The Trade
Music: Tyler Bates - See You in Hell
(セイヤーが黒域を訪れた、あの当時)
ヘリコプターが厚い雲層を抜けると、舷窓の外に紫白の電光が一瞬走った。
パイロットは反射的に機首を下げたかと思うと、正面から襲ってきた乱気流に機体が大きく揺さぶられた。遠方の黒域は濃い黒雲に覆われ、山脈の輪郭が時に現れ時に消える。山頂にはいくつかの廃墟となった建物が屹立し、まるで太古の力に無数の年月の間忘れ去られたかのようだ。
セイヤーは機内に座り、ゆっくり襟元を整えた。
ヘリコプターは最終的に荒涼とした石の台地に着陸した。
扉が開くと、冷たい風が雨を伴って流れ込んでくる。セイヤーは帽檐を押さえ、遠くの神殿の入り口を見上げた。
雷鳴が谷間を反響し、数本の稲妻がほぼ同時に遺跡全体を照らし出す。
セイヤーはしばらく眺めていたが、ふっと笑った。
「どうやらここは大いに賑やかだな」
側近たちは顔を見合わせ、誰も言葉を発しなかった。
セイヤーは身なりを整えると、振り向いて指示を下す。「お前たちは外に残れ。私の命令なしに、誰も神殿の中に入ってはならない」
「大統領、この天候はあまりに危険です。せめて二人ほど同行させてください」
「不要だ」
その答えは短く、断固としていた。
「ここはお前たちの来るべき場所ではない。ヘリコプターを守り、私の帰還を待て」
言い終えると、セイヤーは一人神殿の奥へ歩いていった。
屋根は残っておらず、中央の祭壇を囲むように石柱が林立している。
中央に近づくほど風は激しさを増す。雨が石段を叩き、細い水流となって亀裂を伝い、低地へと流れ落ちる。周囲に警備兵も、灯されたたいまつもない。ただ空を切る雷だけが、太古の石雕に束の間の光をもたらす。
セイヤーは神殿の中央まで進み、足を止めた。
ゆっくりとひざまずき、冷たく湿った石の面に両手をつき、頭を垂れる。
「偉大なる主よ、敬意をお受け取りください」
風の中で、その声は極めてか細く響いた。
「今回は慌ただしく参りましたので、生贄を用意できませんでした。無礼をお許しください。故意に怠慢したわけでは決してありません」
返ってきたのは、さらに狂暴化した風の音だけだった。
四方から風が神殿に吹き込み、枯れ葉や小石を巻き上げる。セイヤーの衣の裾は風でばたつくが、彼は立ち上がらず、静かに待ち続けた。
しばらくして、何かを理解したかのように彼は顔を上げた。
「ご安心ください。後日、もっと多くの生贄を持って参ります」
一瞬の間を置き、その口調は恭しく、熱意を帯びていく。
「今ではロゼッタの技術も進歩しました。クローン人間を製造できるため、昔のように苦労して病院に潜入し、乳児をこっそり連れ出す必要はありません。多くの子供たちを用意できます。必要な時にここへ連れてくることも可能です」
風が唐突に高まり、遠くの雷鳴さえかき消されそうになる。
その轟音の中から、発生源の定かではない重低音が響いた。
「セイヤー、お前は左側の民主アトランティス紅日国と、幼すぎる賭けをしたな?」
セイヤーの表情が一瞬硬直した。
「違います、主よ」
返答は速く、続いて慎重に補足する。「私は常にあなたに忠誠を尽くし、恩義を忘れたことはありません。ただ今は情勢が複雑なので、もし将来予期せぬ事態が起きた場合、状況を覆す機会が残されているかどうか、お伺いしたいだけです」
これ以上の説明はせず、自身が何を憂慮しているかも語らなかった。
神殿の風が一瞬静まった。
やがて、その声が再び響く。
「お前は確かに、これまで忠実だった」
セイヤーはほっと息をついた。
だが相手の次の一言が、彼の表情を再び凍らせる。
「だが私は、乳児を八つ裂きにして生贄にするよう、一度も命じてはいない」
セイヤーは頭を垂れ、すぐには答えない。
「私には完全な魂が必要なのだ、セイヤー。お前は、私がお前の裏でやったことを知らないとでも思っているのか?」
周囲の石柱が低い振動を発する。
「その乳児たちの臓器を、こっそり売って金を得ていたな?」
セイヤーの喉仏が動いた。
用意していた弁解の言葉が、一瞬で無意味に思えた。数秒の沈黙の後、ようやく口を開く。
「主よ、私の過ちです」
先ほどの余裕は、その声から消えていた。
「一時の貪欲から、許しがたい過ちを犯しました。今後このようなことは二度と起こさないと誓います。今後の生贄はすべて完全な状態であなたに捧げ、勝手に処分することは決してありません」
風が祭壇の中央で渦を巻き、地面の水たまりに細やかな輪紋が広がっていく。
「私がこれらの魂を何のために必要だと思う?」
セイヤーは首を振る。
「存じません、主よ」
「この小さな魂たちを、私の領域の中で完全に成長させるためだ」
その声はゆっくり、鮮明に響き、一語一語が遥かな深淵から届くようだった。
「彼らはそこで育ち、訓練を受け、やがて私の戦士となる。彼らはお前が金を得るための商品でも、勝手に切り分けられる部品でもない」
セイヤーは勢いよく顔を上げた。
