第241話「結婚記念日」
十周年の式典から数日後、私たちの結婚記念日を迎えた。
「今日は、特別な日ですね」
朝、私がそう言うと、カイルは静かに微笑んだ。
「ああ。……もう、何年になるだろうな」
「数えるのも、忘れてしまいました」
私が笑うと、カイルも小さく笑った。
その日の夕方、カイルが珍しく、私を薬草園の丘へと誘った。
「あの日と、同じ場所ですね」
私がそう言うと、カイルは頷いた。
「ああ。……ここで、お前と初めて二人だけの時間を過ごした」
丘の上からは、薬草園と村の全景が見渡せた。
その景色は、あの頃よりも、ずっと豊かなものになっていた。
「随分と、変わりましたね」
私がそう呟くと、カイルは静かに頷いた。
「お前と出会って、俺の人生は、まるで違うものになった」
その言葉に、私は胸が温かくなった。
「私もです。……あなたと出会わなければ、今の私はいません」
私がそう答えると、カイルはそっと私の手を握った。
「これからも、ずっと一緒にいてくれるか」
「はい。……当然です」
その約束に、私たちは静かに微笑み合った。
少し離れた場所で、フェンが穏やかに座っていた。
「邪魔をするつもりはないが」
フェンがそう言いながら、静かに近づいてきた。
「この景色を見ると、色々なことを思い出す」
「私もです。……あなたに出会ったあの日から、すべてが始まりました」
私がそう言うと、フェンは満足げに目を細めた。
「良い人生だったな」
その言葉に、私は少し驚いて、それから静かに笑った。
「まだ、終わってはいませんよ」
「そうだったな。……まだまだ、これからだ」
夕暮れの光が、私たち三人を、あたたかく包んでいた。
過去も、今も、そしてこれからも。
この繋がりが、変わらず続いていくことを、私は静かに願った。
星が瞬き始めた夜空の下、私たちはしばらく、言葉もなく寄り添っていた。
(第242話へ続く)




