渋やワインの汚れ(ステイン)を浮かせて落とし、本来の白さに戻すんだ。そして、こっちの液体は口をゆすぐだけで、歯をコーティングして新たな汚れをつきにくくするんだよ」

太郎が必死に商品の説明を終えるか終えないかのうちに。

シュバッ!!

「キャッチ!」

サリーとライザの手が残像を残して伸び、二つのアイテムを電光石火の早業で奪取ぶんどった。

「それで良いんですよ、太郎様」

サリーは恍惚とした表情でパッケージ(『本来の白さへ!』『輝く笑顔!』という扇情的な煽り文句)を見つめた。

「話が早くて助かりますわ。紅茶やお茶を飲むと、どうしても歯の着色が気になっていましたの」

「えぇ。剣の稽古で食いしばる時も、やはり白い歯の方が美しく見えますものね」

ライザも満足げに頷き、マウスウォッシュの成分表(日本語なので読めないが)を熱心に確認している。

「これがあれば、私達の最強の美貌にさらに磨きがかかりますわね。行きましょう、サリー」

「えぇ、早速試してみましょう! 侍女たちにも自慢……いえ、教えてあげないと!」

目的を達成した二人は、太郎をあっさりと解放し、嵐のように部屋から去っていった。

太郎はへなへなと床に座り込み、深くため息をついた。

――翌日から、太郎国(特に王宮の女性エリア)で、かつてない規模の新たなブームが巻き起こった。

『ホワイトニング歯磨き粉』と『マウスウォッシュ』の生産(という名の、太郎による指が攣るほどの大量購入)が始まったのだ。

城の洗面所では、侍女や貴族の女性たちが手鏡に向かい、時間を忘れて念入りに歯を磨く姿が日常の風景となった。

騎士たちはフサフサの髪と爽やかな息を手に入れ、女性たちは輝く純白の歯と圧倒的な自信を手に入れた。

廊下ですれ違う人々が皆、キラーン! と星が飛ぶような効果音が鳴りそうなほど白い歯を見せて挨拶をしてくる。

「おはようございます! 太郎様!」(ニカッ! キラッ!)

「今日も良い天気ですね!」(キララッ!)

あまりに眩しい笑顔の連鎖。

強烈な太陽光が城中の人々の「白い歯」に反射して、目を開けていられないほどの眩しさだ。

「げ、芸能人は歯が命ってか……」

太郎は、100均で買った『黒のティアドロップ型サングラス』をかけながら、眩しそうに目を細めて呟いた。

太郎国の人々の美意識と衛生観念は、もはや周辺諸国を完全に置き去りにして、未来へと爆走し始めていた。

だが、この「圧倒的な美と衛生の進化」が、数日後に迫り来る未曾有の大規模侵略戦争において、『最強の非殺傷兵器』として猛威を振るうことになろうとは、サングラスをかけた国王を含め、まだ誰も知る由もなかったのである。

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