捧げた乳児たちがどこへ行くのか、これまで真剣に考えたことはなかった。彼にとって生贄は力を得るための手段に過ぎず、報酬さえ得られるのなら過程は重要ではないと思っていた。
だが今、その主自らが目的を語ったのだ。
それらの魂は、一時の欲望を満たすために奪われたのではない。
別の領域へ運ばれ、本物の軍隊へと育て上げられる。
セイヤーの顔色は悪くなった。
「主よ、理解いたしました。今後は必ずあなたの要求通りに行動します。もう一度だけ機会をお与えください」
「私は元々、お前を支援し続けるつもりだった」
風が祭壇をゆっくりとなぞり、まるで無数の見えない存在が神殿の奥を徘徊しているかのようだ。
「ここ数年、私はお前のために多くのことをしてきた。覚えているか? かつてお前のヘカテ共和国は、世界の発展競争ランキングでかなり上位にいた。国がその機会を得られたのは、すべてお前自身の力量によるものではない」
セイヤーは頭を垂れる。
「あなたの助力を、一度も忘れたことはありません」
「だが私の可愛い子供たちが、最近訴えてくる」
あっさりとした口調だったが、それがセイヤーに一陣の寒気をもたらした。
「不完全なまま命を絶たれた子供たちだ」声は続ける。「彼らは自分に何が起きたのか知っている。お前が何をしたのかも知っている。もうお前のために隠そうとはしない」
セイヤーの呼吸が明らかに速くなる。
「主よ、どうか再考ください。ヘカテ共和国にはまだ成し遂げねばならないことがたくさんあります。私もずっとあなたの要求を履行し続けてきました。今助力を取り上げられれば、国全体が打撃を受けます」
「お前のヘカテ共和国は、分裂し崩れ落ちる」
神殿の外、稲妻が唐突に落ち、遠くの山を真っ白に照らし出す。
セイヤーは体を震わせた。
「お前と民主アトランティス紅日国の賭けについては、結果はまだ完全には確定していない。だが、お前が敗れる可能性は大きい」
セイヤーは体裁を保つ余裕もなく、慌てて半分ひざを進めた。
「主よ、どうかそのようなことを! あいつらはあなたを敬う心を持っていません。あなたの神聖な領域を冒涜する可能性さえあります。あなたの恩義を覚えているのは私だけです!」
声はますます切羽詰まっていく。
「もし助力を続けてくださるなら、過ちを必ず正します。完全な生贄を用意し、さらに多くの魂を捧げます。どうか私を信じてください。二度と裏切ることはありません!」
風はすぐには返事をしなかった。
セイヤーはひざまずいた姿勢を保ち、額を冷たい石の面にすれすれまで近づける。長い間待ち続け、膝に鈍い痛みが走り始めた頃、その声が再び響いた。
「私は長い間、お前を助けてきた、セイヤー」
「存じております」
「お前も理解しているはずだ。謝罪の一言で変えられない事柄もある。子供たちは自分の身に起きたことを私に語った。何もなかったことにはできない」
セイヤーは顔を上げ、初めて絶望に近い表情を浮かべた。
「もう挽回の余地は、本当にないのでしょうか」
「この件に関しては、難しい」
風の音は穏やかになったが、優しくなったわけではない。
「ただ、それ以外の面では、私はまだお前の願いを一つだけ叶えてやることができる」
セイヤーは数秒沈黙した。
瞳の中の恐怖がゆっくり消え、代わりに冷酷とも言える冷静な表情が宿る。失ったものは取り戻せないのなら、新たな保証を勝ち取らねばならないと悟ったのだ。
「では、一つ願いがあります」
背筋を伸ばし、かつての威厳を幾分取り戻す。
「ヘカテ共和国が最終的にどうなろうとも、私が無事に逃れられるようにしてください。もし私が敗北した場合、南米へ行って軍需産業を営み、再び力を蓄え、再起の機会をうかがいます。私は元々革命闘争の中から生まれた人間です。一度の敗北で完全に倒れることはありません」
風が祭壇の周囲をゆっくり旋回する。
セイヤーは続ける。「それに、将来私のヘカテ共和国を奪った者が誰であろうと、その者に安らぎを与えないでください。その者の精神を混乱させ、永遠に真の平穏を得られないように。すべてを失う苦しみを、自ら味わわせたい」
今回、神殿からの返答は速かった。
「よい」
セイヤーの緊張した肩が少し緩む。
「お前の願い、聞き届けた」
稲妻が空を走り、うつむいたセイヤーの顔を照らす。彼はすぐには立ち上がらず、もう一度身を屈め、誰もいない祭壇に深く叩頭した。
「お許しを賜り、感謝いたします、主よ」
風はそれ以上語らなかった。
セイヤーはその場にひざまずいたまま、雷鳴が遠ざかるのを待ってから、ゆっくり立ち上がった。雨に濡れた襟元を整え、膝の埃を払い、落ち着いたいつもの姿に戻る。
それから振り向き、露天の神殿を一人で歩き出した。
遠くではヘリコプターがそのまま停まり、側近たちが風除けの場所で彼を待っている。
この秘密の会談で何が語られたのか、誰も知らない。
セイヤーも誰にも説明するつもりはなかった。
彼は重く曇った空を一瞥すると、ヘリコプターへ向かって歩き出す。
背後では黒域の風が再び鳴り、空っぽの石柱をなぞる。まるでこの古い神殿に、訪問者など一度も現れなかったかのように。




