転生記録23
「はあ、まさかあっちの世界から来ていた人がいたなんてな・・・・」
トレアの森を歩いていた彼女はそう言うと深いため息をついた。
彼女の名前は谷口 利理。
利理は幼い頃、8歳の時に日本からこちらの世界へと転生してきていた。
しかし、利理は剣人のようにこちらの世界に来ても元の世界に帰りたいとは思わなかった。
利理が産まれたのはとある一家、谷口家の自宅だった。利理の家庭は決して裕福とは言えず、むしろ超が付くほどの貧乏と言ってよかった。
産婦人科に行くお金も無く、自宅で利理は産み落とされた。
もちろん、最初こそ可愛がられてはいたが、ボロボロの衣服しか着させてもらえず、食事もほとんど与えられなかった。
父親は酒に溺れ、母親はギャンブルにハマり、利理の食事も一日に一回、与えられれば良いほうで、酷いときには十日くらい何も食べていなくてもおかしくない状態だった。
そのため、利理は記憶にある中で両親に愛された記憶は無く、この世界に来ても両親の元に帰りたいなど微塵も思わなかった。
もちろん、最初は困惑していた。しかし、利理にとってそれは見知らぬ場所に来た、くらいのことで、どこか寝泊まりする場所と食事さえあれば何でも良かった。
利理が転移した場所は剣人の時とは違い、街の中へと転移したのでいきなりモンスターに襲われる心配はなかった。
街をさまよっていた利理は一人の老人と出会った。
彼は一人でさまよっていた利理を心配し、家へと連れてってくれた。
利理はそこで生まれて初めて食べたと言っても過言ではない、温かいご飯を食べることができた。
彼は一流の冒険者で利理のことをとても大切にしてくれた。
ある日、彼は利理に対してあることを聴いた。
「ワシの寿命はあと少ししかない。ワシがお前のためにしてやれることはもうほとんどないじゃろう。次はお前が自分自身の力で生きていかなければならないかもしれぬ。お前はどうしたい?望む生き方があるのならワシがなんとか協力しよう。」
このとき、利理は彼に言ったことは今日までしっかりと覚えていた。
「じゃあ、私は、お爺さんみたいに生きます。私を助けてくれたお爺さんみたいに・・・・。」
彼はギルドの登録に付き合ってくれ、利理は冒険者として生きることとなった。
利理と出会って半年後に、お爺さんは亡くなった。利理はその時から一人で冒険者として生きることとなった。
利理は冒険者育成学校には通っていなかったが、独学で着実にモンスターと戦う力を身につけ、9年の間ずっと一人で旅を続けていた。
「・・・・はあ、こんなときに昔のことを思い出すなんて。嫌な感じ。」
「キャーー!!」
その時、森の奥から悲鳴が聞こえた。
「・・・・何?」
利理は急いで森の奥へと駆けていく。
そこには、ゴブリンがたくさんいた。悲鳴の主はこのゴブリンたちに襲われているのだろう。
ゴブリンは利理の姿が目に入ると一斉に襲い掛かってきた。
「グアアアア!!」
「・・・・悪いけど」
利理は剣を構えると一気に踏み出し、ゴブリンの群れを切り飛ばした。
「グエアアア!!!」
「・・・・長々と戦っている暇はないんでね。」
利理の斬撃によって辺りのゴブリンの大半が蹴散らされた。それを見た残りのゴブリンたちは逃走を開始する。
「逃げるつもりか?・・・・させない!」
ー{飛空斬}ー
利理はスキルの飛空斬を発動させて遠くのゴブリンを捌いた。
「悲鳴の主は何処に?・・・・。」
その時、奥の方からズシンズシンと大きな足音が響いた。よく見ると女の子が一人、ミノタウロスから逃げ回っているように見える。
女の子は岩陰に追い込まれて逃げ場を無くした。そこにミノタウロスが詰め寄り、斧を振り上げる。
「ひ、ひい、た、助けて・・・・」
「グオオオオ!!」
「はあっ!」
ミノタウロスの斧が少女に振り下ろされる前に利理は斧の持ち手のところに斬撃を入れ斧の軌道を反らせる。
「早く逃げて!」
「は、はい!」
少女は岩を回り込むとそのまま真っ直ぐに逃げて行った。
「・・・・とりあえず避難させることはできたわね。」
「グオオオオ!」
自身の攻撃を邪魔され、ミノタウロスは憤怒し利理へと攻撃対象を変える。
「・・・・どうやら戦いは避けられなさそうね。」
「グオオ!」
ミノタウロスは大きく斧を振り上げる。
「・・・・そこだ!」
利理はミノタウロスの斧を振り上げた瞬間を見切り、スキルの飛空斬を発動させ、ミノタウロスの腕に斬撃を当てる。
しかし、ミノタウロスの腕に少しかすり傷がついただけで、大したダメージを与えることができない。
「・・・・な、私の攻撃が通用しない?」
ミノタウロスはそのまま振り上げていた腕を利理に向かって振り下ろした。利理は咄嗟に剣で防御の構えを取る。
「グオオ!!」
「う、うわああ!」
利理は斧を剣で受け止めたが、ミノタウロスの腕力が凄まじく、利理は超スピードで吹き飛ばされてしまう。
そのまま利理は巨大な岩へと追突した。
「がはっ!」
岩に超スピードで体をぶつけてしまった利理は身体に衝撃が走ってしまい、息を吸う事ができなくなってしまう。
ーい、息ができない。・・・・苦しくて体も動かせない。・・・・まだミノタウロスは倒せていないのにー
息ができなくなり、立ち上がることのできない利理の前に、ミノタウロスは立ちはだかった。
「ぐっ。うう。」
苦しそうに悶ている利理にミノタウロスは狙いを定め、斧を振り上げる。
「・・・・な、あっ・・・・」
それを見て恐怖に怯える利理に、ミノタウロスは斧を振り下ろす。利理は死を覚悟して目を閉じた。
しかし、何秒経っても利理に斧が振り下ろされる気配がない。利理はゆっくりと目を開ける。
「・・・・あっ。」
「たああああ!」
そこにはミノタウロスの斧を剣て受け止めている一人の男がいた。




