最終話 再び
ふぅ…。
無事に引っ越しが完了した。
私たちは少しまとまったお金を手に入れたから、心機一転で新しい部屋を借りることも考えた。だけど…収入が安定していないことを考慮し、結局セイくんの安アパートで一緒に住むことに決めた。
私が住んでいたところと違って、セイくんの家はフローリングだ。私がずっと求めていたフローリング…
嬉しい…
狭いけど、フローリングってだけで、なんだか少しおしゃれに感じてしまった。それに追い焚き機が付いてる。私が住んでいたアパートのお風呂は、レバーをガチャガチャと回すバランス釜というものだった。私は使い方がわからず、不動産屋の人に説明してもらったんだ。
私からすると、生活水準が少しだけ上がった。それがすごく嬉しかった。
「将来はもっといい家に住みたいよな」
「だねぇ」
私たちはお酒を飲みながらそんな話をしていた。
「…しばらく…ティンクル・ルリカになってないよな…」
「ダーク・ロウもね…」
「ダーク・ロウの出番はもうない。でも魔法少女は出番があるだろ?」
確かに…
私は小さいコンパクトを手に取り胸に当てた。
「ティンクルプリズム、ラリルリカッ」
そう言って魔法少女に変身した。
「ぷっ…なに?いきなり」
セイくんは吹き出して笑っていた。
「…私と一緒に、この世界を守っちゃう?」
「はははっ。それもいいかもね」
私は魔法少女の姿のまま、日本酒をちびちびと飲み始めた。
「もうやめてってばっ。魔法少女に日本酒とチータラは似合わないってっ」
「あぁん?これも私なんだよ」
私はセイくんの言葉を無視して、日本酒を飲み、珍味を楽しんでいた。
「ルリカっ。準備は整ったっ」
急に現れたハンゾウはそう言った。
その時、私たちはイチャイチャしていた。
「あ…ごめん」
だから言ったのに。いきなり来ないでって。
「もう急に来るのやめてって言ったよね?」
「忘れてた。ごめん」
「消えて?」
「だよね?」
「…」
ハンゾウはすぐに姿を消した。
「…なんか…しらけちゃったな」
「だね…」
セイくんは私に覆いかぶさっていた体を離すと、隣に寝転んだ。
「なんの用だったのかな?」
「ね」
私はスマホを手に取り、ハンゾウに電話した。
「あ、もういいよ。ハンゾウのせいでしらけたから」
『ごめん…』
「話があるんでしょ?」
『うん』
「いいよ。来て」
私がそう言うと、しばらくしてからハンゾウは来た。
「ルリカッ。準備は整ったっ」
さっきと同じテンションで、ハンゾウが現れた。
「…んで?なんなの?準備って」
季節は秋になり、夜になると、窓から涼しい空気がスッと入り込んでいた。
さっきとは違い、ハンゾウは買い物袋を手にしていた。ハンゾウは楽しそうにしながら、その中から缶ビールと、乾き物をテーブルに広げていった。
「はい。飲んで飲んで。たくさん買ってきたから」
「やったぁ。ありがと」
私たちは缶ビールを手に取ると、蓋を開けて乾杯した。
すぐにピスタチオの袋を開け、殻を取るとボリボリとそれを食べる。
うんま。
あ、ビーフジャーキーもあんじゃん。私はそれにも手を伸ばし、袋を開けた。
「早速本題なんだけど」
ハンゾウは猫のような姿のまま、ビールをグビッと飲むと、話し始めた。
……。
「え?あれ本気だったの?」
「もう店舗も借りた。元猫カフェだったところ。そのまま居抜きで使えるし、いい物件だよ」
ガチだ。
あの話、ガチだったんだ…
隣を見てみると、セイくんは目を輝かせていた。
「どう?2人とも、やる気はある?」
コンビニよりは楽しそうだけど…
「よくそんなお金持ってたね」
私がそう言うと、ハンゾウはニヤりとした。
「“資金”にするって言っただろ?」
……。
あ…
ジョーから奪ったあのお金か…
てっきり本部に渡したのかと思ってた。
ハンゾウはきっちりと、自分の懐にしまっていたようだ。
「でも街を襲っていた怪獣のカフェだなんて、反感買わない?“怪獣=危険”のイメージが、もうみんなの中で定着してるよ?」
そこでまた、ハンゾウはニヤりとした。
「だからいいんだよ。あの子たちは本当は優しい心の持ち主。ただ悪の組織に利用されていただけ。こんなにいいストーリーがあるんだから話題性バッチリだよ」
……。
確かに……?
