第二十四話 協力者
協力してくれそうな人を思い浮かべて、ミツバ達の頭にまず浮かんできたのがツバキとレンジだった。
直ぐに連絡を取ると、二人はあっと言う間に駆けつけてきてくれる。一緒にどこかで会ったのかコウもいた。
そして広がっていた光景を見て、話を聞いて、
「ばっっっっかじゃないの!?」
「ばっっっっかじゃねーの!?」
ツバキとレンジはサクヤを怒鳴った。まぁ気持ちはよく分かる。
コウだけは何と反応をして良いのか困惑した顔になっていたが。
「あ~ははは……否定できなーい」
サクヤは両手を胸の前まで上げて「どうどう」と言わんばかりのポーズを取っている。
猛獣扱いかぁ、なんてミツバの隣でソウジが呟いていた。
幸いな事に怒っているツバキ達にはその声は聞こえていない様子だ。
「何軽くふざけてんのよ。あ~も~、すっごい面倒な事起こる奴じゃない!」
「つーかよー、根回ししねーの、こういうの? まぁ、祓い屋のじーさん達はあんまり聞かなそうだけどよぉ」
ツバキとレンジの言葉に、サクヤは目を瞬いた後、
「こういう反応が普通だよねぇ……」
ちらりと一瞬ミツバ達の方を見てから、ホッとした様子でそう言った。
するとツバキが怪訝そうな顔になる。
「何ちょっと落ち着く~みたいな感じになってんのよ」
「いや、ミツバ君とソウジ君の反応がさぁ」
「何ちゃっかりあたしの妹を名前で呼んでんのよ」
「ツバキ君ちょっと面倒くさいな……」
「あんたに言われたくないのよっ!」
ツバキはそこまで言うと、ハァ、とため息を吐いた。
そして、そこで会話が途切れると、後ろで話を聞いていたコウがおずおずと手を挙げる。
「……その、力が不安定になるのは、本当に治るのだろうか?」
「断言は出来ないけどね。ただ、その可能性は高いと思っているよ」
「そうか……。それならば私は協力する。その後も手を貸すよ。たぶん両親の説得も問題ないと思う」
コウは嬉しそうにそう言った。
妹の力が不安定である事をずっと心配していた彼にとっては、ある意味で朗報だったのだろう。
それが解決できるのならばと、コウはしっかり頷いて協力を約束してくれる。
そんな彼の言葉を聞いて、ツバキはもう一度ため息を吐くと腕を組み、
「……あたしだって手を貸すわよ。ミツバを助けてくれた人がいるんでしょ? なら、お礼しないとじゃない。姉として!」
と言った。ミツバが「姉さん……!」と感動の面持ちで彼女を見ていると、
「ツバキがやるなら俺もやるわ。まー、確かに祓い屋の数少ないのは気になってたしさ」
レンジも軽く手を挙げてそう言う。
これで協力者は三人だ。人数が増えると安心感も増すというものである。
だが、逆にサクヤはポカンとした顔になった。
「…………」
「サクヤ先輩、どうしました?」
「いや……意外とすんなり協力してくれる事に驚いている……」
そしてそんな事を言った。
確かに彼の心情も分からないではない。
こんな大事を起したのだ。反発される事は必須だし、罵倒も、それ以上の事も覚悟で行動していたはずである。
それがどういうわけか、立て続けに味方になってくえるのだから、想定外過ぎたのだろう。
「別にすんなりってわけじゃないわ。こっちは正直、葛藤が凄いわよ。……でもね、そりゃそうよ。こんな話聞いちゃったら放っとけないじゃない。それに自分達で出来る事は自分達でするべきよ」
「ああ。俺だって歴史の本で読んで知っていたけどさ、四百年前の話だろ? それが今も続いているだなんて、思ってもみなかったんだよ。そりゃさすがに頼り過ぎだって」
ツバキとレンジはそうも続けた。
知識としてはあったが、それが過去の話ではなく今の話である事に、色々と思う所があったらしい。
サクヤは目を軽く見開いて「……そっか」と嬉しそうに笑った。自然な表情だ。たぶんサクヤにとての素の顔は、こちらの方なんだろうなとミツバは思う。
「……それでよ、今後どう動く?」
「とりあえず、サクヤさんが糸を切っている間に十和田と、吾妻、賀東、御堂の当主の説得ですね」
「この辺りの主力の子供が集まってるのは良かったわ。森川は当主が交代になったばかりだし」
「ええ。糸が切れて自由に動けるようになった者も大勢いるでしょうから、本当に時間の勝負ですよ」
そんな話をしながらミツバ達は作戦を練っていく。
まずは自分達の家族からだ。
◇ ◇ ◇
ミツバ達が連絡をすると、吾妻家のスギノとキキョウ、それから十和田家のハジメが真っ先にやって来た。
三人は薄桜神社の光景を見て驚いていたものの、事情を話すと理解を示してくれた。
