表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/15

最終話 再び


 ふぅ…。


 無事に引っ越しが完了した。


 私たちは少しまとまったお金を手に入れたから、心機一転で新しい部屋を借りることも考えた。だけど…収入が安定していないことを考慮し、結局セイくんの安アパートで一緒に住むことに決めた。


 私が住んでいたところと違って、セイくんの家はフローリングだ。私がずっと求めていたフローリング…


 嬉しい…


 狭いけど、フローリングってだけで、なんだか少しおしゃれに感じてしまった。それに追い焚き機が付いてる。私が住んでいたアパートのお風呂は、レバーをガチャガチャと回すバランス釜というものだった。私は使い方がわからず、不動産屋の人に説明してもらったんだ。


 私からすると、生活水準が少しだけ上がった。それがすごく嬉しかった。


「将来はもっといい家に住みたいよな」

「だねぇ」


 私たちはお酒を飲みながらそんな話をしていた。


「…しばらく…ティンクル・ルリカになってないよな…」

「ダーク・ロウもね…」

「ダーク・ロウの出番はもうない。でも魔法少女は出番があるだろ?」


 確かに…


 私は小さいコンパクトを手に取り胸に当てた。


「ティンクルプリズム、ラリルリカッ」


 そう言って魔法少女に変身した。


「ぷっ…なに?いきなり」


 セイくんは吹き出して笑っていた。


「…私と一緒に、この世界を守っちゃう?」

「はははっ。それもいいかもね」


 私は魔法少女の姿のまま、日本酒をちびちびと飲み始めた。


「もうやめてってばっ。魔法少女に日本酒とチータラは似合わないってっ」

「あぁん?これも私なんだよ」


 私はセイくんの言葉を無視して、日本酒を飲み、珍味を楽しんでいた。



 


「ルリカっ。準備は整ったっ」


 急に現れたハンゾウはそう言った。


 その時、私たちはイチャイチャしていた。


「あ…ごめん」


 だから言ったのに。いきなり来ないでって。


「もう急に来るのやめてって言ったよね?」

「忘れてた。ごめん」

「消えて?」

「だよね?」

「…」


 ハンゾウはすぐに姿を消した。


「…なんか…しらけちゃったな」

「だね…」


 セイくんは私に覆いかぶさっていた体を離すと、隣に寝転んだ。

 

「なんの用だったのかな?」

「ね」


 私はスマホを手に取り、ハンゾウに電話した。


「あ、もういいよ。ハンゾウのせいでしらけたから」

『ごめん…』

「話があるんでしょ?」

『うん』

「いいよ。来て」


 私がそう言うと、しばらくしてからハンゾウは来た。


「ルリカッ。準備は整ったっ」


 さっきと同じテンションで、ハンゾウが現れた。


「…んで?なんなの?準備って」


 季節は秋になり、夜になると、窓から涼しい空気がスッと入り込んでいた。


 さっきとは違い、ハンゾウは買い物袋を手にしていた。ハンゾウは楽しそうにしながら、その中から缶ビールと、乾き物をテーブルに広げていった。


「はい。飲んで飲んで。たくさん買ってきたから」

「やったぁ。ありがと」


 私たちは缶ビールを手に取ると、蓋を開けて乾杯した。


 すぐにピスタチオの袋を開け、殻を取るとボリボリとそれを食べる。


 うんま。


 あ、ビーフジャーキーもあんじゃん。私はそれにも手を伸ばし、袋を開けた。


「早速本題なんだけど」


 ハンゾウは猫のような姿のまま、ビールをグビッと飲むと、話し始めた。

 

 ……。


「え?あれ本気だったの?」

「もう店舗も借りた。元猫カフェだったところ。そのまま居抜きで使えるし、いい物件だよ」


 ガチだ。


 あの話、ガチだったんだ…


 隣を見てみると、セイくんは目を輝かせていた。

 

「どう?2人とも、やる気はある?」


 コンビニよりは楽しそうだけど…


「よくそんなお金持ってたね」


 私がそう言うと、ハンゾウはニヤりとした。


「“資金”にするって言っただろ?」


 ……。


 あ…


 ジョーから奪ったあのお金か…


 てっきり本部に渡したのかと思ってた。


 ハンゾウはきっちりと、自分の懐にしまっていたようだ。


「でも街を襲っていた怪獣のカフェだなんて、反感買わない?“怪獣=危険”のイメージが、もうみんなの中で定着してるよ?」


 そこでまた、ハンゾウはニヤりとした。


「だからいいんだよ。あの子たちは本当は優しい心の持ち主。ただ悪の組織に利用されていただけ。こんなにいいストーリーがあるんだから話題性バッチリだよ」


 ……。


 確かに……?