「“悪”として認識されていた怪獣たちが、犬猫のサイズになり、人間に甘え、癒しを与える。そのギャップがいいんだよ。ストーリーがあるからこそ、人間たちは同情すらする。のかもしれない」
ゲスい。
だけど、私からしたら説得力があった。
私自身、手に擦り寄ってくる怪獣のことを、とても可愛く思ったから。
それからもハンゾウは計画を話し続けていた。
私はそんなハンゾウの話を、さきイカを食べながら聞いていた。
うんま。これどこの?
思わずパッケージの裏を見た。
ああ。有名な会社だ。いい仕事しやがるぜ。
ハンゾウが言うには、SNSでバンバン宣伝して、怪獣たちのかわいい写真をアップし、追いかけっこをしている動画も投稿する。
もちろん、さっきハンゾウが言っていた、この子たちの悲しき過去も全面にだす…
「これでもうガッポガッポよ」
いつの間にか人間の姿に変身していたハンゾウは、人差し指と親指で輪っかを作った。
お金を意味する下品なポーズだ。
私はいつかのように、頭の中でチャリンと、お金が貯まっていく音が響いていた。
「セイくんっ、やろうっ」
「うんっ。俺も怪獣たちと働きたいっ」
私たちの反応を見て、やっぱりハンゾウはニヤりとしていた。
ハンゾウからしたら副業。私とセイくんからしたら本業だ。私たちはその後、色々と話を煮詰めていった。
あれから3ヶ月が経った。
ハンゾウの思惑通り、怪獣カフェはSNSで瞬く間に話題になり、毎日大盛況だった。
「今日も列ができてるよ」
「SNSの力、ハンパねーな」
開店前に、セイくんとそんな話をしていた。
ミニ怪獣は、早く人間に甘えたくてソワソワとしている。
店内はソファやローチェア、小さいテーブルがいくつか置いてあり、地べたに座って、怪獣たちと戯れることができるスペースなどもある。
さぁ。オープンしますか。
私はドアを開けてお客さんを迎え入れた。
しばらくすると、こんな声が聞こえてきた。
「えーっ。怪獣ってさきイカ食べるの?かわいいっ。すみませーん」
怪獣用のおやつのメニュー表を見ていたお客さんに呼ばれた。
「はーい」
「この、さきイカと、チータラをお願いします」
「ありがとうございます。すぐにご用意します」
怪獣は別に何も食べなくても平気だ。もちろん食べても何も問題はない。ただこうやって、おやつイベントがある方が儲か──…お客さんに楽しんでもらえるからだ。
「やーんっ。かわいいっ。本当にさきイカ食べてるっ」
20代の女性は、私が持っていったさきイカを、ミニ怪獣にあげながらそう言っていた。
「あの、動画撮ってSNSにアップしてもいいですか?」
「ぜひぜひっ。もちろんいいですよ。この子たちの可愛さを広めてやってください」
するとその女性はさきイカをあげながら動画を撮りはじめた。
これでまた…お客さんが増えるぞ。
私はもうニッコニコだった。
閉店後、怪獣たち用のおやつのさきイカを食べながら、今日の売り上げをパソコンに入力していた。
むふふ。黒字黒字ぃっ。
その時──
ドンっと、音がして、地響きが起きた。
急いで店の外に出てみると、少し遠くにある山の方で怪獣とも違う何かが暴れていた。
それからそいつと戦っている魔法少女らしき子が見えた。ここからだと小バエくらいの大きさにしか見えないけど、キラキラと光っているから、きっとそうだろう。
私はポケットに手を入れ、そこに忍ばせていたコンパクトを握った。
どうする?
加勢する?
「行くなら俺も行くよ」
セイくんはそう言ってくれた。
実はセイくんも魔法業界に片足を突っ込み、何かあった時のために出動する契約を交わしていた。今の私と同じだ。消防団のようなもの。
「いや…大丈夫そう。敵が弱りはじめてるように見える」
しばらくすると、敵はシュワシュワと消えていった。
一体誰がこんなことを…
この日から、たまに敵が現れるようになった。
定休日、私とセイくんは家でのんびりとしていた。
「焼きそばうんまっ」
「ははっ。焼きそばで喜んでくれる彼女とか最高」
「安くても美味いもんは美味いんだよ」
「だな」
こんな感じでセイくんが作ってくれた焼きそばを、お昼に食べていると…
ピンポンが鳴った。
セイくんが対応しに行くと、猫のような姿のハンゾウが、浮遊しながら部屋に入ってきた。
「どうやら敵の正体は宇宙人らしい。魔法少女たちからそう報告があった」
「宇宙人?」
「そう」
そう話すハンゾウが、チラチラと焼きそばを見ている。
「食べたいの?」
「ひと口いい?」
「いいよ」
ひと口と言っていたのに、ハンゾウは3口食べていた。
「うんま」
「ね」
それからも話を聞いていると、敵は自分のことを宇宙人だと言っていたらしかった。
本当かなぁ?
