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死亡フラグは序盤からやってくる ⑥

 まったく知った通りの展開だ。この偵察の最後に彼が立ち塞がるのは、ゲームにおいても100%発生するイベントだったか。

 予測したことであっても、できれば会いたくなかった相手であることは間違いない。カーティスと同時に隠しの魔法を解いたネージュは、ますます笑みを深めた青年に注意深い視線を送る。


「おいおい、アドラス騎士団長閣下じゃねえか。今日の俺は運がいいなあ」


 イシドロは青灰色の三白眼で最強の称号を欲しいままにする男を見つめていた。ネージュのことなど意識の外と言った態度だが、彼の目的を考えればそれも道理だ。


「久しぶりだね、イシドロ。春の馬上槍試合以来かな」

「あんときゃしてやられたなあ。いつものことだがあんたは痺れる強さだった」


 カーティスがいつもの微笑を絶やさないまま言葉を返すと、その相手もまた面白そうに笑みを深めた。

 そう、王立騎士団と黒豹騎士団は顔見知りの間柄なのだ。

 各領主の持つ騎士団と王立騎士団は有事の際は協力関係を結ぶものだが、その中でも黒豹騎士団は最も頼りになる存在。それはネージュにとっても同じことだったし、平騎士にしてみても変わりはないだろう。

 だからこそこの政争は残酷さを増す。知った顔同士で命を賭けた争いを繰り広げるという悲劇、それがこの先ずっと続くのだから。


「今日も単独行動かい」

「そりゃそうさ。俺はボス以外に従う気はねえからな」


 イシドロは確か二十四歳なのだが、スラム育ちで子供の頃にマクシミリアンに拾われたという過去を持つ。浴室の前にいたのは偶然だが、偵察隊の存在に気が付いたのは彼自身の野生の勘によるものだ。


「抜けよ、団長殿。俺を倒せたらここを通してやる」


 彼が黒豹騎士団で随一の力を持ちながら第四位の座に甘んじているのは、戦闘以外に興味がないという人格破綻者ぶりに原因がある。

 マクシミリアンの命令こそ聞くものの、それ以外は馬の耳に念仏。三度の飯より戦闘訓練を優先し、戦いを求めて一人ふらついているらしい。

 そんなイシドロは王立騎士団長と出くわしたことにより、歓喜を押し隠すような顔で笑っている。


「本当に相変わらずだね。私と戦うために、仲間を呼ぶ気も無しか」

「当たり前だろ。雑魚に邪魔されてたまるかよ」


 それぞれに笑みを浮かべて相対する男たちを前に、ネージュは何も口を挟むことができなかった。

 一人なら別の脱出経路を模索するつもりだったのだが、何の因果かカーティスもまた浴室の出口を選んでしまったのだ。とは言え彼の実力なら負けることはあり得ない。

 緊張に固めた拳に力を加えたのと同時、強者同士の戦いの火蓋が切られた。

 狭く薄暗い通路においては剣の交わる度に飛び散る火花が一際映える。魔法を使ったら察知される可能性が高いため、剣技のみの勝負がネージュの眼前で繰り広げられていた。

 カーティスが構えるのは商人が護身用に携える細身の剣。しかし彼は得意の獲物を持ったイシドロ相手に一歩も引かず、爽やかな笑みすら浮かべている。


「あはははは! 楽しいなア、団長殿ォ!」

「そうかそうか、良かったね」


 対するイシドロは心底楽しそうに最強の騎士と切り結んでいた。繰り出した突きを逸らされ、横薙ぎの一撃を躱されようとも、青灰色の瞳はますます輝きを増していく。

 それは嫉妬心すら覚える光景だった。カーティスの実力にではない。彼と一応でも対等に渡り合える力を持ったイシドロにだ。


 ——いいな。私では稽古相手すら務まらないのに。


 ネージュもネージュで剣術馬鹿なのだ。面白くない思いを抱きながら、彼らの邪魔にならないよう身を小さくしておく。

 勝負が動いたのはその時のことだった。

 イシドロのサーベルがカーティスの眉間に迫る。しかしその剣戟は半身の捻りで躱され、突きを繰り出した脇がガラ空きになる。

 その隙を見逃さなかったカーティスが、サーベルを持つ手を蹴り上げた。それでも獲物を手放さなかったイシドロだが、大きく軌道を逸らされたことは失敗だった。

 サーベルに削られたレンガが悲鳴をあげる。ネージュがその不協和音に身をすくませているうちに、カーティスの踵がイシドロの鳩尾を直撃していた。

 男が倒れる重い音が勝負の決着を告げる。イシドロは完全に意識を飛ばして、大の字になってひっくり返っていた。

 本当に見事としか言いようのない勝ち方だ。カーティスは物慣れた動作で剣を鞘に収めて、そのまま出口へと歩き出した。


「……止めを刺さないのですか?」

「こちらは今のところ人的被害無しだからね。彼を殺そうが殺すまいが偵察隊の存在は知られてしまう。それなら政治的優位を狙った方がいい」


 つまりはこちらから先に一線を踏み越えるのはまずいと言うわけなのだ。

 あちらが乗り込んできたからこちらも乗り込んだ。あちらが殴ってきたからこちらも殴った。女王陣営には一切非の無い謀反劇にするために、そうした大義名分が必要になる。

 色々な苦労を背負っているというのに柔らかな微笑は揺らぐ気配がない。騎士団長の強かさと冷静さに驚きつつ、ネージュは曖昧に頷いた。


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