第21話 輔弼近衛は御前に召される ~まだ心構えが……~
断りたい時ほど断れない。……それが近衛の日常。
翌朝――。
(……全然、寝れなかった)
あまりに質の良すぎるベッドは、かえって寝苦しく、緊張も加わって寝るどころの話ではなかった。
「チリンチリン」
廊下からベルの音が聴こえた。昨晩、女官長からきつく言いつけられたこともあって、俺はベッドから素早く起き出し、手早く着替えを済ませて朝食に出た。
軽く朝食を済ませてから詰め所にて待機していると侍従長がやってきた。
「王宮のベッドの寝心地はどうだったか」
「……お陰様でゆっくりと休めました」
「それは幸甚。だが、次からは顔に出ないように気をつけておくことだな」
侍従長は薄く笑みを浮かべて言った。どうやらお見通しらしい。
「準備はできているようだな。陛下がお待ちだ、急がねばならん」
「……はいっ?」
「貴殿は輔弼近衛であろう。その任を、陛下の親任をもって拝命せねばなるまい」
「騎士団長から言い渡されております」
「それは辞令にすぎぬであろう、親任が不可欠だ」
「……誰からですか?」
「よもや寝ぼけてはおるまいな?貴殿は王族の影として仕えるのだ、陛下からの親任に決まっているであろうに」
侍従長は俺の顔を眺めながら呆れたように言った。
かくして、俺は輔弼近衛として御前謁に臨むこととなったのである。
いや、「臨む」なんて悠長な表現は違う。実際は足が震えて、ほとんど引きずられていたのだ。
それはしょうがないことだと思う。いきなり「輔弼近衛として御前謁に臨む」と言われたのである。
(胃が死ぬ……。比喩じゃなくて、本気で死ぬ)
「アルフォード殿、深呼吸を。背筋は伸ばしたまま、肩の力を抜くのだ」
「は、はい……!」
……いや、無理だって。緊張で膝が笑ってるしな。
侍従長の合図とともに、荘厳な響きを立てて扉がゆっくりと開いた。
内に控えていた典儀官が静かに一歩を進め、
石床に杖を一度打ち鳴らし、場の気を鎮める。
玉座に向けて、澄んだ声が告げた。
「――アルフォード子爵家三男、アレン・アルフォード殿、御前に謁す!」
――その瞬間、空気が、一変した。
目の前に広がるのは、まさに異界。深紅の絨毯が玉座へとまっすぐ伸びている。その両脇には、高官や貴族たちがずらりと並んでいた。
玉座に威厳をたたえて座っているのは(たぶんだけど)国王レオニード三世陛下だろう。
すると、その隣で柔らかな微笑みをたたえているのは王妃陛下だろうか。さらに偉い方々と思われる貴族が脇を固めており、沈黙したまま、じろじろと俺を値踏みするように見ていた。
俺は玉座の間への道すがら侍従長から教わった通りに部屋の真ん中まで進んでから膝を折り、頭を垂れた。
「……」
沈黙がとてつもなく重いが、臣下が先に声を発することなど許されるわけがない。陛下が口を開かれるまで、ただ沈黙を守るのみだ。
荘厳な静寂ののち、やがて、玉座のほうから重い声が響いてきた。
「頭を上げよ、アラン・アルフォード」
「は、はい!」
(……名前、間違えてるよな?……えっ、俺のこと?)
恐る恐る顔を上げた瞬間、さまざまな視線が一斉に俺へ注がれた。
陛下は、なぜか縋るような期待を宿して俺を見つめているように見える。
王妃陛下の瞳は、母が子を見守るような慈愛でいっぱいだ。
……重臣たちは不憫そうな目で俺を見ている。
(……そんな目で見るなよ。泣くって、マジで)
「アルフォード」
陛下の声が、大地を貫くような威厳を帯びて広間を満たす。
「近衛騎士団長より聞いておろうが、汝を“輔弼近衛”として、王の親任をもって任ずる。汝は王族の剣にして盾。王族と政のはざまに立ち、秤のごとく理を量れ。己が身をもって王家を支え、民の声を我らに届けよ。――この重き務めを、受ける覚悟はあるか?」
「は、はい!命を賭してその任を拝命いたします」
(……ここで「ありません」なんて言えるわけないだろう)
声が裏返っているのがわかる、最悪だ。
しかしながら陛下は微動だにせず、まっすぐに俺を見つめておられる。
「よい、恥じるな。恐れを抱く者こそ、痛みに寄り添える。臆病な者こそが、民の嘆きを見落とさず権の暴走を戒める。――よく聞け、アラン・アルフォード。「輔弼とは、王族を支え、時に諫め、時に導く者の名にほかならぬ。王族に仕える者は、力と忠誠だけでは足らぬ。心弱き者がこの座に侍るとき、王は民に歩み寄ることを忘れぬのだ」
(……これ褒められてるのかな。いや、刺さって心がちょっと痛いけど、褒めてますよね?)
今回もお読みいただきありがとうございます。
次回は玉座前で“混乱”ってやつの本物を見る予定です、できれば見学だけで帰りたいんですが。
「お前を選んだ」って言われたのに名前を間違えられるとか。
礼は覚えた、呼吸も浅くした、なのに空気が重いのは仕様ですか。
――はい、逃げませんよ……たぶん。
次回は21時頃投稿の予定です。
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