第7話 辺境三男は入学する(教師ラウレンス視点) ~歴史を体現する者~
「『将来の夢』なんて考えたこともない。今日生き延びることで精一杯なのに、先生はよくそんな質問できるなあ。」
歴史とは、過去を並べる棚ではない。
我ら史官の務めは、出来事を数えることではなく、理の所在を掘り当てることだ。
だが近年、学舎の空気は冷えきっている。
書庫は静まり返り、若者たちは「なぜ」を問わず、「正しい答え」だけを競う。
理を測ることを忘れた国は、いずれ理によって裁かれる――私はそう確信している。
今年の入学生の名簿に、ひとつ異色の名を見つけた。
『アレン・アルフォード』
辺境子爵家の三男であり、侯爵家の推薦枠で入学を許されたという。
この王立騎士学校は高位貴族の温室だ。
公爵や侯爵の子弟が当然のように列席し、理想を語り、戦を知らぬまま「剣」を飾りにしている。
そんな場所に、荒れ地の風をまとった少年が入る――それだけで、ひとつの事件だった。
◇
初講義の日、私はいつもの問いを投げた。
「歴史とは何か」
教室はすぐに声で満ちた。
「偉大なる王の歩みを記すもの」「秩序を伝える学問」――どれも正しいが、浅い。
その中で、ただ一人だけ、沈黙している生徒がいた。
沈黙は無知の印ではない。
彼は言葉を探しているのではなく、何を語れば本質から外れないかを考えていた。
その静けさは、辺境の風のように澄んでいた。
講義の終わり、私は黒板に一文を残した。
「歴史とは、均衡を失った者のために書かれるのではない。
均衡を思い出す者のために残されるのだ」
そのとき、教壇の下でひとり、小さく頷いた者がいた。
アレン・アルフォード。
侯爵の推薦よりも、あの沈黙のほうが雄弁だった。言葉を飾らず、考えようとする者がまだいる。
その事実だけで、私には十分だった。
次は武骨な教官の目から見た俺――“勝ちに行かず、崩れない動き”とか言われるやつ。
卒業前の面談で「辺境勤務でも」って言ったら、空気が少し凍る。
(老騎士の理は重い。たぶん、まだ肩に乗る)
次回は明日15:00投稿予定です。
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