「“悪”として認識されていた怪獣たちが、犬猫のサイズになり、人間に甘え、癒しを与える。そのギャップがいいんだよ。ストーリーがあるからこそ、人間たちは同情すらする。のかもしれない」


 ゲスい。


 だけど、私からしたら説得力があった。


 私自身、手に擦り寄ってくる怪獣のことを、とても可愛く思ったから。


 それからもハンゾウは計画を話し続けていた。


 私はそんなハンゾウの話を、さきイカを食べながら聞いていた。


 うんま。これどこの?


 思わずパッケージの裏を見た。


 ああ。有名な会社だ。いい仕事しやがるぜ。


 ハンゾウが言うには、SNSでバンバン宣伝して、怪獣たちのかわいい写真をアップし、追いかけっこをしている動画も投稿する。


 もちろん、さっきハンゾウが言っていた、この子たちの悲しき過去も全面にだす…


「これでもうガッポガッポよ」


 いつの間にか人間の姿に変身していたハンゾウは、人差し指と親指で輪っかを作った。


 お金を意味する下品なポーズだ。


 私はいつかのように、頭の中でチャリンと、お金が貯まっていく音が響いていた。


「セイくんっ、やろうっ」

「うんっ。俺も怪獣たちと働きたいっ」


 私たちの反応を見て、やっぱりハンゾウはニヤりとしていた。


 ハンゾウからしたら副業。私とセイくんからしたら本業だ。私たちはその後、色々と話を煮詰めていった。


 


 あれから3ヶ月が経った。


 ハンゾウの思惑通り、怪獣カフェはSNSで瞬く間に話題になり、毎日大盛況だった。


「今日も列ができてるよ」

「SNSの力、ハンパねーな」

 

 開店前に、セイくんとそんな話をしていた。


 ミニ怪獣は、早く人間に甘えたくてソワソワとしている。


 店内はソファやローチェア、小さいテーブルがいくつか置いてあり、地べたに座って、怪獣たちと戯れることができるスペースなどもある。

 

 さぁ。オープンしますか。


 私はドアを開けてお客さんを迎え入れた。


 しばらくすると、こんな声が聞こえてきた。


「えーっ。怪獣ってさきイカ食べるの?かわいいっ。すみませーん」


 怪獣用のおやつのメニュー表を見ていたお客さんに呼ばれた。


「はーい」

「この、さきイカと、チータラをお願いします」

「ありがとうございます。すぐにご用意します」


 怪獣は別に何も食べなくても平気だ。もちろん食べても何も問題はない。ただこうやって、おやつイベントがある方が儲か──…お客さんに楽しんでもらえるからだ。


「やーんっ。かわいいっ。本当にさきイカ食べてるっ」


 20代の女性は、私が持っていったさきイカを、ミニ怪獣にあげながらそう言っていた。


「あの、動画撮ってSNSにアップしてもいいですか?」

「ぜひぜひっ。もちろんいいですよ。この子たちの可愛さを広めてやってください」


 するとその女性はさきイカをあげながら動画を撮りはじめた。


 これでまた…お客さんが増えるぞ。


 私はもうニッコニコだった。


 閉店後、怪獣たち用のおやつのさきイカを食べながら、今日の売り上げをパソコンに入力していた。


 むふふ。黒字黒字ぃっ。


 その時──


 ドンっと、音がして、地響きが起きた。


 急いで店の外に出てみると、少し遠くにある山の方で怪獣とも違う何かが暴れていた。


 それからそいつと戦っている魔法少女らしき子が見えた。ここからだと小バエくらいの大きさにしか見えないけど、キラキラと光っているから、きっとそうだろう。

 

 私はポケットに手を入れ、そこに忍ばせていたコンパクトを握った。


 どうする?


 加勢する?


「行くなら俺も行くよ」


 セイくんはそう言ってくれた。


 実はセイくんも魔法業界に片足を突っ込み、何かあった時のために出動する契約を交わしていた。今の私と同じだ。消防団のようなもの。


「いや…大丈夫そう。敵が弱りはじめてるように見える」


 しばらくすると、敵はシュワシュワと消えていった。


 一体誰がこんなことを…


 この日から、たまに敵が現れるようになった。


 


 定休日、私とセイくんは家でのんびりとしていた。


「焼きそばうんまっ」

「ははっ。焼きそばで喜んでくれる彼女とか最高」

「安くても美味いもんは美味いんだよ」

「だな」


 こんな感じでセイくんが作ってくれた焼きそばを、お昼に食べていると…


 ピンポンが鳴った。


 セイくんが対応しに行くと、猫のような姿のハンゾウが、浮遊しながら部屋に入ってきた。


「どうやら敵の正体は宇宙人らしい。魔法少女たちからそう報告があった」

「宇宙人?」

「そう」


 そう話すハンゾウが、チラチラと焼きそばを見ている。


「食べたいの?」

「ひと口いい?」

「いいよ」


 ひと口と言っていたのに、ハンゾウは3口食べていた。


「うんま」

「ね」


 それからも話を聞いていると、敵は自分のことを宇宙人だと言っていたらしかった。

 

 本当かなぁ?