私はジョーのことを思い出していた。
もちろん今回の敵はジョーではない。ジョーはあの施設で、楽しそうに研究と実験を繰り返している。私から見たらただの社畜だけど。
「また人間の仕業かもよ?」
「…まぁ、その可能性もあるかもな」
その時、またこの前のような地響きを感じた。
「クソッ。また現れたっ」
ハンゾウはすぐに窓から外を覗いた。
「まずい…怪獣カフェの方だ」
こんな街中に…?
「セイくんっ。行くよっ。あのカフェが潰れたら、私たちは路頭に迷ったあげく、本部の大人たちにいいようにコキ使われちゃうっ」
「だなっ。もう社畜はごめんだっ」
私はコンパクトを手に取り変身をすると、セイくんも懐中時計を手にして変身した。
このセイくんの変身グッズは、ジョーが作ったものだ。
変身後のセイくんの姿は、仮面舞踏会なんかでつけるような、目元を隠すような仮面で、鼻の部分は鳥のくちばしになっている。どうやらフクロウを象徴しているらしかった。それからお馴染みの黒マント。
「いいな。セリフ言わなくても変身できて」
「ははっ。いいだろ?」
本当に羨ましかった。
私たちは窓から飛び、敵に向かった。
敵の前まで来ると…
「ねぇ、アレ本当に言わないとダメ?」
セイくんは嫌そうな顔をしながら、そう聞いてきた。
「言わないと報酬減らされるよ?」
犯罪者を取り締まるようになってから、魔法少女たちの株はまたグンと上がり、今ではそんな魔法少女たちの動画を撮る者も増えた。
それが動画投稿サイト内の、人気コンテンツにもなりつつあった。
因みに私はレアキャラとして人気だ。
「いくよ?」
「わかった」
私はポーズをとりながらあのセリフを言った。
「この世の平和はティンクルにおまかせ。愛と勇気がいっぱい、ティンクル・ルリカッ」
「悪を光で一掃するぜ。正義の味方、ブライト・ロウッ」
「…」
「ぷっ」
「ふふっ」
私たちは必死で笑いをこらえていた。
「やっぱキツいって」
セイくんは肩を振るわせながら、情け無い声を出していた。
「ダメダメ。下見てみ?動画撮ってる人がいるから」
「本当だ」
気を取り直した私たちは、2人で敵に向かって攻撃をはじめた。
「このヤロー。うちの店を潰したら、許さねーからな」
私はそう言いながら魔法をぶっ放していた。
「俺らはもう、社畜には戻らねーっ」
セイくんも同じように攻撃をしていた。
すると目の前の敵…アメーバみたいな形をしたヤツは小声でこんなことを漏らした。
「シャ、チク?」
そのアメーバはみるみるうちに、目に涙を溜めていた。
私たちは攻撃をやめ、アメーバに近づくと話を聞いた。
「ボク…ヒト…スキ…ボク…シタクナイ」
「ん?攻撃したくないってこと?」
「ボス…ウチュウセイフク…シタイ…ボク…シタクナイ…」
こいつもか…
「君はなんなの?」
「ウチュウジン」
本当に宇宙人だったんだ。
「わかった。私たちがボスをぶっ倒してあげるから、もう泣かないで?」
「…ホント?」
「うん。ホント。大丈夫だから」
私がそう言うと、アメーバはもっと泣いてしまった。
「ハンゾウッ、今の聞いてた?」
ハンゾウはニヤニヤとしていた。
「金の匂いが…──いや、今度は宇宙か。ますます忙しくなるぞ」
またゲスいこと考えてんな…
「よしっ。やめやめっ。お酒買って私たちの家で作戦会議しよっ」
私たちは変身を解き、ハンゾウは人間の姿に変身した。アメーバは自分でサイズを操れるようで、小さくなるとハンゾウの胸に抱えられていた。
みんなでいつものディスカウントショップへと向かう。
これから何が起こるのか、ハンゾウが何を企んでいるのかを想像するとワクワクして、気がついたら私は、今から行くディスカウントショップのテーマソングを口ずさんでいた。
最後までお付き合いいただき、ありがとございました。
少しでもクスッとしたり、楽しんでいただけたなら、幸いです。
本当に感謝感謝です。
リアクションをいただけたのも嬉しかったです。
誤字報告をしてくださった方もありがとうございました。本っ当に助かりました。ありがたい限りです。
最後に…少しでもティンクル・ルリカのお話が、皆様の心のどこかに残ってくれたなら…なんて思うのは、欲張りすぎですね 笑
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございましたっ。




