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鬼人の養子になりまして~天秤の娘と鬼人の婚約者~  作者: 石動なつめ


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序話 吾妻家の家族達


 恋も愛も分からない。

 何故ならミツバは幼い頃、そんなものとは無縁の世界を生きていたからだ。


「あなた、私達みたいなのが親でかわいそうね」

「そこだけは同意するよ。本当に、かわいそうだ」


 一度だけ、ミツバは両親からそう言われたことがある。


 ――どうして?


 ミツバは不思議に思って首を傾げた。

 その時、両親が何でそんなことを言ったのかミツバには分からなかった。

 けれどもしばらくして、両親が離婚したことでミツバは、二人の言葉の意味を理解する。


 二人はこう言いたかったのだ。

 お前は愛されなくてかわいそう、と。



     ◇   ◇   ◇



 ミツバは両親から『いらない』と捨てられた子だった。


 彼女の両親はあまり仲が良くなかった。その結果お互いに浮気をし、それが原因で離婚。しかも最低なことに、子供(ミツバ)の引き取りをどちらも拒否したのである。


 そのためミツバは、両親の離婚後にそのままスッと児童養護施設へと預けられた。

 当時ミツバは七歳だった。歳のわりには大人びて落ち着いていたけれど、それでも最初にその話を聞いた時は、すぐに信じられないくらいとてもショックだった。


「もしかしたら全部が嘘で、お父さんやお母さんがそのうち迎えに来てくれるかもしれない」


 幼いミツバはそう思いながら、来るはずのない両親をずっと待っていた。

 施設の窓際に座って、来る日も来る日も、迎えに来るはずのない両親を待っていた。そうして二か月が過ぎてようやく――ようやくミツバは、自分が捨てられたのだと理解したのだった。


 それからしばらく経った頃。十二歳になったミツバは、とある家に引き取られることになる。その家の名前は吾妻家――祓い屋として有名な鬼人の家である。


「――ちょっとミツバ! あなた、いつまでそんな恰好をしているのよ!」


 ミツバが食事の準備を終え、台所で後片付けをしていると、そこへ義姉のツバキが怒りながらやって来た。

 艶のある長い黒髪を揺らした彼女は、腰に手を当ててジロリとミツバを睨む。彼女の頭には鬼人の特徴である二本の角が生えていた。


「そんな恰好?」


 ミツバは首を傾げて訊き返す。そして、そこまでおかしな恰好をしていただろうかと、自分の体を見下ろした。

 着ているのは割烹着だ。その下にいつもの普段着を身に着けている。

 ラフな装いではあるものの、人前に出ても特に恥ずかしくはない程度のものだ。だから怒られるほどでもないようなとミツバが思っていると、


「ああ、もう! もうすぐお父様が帰ってらっしゃるのよ? 早く支度してきなさい!」


 ツバキはミツバへ指をびしりと突きつけて、早口でまくし立てる。


(あっ、なるほど。そういうことね)


 義姉の言わんとしていることを理解して、ミツバは内心そうつぶやいた。


 彼女の言った通り、今日は長らく出張へ行っていたミツバの義父が、しばらくぶりに帰って来る日である。だからちょっとしたパーティーを開こうと、皆で相談していたのだ。


 そしてミツバの担当は料理だった。義父の好きなものをたくさん用意しようと、気合を入れて作っていたところ、少々時間が掛かってしまったようだ。

 時計を見れば、もうそろそろ予定の時間である。


 ツバキの言った支度もそのためだ。ツバキと義母から綺麗な装いで出迎えるわよと言われていたのである。

 しかし、さすがにそんな恰好では料理がし難かったので、終わったら着替えようとミツバは思っていたのだが――これはうっかりしていた。義姉怒るのも無理はない。


「ごめんなさい、ツバキ姉さん。すぐに着替えるわ。呼びに来てくれてありがとう」

「うっ」


 ミツバがお礼を言うと、ツバキは顔を真っ赤にした。それからもごもごと口籠る。彼女はそのまま、うーうーと唸っていたが、


「…………あっあなた、何を着るか分かっているんでしょうね?」


 やがて絞り出すような声でそう言った。

 ――義姉さん、可愛い。

 しかし言葉に出したらこの義姉は拗ねてしまう。だからミツバは黙って、ふふっと微笑(わら)う。


「ええ。姉さんと母さんが譲ってくれた着物よね」


 ミツバの言葉にツバキはパッと表情を明るくする。


「そ、そうよ! 私のお古! お古なのよ!」


 ――などと言っているが、実際そうではないことをミツバは知っている。

 この桜のデザインが美しい着物、サイズはミツバの体にぴったりだし、ピカピカだし、ひと目見た時から絶対にお古でないことは分かった。


 けれどもツバキが頑なに「私のお古よ!」と言っているので、表向きにはそう受け取ることにしている。


(本当に姉さんは可愛いなぁ)


 ミツバがほのぼのとそう思っていると、ツバキから「……あなた、一人で着れるの?」と訊ねられた。うずうずした義姉の様子を見て、彼女が何を言わんとしているか察したミツバは軽く首を横に振ってみせる。


「まだ自信がないの。……姉さん、手伝ってくれない?」

「!! しっ、仕方ないわね! あなたがみっともない姿なんて、うちの恥だもの! 私がきちんと仕上げてあげるわ! 感謝しなさいよ!」

「ありがとう、姉さん。嬉しい」

「あう」


 お礼を言えば、ミツバはさらに顔を真っ赤にして黙ってしまった。

 それが可愛くてミツバも笑顔になる。


 ――鬼人である我妻家に引き取られて三年。

 ミツバの新しい家族は、皆揃ってどこかツンツンしているところがあるが、根はとてもやさしくて可愛い。それがミツバにとってはとても自慢だった。


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