ただ、その交渉材料として『失敗した場合はミツバが幽世へ行く』と言う話をすると、彼らは苦し気な顔になる。
「……なるほど、そういう方向で持って行くのか」
「はい、お父様、お母様」
「そう。……ごめんなさいね。言い訳になってしまうけれど、あなたを引き取ったのは本当に、そういう事ではないのよ」
「私達は……ツバキの手をずっと握っていてくれたお前の心が嬉しくて。そしてその目が――寂しそうで。放っておきたくないと思ったのだ」
キキョウとスギノはそう言った。
ミツバは軽く目を見開いた。そして同時に、ああ、そうだったんだ、とミツバは思った。
『天秤体質は神坂ミコトに何かあった場合の交代人員』という予想は、あながち間違いではないようだ。
そして二人もそれは知っていた。
その事にミツバは落胆はしない。そうじゃないと分かるくらいの愛情を、二人から感じていたからだ。
それはスギノ達の今の言葉でも分かる。
幼い頃にツバキを助けた時、ミツバは彼女達家族が羨ましいと思って見ていた。寂しさも感じていた。二人はその気持ちを察してくれていたのだ。
何だか胸が熱くなった。
なので、
「ええ、分かっています、お母様。お父様やお母様、ツバキ姉さんが私を愛してくれている事は、その――すごく照れますけれど、分かりますから」
「そ、そうか……!」
「ミツバ……!」
少し照れながらそう言うと、スギノとキキョウが泣きそうな顔でミツバに抱き着いて来た。
そのまま、ぎゅうぎゅう、と力いっぱいに抱きしめられる。ちょっと苦しい。
それを見てハジメくつくつと笑った。
「しっかし、祓い屋の上役を説得するのはなかなか難しいな。最悪、祓い屋自体が二つに割れるぞ?」
それから真面目な顔になり、そう続ける。
ミツバも以前からぽつぽつと、そんな話をソウジやサクヤから聞いていた。
祓い屋の仕事をしているハジメが言うのだから、やはり厄介な話なのだろう。
スギノも名残惜しそうにミツバから手を離すと頷く。
「そもそも状況としては最悪だがな。だが案としては、ミツバの幽世行き以外に関してはとても興味がある。邪気の増加はだいぶ不安要素だが、祓い屋の枠を増やすというのは魅力的だ」
「ええ、そうですね。そもそも何のために学校で選択コースが出来たと思っているんです。なのに自分達の小さなプライドのために、合格枠を全く増やそうとしない」
「そうだとも。おかげで私は出張が多く、妻と娘達が待つ家になかなか帰れない!」
キキョウの言葉にスギノは力強くそう言った。声に若干怨嗟の色が混じてっている。
――今の言い様だと、後者の理由の比重が大きいのではないか?
その場にいたほぼ全員がそう思っているのを感じ取ったミツバが、
「お父様、本音が漏れています」
と言うと、
「本音は漏らすものだ」
「まったく、お父様ったら……」
スギノは胸を張ってそう答え、ツバキが苦笑した。
◇ ◇ ◇
そんな吾妻家の者達を見て、少し離れた場所でサクヤが羨ましそうに笑う。
「いや、仲が良いなぁ。うちとは大違いだ」
「ああ……森川さん、厳しい方でしたよね」
ソウジが思い出すように言った。
「厳しいと言うか、単に世間体を気にしているだけだよ。あの人はいつだって人の目と自分のプライドが大事なのさ。現にヒメカをあっさり切り捨てた」
「原因はサクヤさんですが?」
「うん、分かってる。……十和田の守りの術の腕は素晴らしかったからね。何とか吾妻から引き離したくて、幼いヒメカに色々吹き込んで、ソウジ君とくっつけようとしたんだよ」
「あー……そちらが先でしたか」
それを聞いてソウジが嫌そうに僅かに顔をしかめた。
ヒメカの恋心が暴走して――と思っていたが、どうやら元凶は父親らしい。
少し複雑そうなソウジに、サクヤは苦笑する。
「そう。まぁボクが見た限り、合わないだろうなと思っていた」
「そうですね。僕は……ミツバさんが良いです。結婚して、家族になるならミツバさんが良い」
「うん。合いそうだなって思った。……似ているからかな」
こくり、とサクヤは頷いて、ミツバを見る。
誰に、とはソウジは聞かなかった。ミコトの事だろうと思ったからだ。
サクヤはそれからソウジへ顔を戻す。
「糸を切った。力もそうだけど、鬼人が持っていた今までの異常な執着心も消える」
「え?」
「あれはね、術の副作用なんだ」
だから、とサクヤは人差し指をソウジの心臓に向ける。
「君のそれは本物だ。大事にするといい」
そしてにこりと笑った。




