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東さんと姉妹

 兄弟と姉妹の数が同じで、男女比は1:2。一見難しそうだが、これは実際に逐次人数を当てはめていけばすぐに解けそうだ。

 まず、兄弟と姉妹の数が1人だとしよう。すると家族のうち、男は兄弟と父親の2人、女は姉妹と母親、そして東さんの3人。男女比は2:3だ。1:2ではないから、兄弟の数は1人ではない。

 では、兄弟と姉妹の数が2人だとどうなるか。家族のうち、男は兄弟と父親の3人、女は姉妹と母親、東さんの4人。男女比は3:4。違う。

 3人では。家族のうち、男は4人、女は5人。男女比は4:5……。

 ………なかなか、答えにたどり着かない。しかし、兄弟姉妹が合わせて6人を超えることは確かなようだ。

「すごい大家族だね」

 苦し紛れに僕が答えると、東さんはくすくすと笑った。

「残念。ハズレ」

「へ?」

 呆けた僕の顔を見て、彼女はさらに楽しげに笑った。

「一ノ瀬君。数学で、文章題を解くときに最初にすることは、なに?」

「えっと……」

 なんだろう。数学は苦手だ。僕が答えに窮していると、彼女が言った。

「それは、問題文をよく読むこと」

「当たり前じゃないか」

 彼女は小さくほほ笑むと、

「次にすることは?」

「……」

 それもわからない。東さんはすぐに、答えを言った。

「知りたい値、わからない値を、x と置くこと」

「あ、そっか」

 僕が納得したのを見届けると、東さんが続けた。

「では、いまの問題の場合、x と置くべきものは?」

「東さんの、兄弟の人数?」

「その通り。兄弟の人数と姉妹の人数は等しいから、どちらもxとしましょう。すると、私の家族で、男の人数は何人かしら?」

 そのくらいならわかる。男は兄弟x 人と父親1人なので、

「x+1 だ」

「そう。女の人数は?」

 女は姉妹x 人と母親1人、そして東さん1人なので、

「x+2」

「そう。すると男女比が1:2なのだから、(x+1):(x+2) = 1:2 という式が成立する」

 でしょ、と彼女が同意を求めてきたので、そうだね、と僕は頷いた。正直、わかっているかどうかの自信はなかったが。

「すると、x はいくらになる?」

「え……」

 そう言われても、暗算で方程式を解くなどという芸当は、僕には無理だ。しばし戸惑っていると、やがて彼女も察したらしい。小さく微笑むと、言った。

「エックス、イコール、ゼロ。つまり、0人。私は一人っ子よ」

「えっ?」

 な、なんだそれは! 騙された!

 でも確かに、そうすると条件と合う。兄弟と姉妹の人数はともに0人で等しいし、男は父親1人、女は母親と東さんの2人なので、男女比は1:2だ。

 騙された感が悔しくて、でも騙されたわけではないので何も言い返せない。悶々とする僕を見て、彼女は唐突に言った。

「ところで、君には少なくとも2人のお姉さんがいるんじゃない?」

「いるけど?」

 思わずぶっきら棒になってしまった。確かに僕には、2人の姉がいる。

 ……え?

「なんでわかったの?」

 目を瞬かせる僕。東さんはそれがおかしかったのか、またくすくすと笑うと、名探偵のような口調で語り始めた。

「いつだったか、君は言ったわね。お姉さんが、『右利きだから、右手でフォークを持つのが自然だ』と言ったって」

 つい先週の話だ。僕は頷いた。

「そして今朝、君は右頬をお姉さんに殴られた。でもね、よく考えてみて。普通、相手の右頬を殴るのは、左利きの人間よ」

「え? あ、そうか!」

 自分の右頬は、相手から見れば左側にある。だから、右頬を殴られた僕は、相手の左手で殴られたことがわかるのか!

「つまり君には、右利きのお姉さんと、左利きのお姉さんの、少なくとも2人のお姉さんが存在することがわかるの」

「な、なるほど……」

 僕は呆気に取られた。まじまじと東さんの顔を見てしまう。その東さんは、語り終えて満足したのか、すぐにいつもの眠たげな表情に戻って、髪の毛をいじり始めた。

 その顔を見ているうちに……僕の中に、嬉しさが沸々と込み上がってきた。だって、今日は東さんの知らない一面を見ることが出来たのだから。それになにより、東さんは僕の話なんて右から左の様子だったのに、実はちゃんと聞いていたとわかったからだ。

 ちゃんと聞いてくれるのならば。

 僕は、いままでなんだか恥ずかしくて言わなかったことを、口にした。

「ところで東さんって、髪、綺麗だよね」

 すると彼女は髪をいじっていた手を止め、顔を伏せた。

 長い黒髪に顔が隠れる直前。彼女の口元に確かに笑みが広がったのを、僕は見逃さなかった。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。


「問題編」に隠されていた秘密とは、一ノ瀬君のお姉さんの人数のことでした。

読み解けましたか??


ちなみに東さんの出したパズルですが、

実は「東さんには父親がいない」と仮定すると、兄弟姉妹がいることになります。

(何人になるのかは、ここでは明かしません。皆さんがご自身で解いてください。

 逐次人数を当てはめるも良し、方程式を使うも良し、他の方法で解くも良し)

しかし、「問題編」で東さんは、

「ここで言う『家族』というのは、両親と子どもだけよ」

と述べています。

これは裏を返せば、

「東さんの両親は(少なくともパズルの設定上は)健在」

ということになり、よって兄弟姉妹はいない、と結論できます。

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