 私はジョーのことを思い出していた。


 もちろん今回の敵はジョーではない。ジョーはあの施設で、楽しそうに研究と実験を繰り返している。私から見たらただの社畜だけど。


「また人間の仕業かもよ?」

「…まぁ、その可能性もあるかもな」


 その時、またこの前のような地響きを感じた。


「クソッ。また現れたっ」


 ハンゾウはすぐに窓から外を覗いた。


「まずい…怪獣カフェの方だ」


 こんな街中に…?


「セイくんっ。行くよっ。あのカフェが潰れたら、私たちは路頭に迷ったあげく、本部の大人たちにいいようにコキ使われちゃうっ」

「だなっ。もう社畜はごめんだっ」


 私はコンパクトを手に取り変身をすると、セイくんも懐中時計を手にして変身した。


 このセイくんの変身グッズは、ジョーが作ったものだ。


 変身後のセイくんの姿は、仮面舞踏会なんかでつけるような、目元を隠すような仮面で、鼻の部分は鳥のくちばしになっている。どうやらフクロウを象徴しているらしかった。それからお馴染みの黒マント。


「いいな。セリフ言わなくても変身できて」

「ははっ。いいだろ?」


 本当に羨ましかった。


 私たちは窓から飛び、敵に向かった。


 敵の前まで来ると…


「ねぇ、アレ本当に言わないとダメ?」


 セイくんは嫌そうな顔をしながら、そう聞いてきた。

 

「言わないと報酬減らされるよ?」


 犯罪者を取り締まるようになってから、魔法少女たちの株はまたグンと上がり、今ではそんな魔法少女たちの動画を撮る者も増えた。

 それが動画投稿サイト内の、人気コンテンツにもなりつつあった。

 

 因みに私はレアキャラとして人気だ。


「いくよ?」

「わかった」


 私はポーズをとりながらあのセリフを言った。


「この世の平和はティンクルにおまかせ。愛と勇気がいっぱい、ティンクル・ルリカッ」

「悪を光で一掃するぜ。正義の味方、ブライト・ロウッ」 

「…」

「ぷっ」

「ふふっ」


 私たちは必死で笑いをこらえていた。


「やっぱキツいって」


 セイくんは肩を振るわせながら、情け無い声を出していた。


「ダメダメ。下見てみ?動画撮ってる人がいるから」

「本当だ」


 気を取り直した私たちは、2人で敵に向かって攻撃をはじめた。


「このヤロー。うちの店を潰したら、許さねーからな」


 私はそう言いながら魔法をぶっ放していた。


「俺らはもう、社畜には戻らねーっ」


 セイくんも同じように攻撃をしていた。


 すると目の前の敵…アメーバみたいな形をしたヤツは小声でこんなことを漏らした。


「シャ、チク?」


 そのアメーバはみるみるうちに、目に涙を溜めていた。


 私たちは攻撃をやめ、アメーバに近づくと話を聞いた。


「ボク…ヒト…スキ…ボク…シタクナイ」

「ん?攻撃したくないってこと?」

「ボス…ウチュウセイフク…シタイ…ボク…シタクナイ…」


 こいつもか…


「君はなんなの?」

「ウチュウジン」


 本当に宇宙人だったんだ。


「わかった。私たちがボスをぶっ倒してあげるから、もう泣かないで?」

「…ホント?」

「うん。ホント。大丈夫だから」


 私がそう言うと、アメーバはもっと泣いてしまった。


「ハンゾウッ、今の聞いてた?」


 ハンゾウはニヤニヤとしていた。


「金の匂いが…──いや、今度は宇宙か。ますます忙しくなるぞ」


 またゲスいこと考えてんな…


「よしっ。やめやめっ。お酒買って私たちの家で作戦会議しよっ」


 私たちは変身を解き、ハンゾウは人間の姿に変身した。アメーバは自分でサイズを操れるようで、小さくなるとハンゾウの胸に抱えられていた。


 みんなでいつものディスカウントショップへと向かう。


 これから何が起こるのか、ハンゾウが何を企んでいるのかを想像するとワクワクして、気がついたら私は、今から行くディスカウントショップのテーマソングを口ずさんでいた。

 

最後までお付き合いいただき、ありがとございました。

少しでもクスッとしたり、楽しんでいただけたなら、幸いです。

本当に感謝感謝です。


リアクションをいただけたのも嬉しかったです。


誤字報告をしてくださった方もありがとうございました。本っ当に助かりました。ありがたい限りです。


最後に…少しでもティンクル・ルリカのお話が、皆様の心のどこかに残ってくれたなら…なんて思うのは、欲張りすぎですね 笑


最後まで読んでくださって、本当にありがとうございましたっ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