女王陛下と護衛様2
「…貴方は生涯私に従えると、そう仰っていましたね?」
「え?…それは勿論その通りでございますが」
「ではその言葉の通り、生涯私に従えなさい。例え結婚しようとも、この契約は破棄できません」
我ながらに酷い事を言ったな、と思う。
だけど仕方がないのだ。
それだけが彼を私に繋ぎとめておける、唯一の方法なのだから。
「…レティシエ様はそれで構わないのですか?」
「…へ?」
リュークの意外な返答にレティシエはいつも通りの声で情けない言葉を発した。
「…どう、いう事ですの?」
なんだろう、胸がゾワゾワする。
この先の言葉は聞いていけないような気がする。
「私はそれでは不満なんですがね」
「し、しょうがないわよ。最初に契約した貴方が悪いのだから」
もう白紙に戻す事はできないの、と、震える声音で言 えばリュークは「違います」と言って首を横に振った。
「私が言いたい事はそういう事ではありません」
そう言うとリュークはレティシエの手をとり床にひざまずいた。
「!?リューク!?」
「白紙には戻せなくても、新たに書き足す事はできますよね」
「へ?」
レティシエの手をとったリュークはそっと手の甲に口付ける。
そして新緑を思わせる翠色の瞳を真っ直ぐにレティシエに向けた。
「私、リューク=マドレイは如何なる時においてもレティシエ=シェンフィンラ女王陛下を主と定め、生涯の伴侶として命を懸けて貴女をお守りする事を、騎士の名に懸けて誓います」
ニコリと微笑み、再度手の甲に口付けを落としたリュークを、レティシエは信じられないものを見るかのように彼を見下ろしていた。
今、彼はなんと言った?
"生涯の伴侶として"
そう、言ったわよね?
いや、もしかしたら聞き間違えたのかもしれない。
自分の都合のいいように勝手に言葉を変えてしまっていたのかもしれない。
「言っておきますが、嘘ではありませんよ?貴女をお慕いしているのも、先ほどの誓いの言葉も」
今度こそレティシエは言葉を失い、固まってしまった。
彼が嘘をつく人間でない事をレティシエはよく知っている。
それと同時に自分の気持ちを決して口に出さない事も知っている。
だから、本当に気が付かなかった。
まさか彼が私と同じ気持ちを持っていたなんて。
「…ほん、とうに…?」
ああ、震える声が情けない。
だけど仕方ないじゃない。
ずっと慕っていた相手から、自分も慕っていると告白を受けたのだから。
「貴女の気持ちには気付いていました。しかし私はそれを知らないフリをして過ごしていました」
私の気持ちはバレバレだったの?
嫌だわ、恥ずかしい・・・!
レティシエの顔は赤くなったり青くなったりと忙しない。
「なぜ知らないフリを・・・?」
「身分差の問題もありますし、貴女に対する想いを自覚してしまったらもう貴女の傍にいられないと思ったからです」
伏し目がちにポツリポツリと話出したリュークの言葉に、レティシエは知らず知らずの内に涙を流していた。
「…いいの、ですか?」
「何度も言っているでしょう?」
「私なんかで、いいんですか…?」
自分から傍にいろと命令したのに、いざ傍にいてくれると聞くとたくさんの不安が生まれてくる。
だが、彼は眩しすぎる微笑みを携えたままレティシエに言った。
「お転婆で、気が強くて聰明で。なのにこれでよかったのかと泣き出し、後悔を繰り返す。
人の上に立つには 優しすぎる貴女を私がどれほど心配したか。
ですが皆の役に立とうと必死に国政を勉強しているのも、よく知っています。
私はそんな貴女だから好きになりました」
…どうしよう。
嬉しすぎて、言葉が出てこない。
私も好きです、って伝えたいのに、嗚咽が邪魔をして伝えられない。
リュークは黒曜石のような瞳から流れ落ちる涙を指で拭うと、そっとレティシエの身体を抱きしめた。
「私は貴女に誓いました。貴女は私に誓ってくれますか?」
耳元で甘く囁かれた言葉にゾワリと身体が疼く。
リュークの言葉に答える為に、レティシエは顔を上げると、翠色の瞳を見つめながら伝えたかった言葉を口にした。
「貴方を私の伴侶として、生涯を共にする事を誓います。
…貴方をお慕いしております、リューク様」
言い切ったと同時に先ほどよりもきつく抱きしめられ、レティシエは痛みに一瞬眉を潜めるもすぐに幸福感へと変わり、笑みを浮かべるとそっとリュークの背中に腕を回した。
「誰よりも幸せにしてみせます」
「あら、私が幸せにしようと思っていましたのに」
「それは私のプライドが許しません」
「ふふっ・・・リュークらしいわね」
◆◇◆◇
女王がようやく迎えた伴侶に国民は興奮し国中は祝福ムード一色になった。
あちらこちらで二人を祝福する声が飛び交う。
二人の出逢いを物語化した本も作られ、大変に売れたそう。
当の二人はそんなことは露知らず、今日もいつもと変わらないやり取りを城内で繰り広げていた。
しかし今までとは違う空気がそこにはあった。
それは、お互いがお互いを好きである事の喜びだ。
*
「レティシエ様!廊下を走るのはやめてください!」
「だって急がないと・・・!」
「もう貴女一人の身体じゃないんですから!お願いですからおとなしくしていてください!」
そんな会話が聞こえてくるのもそう遠くない未来のお話。
『女王様と護衛様』




