第44話「なんだと……! やっぱりこうなるわなッ?!(前編)」
──かくなるうえはぁぁああああああ!!
「者ども!! 出い、出ぃぃぃい! 出会えッ出会えぇぇええ!!」
ざわっ!
ざわっざわっ……!
「で、出会え出会えぇ? って、俺らのことか?」
「何言ってんだ、このクソマスターは??」
冒険者たちが互いに顔を見合わせる。
そりゃ、そうだろう。
冒険者は冒険者。べつにギルドマスターの手下でもなんでもない。
出会えと言われて、出る筋合いなどないのだ。
「く……こいつら!───あ、おい、まずはテメェらの仕事だろうが!」
突如態度を豹変させたギルドマスターに冒険者たちがざわざわと騒ぎ始める。
そこに、「テメェら」と呼ばれた連中がゾロゾロと現れた。
そいつらは、いかにもチンピラといった風情の冒険者たち。
たしか、このギルドでB級だかA級の冒険者をしているパーティのいくつかだ。
「おいおい、マスターさんよー。さすがに監察に手を出すのはまずいんじゃないか?」
「そーそー。やばそうな一件なら、いつもお世話になっているとはいえ、遠慮させてもらうぜ?」
ひっひっひっひ!
ぎゃははははは!
と品のない笑い声をあげる連中を、小馬鹿にしたようにギルドマスターは宣う。
「バーーーーーーカ! 俺がとっ捕まったらお前らも同罪だよ! 忘れたとは言わせんぞ、これまで面倒見てきてやったうえ、雑魚冒険者の女やら、仕事やらを手配してやっただろうが──そいつが全部バレることになるんだぞ?」
「「んな!? そ、そりゃあ、ないぜ?!」」
「あ、あんただっていい思いしてんじゃねーか!」
「金だって払ってるだろーが!!」
ぶーぶーぶー
チンピラどもが目をむいてギルドマスターに詰め寄るが、奴は頓着しない。
「はッ! いい加減、覚悟を決めるんだなッ! おう、リズとかいうチビ……! ここをどこだと思ってる」
「どこ?……間抜けの巣穴かしら?」
はははは!
リズの啖呵を笑い飛ばすギルドマスター。
「バぁカめ!! ここは俺の庭よ!! そして────……」
ジャリン♪
ギルドマスターは咆哮すると、グエンから奪っていた金貨が550枚詰まった袋に手を突っ込む。
「今から、お前の墓場だっぁあああああ! 聞け、クズ野郎どもッ」
チンピラ以外の冒険者に語り掛けるギルドマスター。
その手にはジャラジャラと音を立てる金貨が数十枚握られている。
「この、監察官を名乗る偽物を討てッ! 報酬は思いのままだぁぁあ!」
ジャリーーーーーーーーン♪
そういって、金貨をギルド中にぶちまけるッ!
その輝きを見た冒険者が我先にと金貨に群がる。
「き、金貨だと?!」
「よ、よこせ! それは俺のだぁぁあ!!」
「ぶっ殺すぞテメェ!!」
おーおーおー。
群がる、群がる。
「ははっ! 今のは景気づけよ──……見事打ち取った奴には、残りの金貨全部くれてやるわ!!」
さらに、ジャラジャラと数十枚をばら蒔き、それでもパンパンに詰まった袋を差し示す。
「「「あ、あれが全部俺のものに?!」」」
ちゃうわ、グエンのもんだっつの!!
「「「うおぉおおおおおおおお!! 金貨500枚以上だぞ!!」」」
「そうだ!! 何百枚という金貨だ!! なんでも思うままだぞ!!」
と、……グエンの金貨を勝手に報酬にしてしまったギルドマスター。
「「「ひゃっはぁぁぁぁああッッ!!」」」
どわぁっぁああ! と歓声につぐ歓声!!
ギルド中が、津波のように騒ぐ有り様ッ。
すでにグエンの報酬が大金であったことは誰もが知っている。
それをそのままくれてやるというのだ。
……こんなに気前のいい話はない!
「グエン! リズ! この両名を打ち取れ!…………見た目はガキだが、その女は好きにしていいぞぉぉぉおおお!!」
「「「ひゃゃっはぁぁぁああああああ!!」」」
どわーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
ギルド中が沸き返り、次々に武器を抜き放つ冒険者たち。
「ひひひひ! 金貨500枚は俺のもんだ!」
「ばーか! 俺が貰うに決まってんだろ! ついでに、グエンの持ってる槍も俺のもんだぜ!」
「うひょーーー! リズたん、リズたん、リズたぁぁああん!」
あっという間に取り囲まれるリズとグエン。
「あーらら……。どうしよ、これ」
「お、おい……リズ! 状況悪化してねぇか?」
んー…………。
リズが指を口に当てて少し考え込む。
「……てへ。めんごめんご」
ペロリと可愛らしく謝るリズ。
───め、
「………………メンゴ、メンゴじゃねぇぇっぇえ!!」




