表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/28

第六話 乱入してきた鬼人


 キラキラと天窓からガラスの破片が降って来る。

 ミツバは反射的にぎゅっと目を瞑ったが――どれだけ待っても破片が身体に当たる感触はない。

 あれ、と思って目を開くと、ミツバとソウジの周囲に半透明の光の幕が張られていた。


「ミツバさん、大丈夫ですか?」


 ソウジは軽く右手を挙げた態勢で、ミツバにそう聞いてくれた。どうやら彼が破片から庇ってくれたらしい。

 漫画やアニメでよく描かれている魔法みたい。そんな事を思いながら、ミツバは「はい」と頷いた。


「ありがとうございます、おかげさまで怪我は何一つ。……これがその、鬼人の力という奴ですか?」

「ええ、十和田が一番得意とする守りの術です。ミツバさんのおかげで、久しぶりに調子が良いです」


 そう言ってソウジはにこりと微笑んだ。嬉しそうなので何よりである。


「……さて」


 それからソウジはそう呟くと、ミツバに向けていた目とは一転して冷えたそれを、上から落下してきた何者かに向ける。

 その人物はミツバ達のテーブルから少し離れた位置に着地していた。

 長い赤毛を後ろで一つに結び、額から角を生やした鬼人だ。年齢はミツバ達より少し上くらいだろうか。

 見ていると、ソウジが一度ため息を吐く。


「ずいぶん乱暴な登場の仕方ですが、僕達に何かご用ですか? ――賀東レンジ君」

「ハッ、相変わらずひょろっこいな、十和田ソウジ。珍しく術が暴走しねーじゃねーか」


 ソウジが名を呼ぶと、その鬼人はニヤリと笑う。

 どうやら二人は知り合いのようだ。


「ソウジ君のお友達ですか?」

「お友達というのとは少し違いますが、十和田(うち)を目の敵にしている賀東家の鬼人ですよ」

「あらまぁ……祓い屋さんって、プライベートでも大変ですねぇ」


 ミツバが感想を口にすると、ソウジは苦笑した。

 そんなやり取りをしていると、レンジと呼ばれた鬼人は不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「ハ、女の子と喫茶店デートたぁ、良い御身分じゃねぇか! ああん?」


 しかもすごまれてしまった。


(何かヤンキーみたいな人だな)


 レンジみたいなタイプは今までミツバの周囲にはいなかった。なので新鮮だなぁと、少々場違いな感想を抱く。

 せっかくなのでミツバは相手を観察してみる事にした。もっとも、そういう状況でもない気はするが。


「僕に喧嘩を売りに来たなら場所を考えていただきたいですね」

「お前こそ、よくこんな目立つ場所で女の子とデート出来たもんだな! 吾妻と婚約するってのによ! この女の子の敵が!」

「…………?」


 するとレンジがそんな事を言い出した。

 ミツバとソウジは揃って首を軽く傾げる。

 何か微妙に勘違いされている気がしたからだ。


「確かに吾妻家の方と婚約はしますが、それと何の関係が……?」

「あるに決まってんだろーが! ツバキと婚約するんだろ! なのに別の女の子とデートしてんじゃねーよ!」

「いや、ツバキさんとはしませんよ」

「ああん!? 吾妻と婚約するってんなら、ツバキしかいねーじゃねーか! 嘘吐くな! 不誠実過ぎるだろ!」


 レンジは腰に手を当てて、ツバが飛びそうな勢いでそう怒鳴った。

 なるほど、とミツバは理解する。

 どうやらレンジはソウジがツバキと婚約すると勘違いしてやって来たようだ。

 しかしこの場にはツバキはいない。だからソウジが別の女性(ミツバ)とデートしていると思って腹を立てているようだ。

 勘違いして大暴れされるのは迷惑だが、意外と良い人なのかもしれない。

 そんな事を思いながら、ミツバは右手を軽く挙げた。


「あの~」

「何だ、お嬢ちゃん」

「初めまして、吾妻ミツバと申します。十和田ソウジさんと婚約する予定なのは私です」

「え?」


 そして名乗ると、レンジがポカンとした顔になる。


「……吾妻の? 全然ツバキと似てねーな?」

「あ、はい。養子です。ツバキ姉さんの義妹です」

「……十和田ソウジと婚約する話が出てるの、お前?」

「はい」

「…………マジで?」


 たっぷり間を空けて、レンジは再度聞いて来る。

 ミツバはこくりと頷いて返した。

 とたんに、サァ、とレンジの顔が青褪める。

 人の顔とはこんなに一気に色が変わるのだなとミツバは目を丸くした。


 その時。


「――――さて、ご理解されたようで何よりですよ、賀東レンジさん?」


 直ぐ近くから『月猫』のマスターの声が聞こえて来た。ヒッ、とレンジの小さい悲鳴が聞こえる。

 心なしか冷え冷えとした空気まで感じる。

 怖いもの見たさでミツバがちらりと声をの方を向くと、カオルがとても良い笑顔を浮かべていた。

 ただ、その目はまったく笑っていなかったが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