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妹に婚約者を奪われたので譲りますが、後始末はお断りです~今さら家族ぶられても、こちらから願い下げです~【書籍化&コミカライズ】  作者: アトハ
4章 取り返しのつかないもの

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第29話 その役目ごと、いただきますわ

「何のつもりだ?」


 父が怪訝そうな声を上げる。

 それには答えず、私はアシュレイ様へ視線を向けた。


「アシュレイ様」

「ああ」


 アシュレイ様が私の隣へ出る。

 私は会場へ向き直り、一歩前へ出た。


「皆さま。本日の不足分について、一つご提案がございます」


 集まった視線を受けながら、そのまま続ける。


「不足している衣料は、グレンフォード公爵家ですでに必要な数を確保しております。保存食も三百人分、用意がございます」

「なっ……」


 父が目を見開いた。


「見習いについても、残る三人はすでに受け入れ候補の商会と顔を合わせていただきました。いずれも、受け入れる方向で話が進んでおります」


 商会の者たちから、いくつか頷きが返ってくる。


「いつの間に!?」


 セシルが、悔しそうに歯ぎしりした。


「先日の社交パーティーで、ずいぶんと噂になっておりましたので」


 私はしれっと、それだけ答えた。


「──ノワールさんについては、ご覧いただいた通りです。グラウス商会から、改めて話す機会もいただきました」


 グラウス商会の支配人も頷く。


 衣料。保存食。見習い。

 エヴァンズ家の不手際で不足していたものは、すべて埋められる。


「それだけではない」


 アシュレイ様が口を開いた。


「今後、エヴァンズ家が担ってきた役目については、グレンフォード家が引き継ぐ用意がある」

「そんな――!」


 母が声を上げる。


「孤児院と、関係する商会にはすでに意向を確認してある」

「引き受けていただけるのであれば、こちらとしてはありがたいお話です」


 最初に口を開いたのは、孤児院の院長だった。


「当商会も異存ございません」


 衣料商会の支配人が続いた。


「こちらもです」

「グレンフォード公爵家が窓口になられるのであれば、安心できます」


 一つ。

 また一つ。

 声が上がっていく。


 あっという間に、この場の総意は固まった。

 もはやエヴァンズ家は完全に信頼を失い、代わりにグレンフォード家へ任せたいという空気が、会場全体へ広がっていた。


 最後に、視線がフレデリック様へ集まった。


 この慈善事業は、エヴァンズ家だけのものではない。

 ヴァレントン家もまた、毎年共同で支えてきた。

 フレデリック様は集まった視線に気づくと、わずかに唇を引き結んだ。


 父を見る。

 母を見る。

 そして最後に、私を見た。


「……ヴァレントン家としても」


 フレデリック様が、低い声で答えた。


「異論はありません」

「フレデリック様!?」


 セシルが叫んだ。


「ちょっと待ってくださいませ! それでは、お姉さまがわたくしたちの慈善会を横取りするみたいではありませんの!」

「横取り?」

「そうでしょう!?」


 セシルが声を張る。


「わたくしたちがずっと続けてきたものなのに! 失敗したところだけ見て、全部持っていくなんて!」

「いいえ」


 私はセシルを見た。


「今日まで待ちましたわ」

「……え?」

「あなたたちが必要なものを揃えられるなら、私は何もするつもりはありませんでした」


 こちらで確保していた衣料も、保存食も、あくまで保険だ。

 もし足りなかった時に、困る人を出さないために動いていただけ。


「今日だって、エヴァンズ家で何とかしようとしている間は待っていました。――もっとも、見ての通りでしたけれど」


 主に、その元凶はセシルだ。

 本人に、その自覚はないようだけど。


 私はアシュレイ様を見る。

 彼は静かに頷いた。


 もう、待つ必要はない。


「晴れ舞台とまでおっしゃって、この有様では――到底、これ以上あなたたちに任せておくことはできませんわ」


 私は会場を見渡した。


 孤児院の人たち。

 商会の人たち。

 これまでこの慈善会に関わってきた人たち。


 気がつけばその視線が、こちらに集まっている。


「その役目ごと、グレンフォード家がいただきますわ」


 静まり返った会場で、最初に動いたのは孤児院の院長だった。


「公爵夫人様。今後の衣料について、ご相談してもよろしいでしょうか」

「もちろんですわ」

「こちらも、次の見習い受け入れについて――」

「ええ。伺います」


 それを皮切りに、商会の者たちもこちらへ集まってくる。


「次回の支援についても、一度お話を」

「保存食の納入でしたら、当商会からもご提案できます」

「見習いについて、こちらでも一名なら受け入れを検討できます」

「衣料でしたら、ほかにも信頼できる商会をご紹介できますよ」

「ええ。順番に伺いますわ」


 次々と声が飛んでくる。


 もう、父に尋ねる者はいなかった。

 セシルに判断を求める者もいなかった。


 ――エヴァンズ家とヴァレントン家が共同で続けてきた慈善事業は。

 エヴァンズ家に代わり、グレンフォード家がその役目を担うことになった。

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