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鏡に囚われた少女  作者: 最上優矢
第一章 鏡に囚われた少女

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5/5

頼み事

「自分が誰なのかも分からないってことは……きみ、まさか自分の名前も分からない感じ?」

「うん、そう……なんだけど、それだとなんだか怖いから、わたしは自分のこと、鏡子(きょうこ)って呼んでる」


 鏡に囚われた少女――あらため鏡子さんは、不安そうな顔で仮の名前を口にした。


「そっか。じゃあ、鏡子さん……さっききみ、鏡に囚われているって言ったけど、それって鏡の中から出られない、っていう意味なの?」


 と、ここはブルンブルンと首を横に振る鏡子さん。


「違う。さっきも言ったけど、わたしはこの世にいないの。鏡に囚われているっていうのは、成仏? みたいのができない、っていう意味」

「わお、幽霊だ……すごい」

「そう、だけど……すごいっていうのは、なんだか違うと思うな」


 鏡子さんは口をすぼめた。


 おっと、僕としたことが。


「ご、ごめん」

「いいよ。どうせわたし、幽霊なんだし。もう人間じゃないんだもん。……好奇心に晒される存在なんでしょ、わたしって」

「いやいや! そう卑屈にならずに。ね?」


 いじけたようにプイッと顔をそらす、鏡子さん。

 僕は素直に反省の気持ちを述べた。


「きみの気持ちも考えず、心無い言葉を言って……ごめんね」

「……反省、してる?」

「反省、してるよ」

「だったら……お願いがあるの」


 先ほどまでブスッとしていたのが嘘みたいに、今や鏡子さんは真剣を帯びた表情をしていた。

 途端に、緊張が走る。


「お願いって、何?」

「わたしが誰で、家族は誰がいて、どこにいてどういうことをしていて、最期はどういう感じだったか、知りたいの。

 ……このままじゃわたし、成仏できないよ」


 最後のほう、鏡子さんは半ベソをかいていた。


「……そう、だよね」


 なんとかしてやりたい。

 この少女を……成仏させてやりたい。

 そのためには、どうすればいいのか。

 どうする?


 と、このとき――とある三人の姿が、僕の頭の中に浮かんだ。

 江口くん、内田さん、浜崎先生。

 クセの強いあの三人なら、普通の度を越えたあの三人なら。

 この現状を打破してくれそうな気がする。


「きみの頼み事、聞いてもいいよ」

「ほんと?」


 僕はニッと笑ってから、「ただね」と人差し指を一本伸ばした。


「僕一人ではきみを成仏させることは、ほとんど不可能に近い。けど、協力者となる仲間がいれば、それは可能になってくる。

 ……あの三人が協力してくれるかどうかの話はまた別だけど、僕がその三人を紹介するよ」


 鏡子さんは目をキラキラとさせ、「ありがとう、お兄ちゃん」と宙に浮かび上がり、何度も身体を回転してみせた。

 おお、さすがは幽霊、とまたも心無い言葉を口に出しそうになるが、寸前でこらえた。


「どういたしまして」


 というわけで、僕は江口くんと内田さんと浜崎先生を宗田家に招待すべく、早速行動に移した。


 …………。

 これでよし、と。

 あとはあの三人がこの家に来るのを待つのみ。


 それから数十分後――最初に宗田家を訪れたのは、江口くんだった。

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