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第9話 近衛騎士の決意 ~醜の御盾の誓い~

“醜の御盾”の誓いは重いのに式次第は軽い足取りで進んだが、――なぜ、俺だけ呼ばれる?


王都ルミナリアの空は、冬の名残を残して澄みわたっていた。

 王城の中庭に、十人の若い騎士が整列する。今日は近衛騎士団の入隊式だ。


 近衛騎士は、ただの騎士じゃない。王家のいちばん近くに仕え、身も名も――光も影も――引き受ける。ゆえに席の多くは中央の有力貴族の子弟で埋まるのが常で、地方育ちが混じるのは珍しい。


 その列の端で、俺――アレン・アルフォードは、場違い感を背中で受け止めて立っていた。辺境の子爵家三男。宮廷の輪からは遠く、騎士学校では剣も座学も地道に積み上げただけ――それでも首席にはなった。


(……出世は夢のまた夢、だよな。運がよければ小隊長に紛れ込める程度)


 家督は長兄、予備に次兄。だから俺に残ったのは鍛えることだけ。

 騎士学校は首席。そこへ近衛から声――迷う理由は、ちゃんとあった。

 (中央の輪に混ざるとか、胃に悪い。けど“首席は近衛”の札を貼られて強行送致)

 逃げ切れなかった分、せめて剣で黙らせる。


「静粛に!」


 鋭い一声が中庭を切った。壇上の漆黒の外套――近衛騎士団長カシウス・ヴェルダン。巨躯の灰色の瞳が十人を一瞥しただけで、空気が引き締まる。


「王国ルミナリアの未来を担う者たちよ。本日より貴様らは栄誉ある近衛騎士団の一員である」


 低く、鋼の芯を持った声だ。


「――近衛は“醜の御盾”である。王家の身を護るだけでなく、その誉れも汚名も、光も影も、すべて己が身に引き受けてこそ、王国を支える盾となるのだ」


(“醜の御盾”……聞こえは立派。つまり泥水も飲めってことだよな)


「ここに【近衛五誓】を掲げる。胸に刻み、決して忘れるな」


一、身命を賭して王室を護り奉るべし

二、御心に背かず、御名を辱め奉ることなかれ

三、乱に臨みては影のごとく静かに、泡沫の禍にも動ぜず、秩序を護りて国を鎮むべし

四、私を滅し、報いを求めず、たとひ塵と化すとも泰然として仕うべし

五、剣は国のために抜き、盾は未来のために構えん


 宣誓の言葉が、中庭の石に澄んで響いた。


「我ら影は光を映さず。その勢を抑え、その道を導き、静かにこれを扶けん。尽忠の道は声なくして、心にして成るものなり」


 新任の十人が一斉に剣を掲げる。


「「「「「「――我が誓い、ここに!」」」」


 鋼の音が空を裂いた。胸の奥が熱くなる。幼いころ、遠い畑の風の中でぼんやり思い描いた日が、今ここにある。


(これが近衛……この手で王家を、王国を護る)


 ――だが、この日もうひとつ、思いもよらない任が降ってくる。


     ◇


 式がはね、人々の輪がほどけていく。その中で団長の声が俺を呼んだ。


「アレン・アルフォード、こちらへ」

「はっ」


 前に出ると、団長はしばし俺を見て、口元だけでわずかに笑った。


「アルフォード子爵家の三男か。地方出身者がここに立つのは珍しい。いや、異例と呼ぶべきだな」

「身に余る光栄と存じます」

(……ほとんど強制でしたけどね)


「中央の連中は血筋や序列を気にする。だが王国は広い。民の暮らしを知る者もまた必要だ。――貴様には、それがある」


 灰の瞳に、ためらいとも覚悟ともつかない揺れが走る。


「アレン・アルフォード。国王陛下のご下命により、貴様を“輔弼近衛ほひつこのえ”に任ずる」


 一瞬、肺が動くのを忘れた。


「……“輔弼近衛”と、申されましたか」

(なにそれ、初耳なんですが)


 辺境育ちの俺には聞き慣れない役名だ。騎士学校でも聞いた覚えがない。


「――近衛は〈侍衛じえい=剣〉〈典衛てんえい=盾〉〈輔弼ほひつ=秤〉に分かれる。立つ場所と務めが違う。お前は“秤”だ」

 

言葉の前に、団長はわずかに視線を落とした。その一拍に重みが宿る。


「これは王命である。拒否は許されん。……貴様なら、この任を果たせると信じている」


 胸の奥で何かが弾けた。辺境の三男坊に、そんな席が回ってくるなんて。


「……この上なき名誉、謹んで拝命いたします」


 柄を握る指先が震える。重さはある。だが、逃げる理由はもうない。団長が巻状の辞令を手渡す。


「王族は民の象徴だ。御方々の歩みを影にあって支えることは、王国そのものを支えることと同義と心得よ。貴様は、剣だけでなく“影”としても支えるのだ」

「はっ」

(影って、具体的に何やるんだろ……いや、今は飲み込め)


「所属は王宮だ。詳細は侍従長に尋ねよ」

「了解いたし……それは、近衛騎士でも“あっち側”に入る、という意味でしょうか」

「そうだ。近衛のうち“輔弼”は王宮に籍を置く。王族の歩みに寄り添い、その影として動く――それが務めだ」

「しかし――」

「これ以上の質問は許さん。アーガスト様がお待ちだ。急げ」


 ここで粘ると、さすがに団長の眉間に線が増える。俺は深く一礼し、踵を返した。無作法にならない速さで王宮へ向かう。


 背後で、団長が何かつぶやいた……気がする。聞き取れなかったけど、ろくでもない予感だけは届く。


 冷たい風が中庭を抜け、近衛騎士団旗が高く鳴った。

 若い影は、まだ知らない。これから先、自分の足が踏む場所が、ときに理不尽の矢面だということを。


挿絵(By みてみん)



お読みいただきありがとうございます。


【次話予告】

団長の視点で明かされる“選ぶ者の理”――要するに、俺は秤役に“選ばれてしまった側”。

誉れと罰が同じ箱に入ってて、鍵は理ってやつで施錠済み。

(……よくわからいが、何かの重さを測ればいいらしい)


次回の投稿は明日21時頃の予定です。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★

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