聖女の条件を確認しよう!
「せ…聖女になれないってどういうことですか!!!」
まさか今後のプランがひっくり返る展開に!
一番平和な解決方法だと思ったのに…
「小春ちゃん、あなた『トキマジ』のことどこまで知っている?プレイはしたことないの?」
「…プレイはしたことありません。有名だから登場人物とかを何となく知ってるだけで…」
架空のゲームだからプレイなんてできない。嘘をつかない範囲でぼかして答える。
「『トキマジ』の正式名称を知ってる?」
「…確か『ときめきマジカルキングダム』?」
「その続き、サブタイトルは『聖女と5つの宝石』よ。」
多分初めて聞く情報だ。覚えてなかっただけかもしれないけど。
「シナリオではあなたはとっくに聖女だったわよね?」
そこは知っているのでコクコクと頷く。
「あなたが今聖女ではないのは、教会の修業をサボったからではないの。
ゲーム上で教会にちょくちょく行かなければなかったけれども、それは教会でしか自分のステータス確認と聖魔力回復ができなかったからであって、何か教会で修業をする訳ではなかったの。なぜか修業という名目で呼ばれてはいたけどね。
聖女の力は修業ではなく、攻略対象の5人とそれぞれのイベントをこなすことによって身につくシナリオだったの。
そして力を得た証として5つの雫型の宝石を手に入れて初めて教会から聖女として認定されるのよ。」
初めて聞く内容に目を白黒させる。
そんな事、小説になかったじゃない!!
てかミモザも教会での修業で身につけるものだと思ってたよ!
確かに小説でのローザスはイベントが起きなかったことを確認して一喜一憂してたけど、そういうこともあったの?
イベントって恋愛に絡む内容だけかと思ってた…。
「まず、第一王子のリエト殿下とは入学直後学園を襲ってきたフェンリルを倒すイベント。この経験で特定の相手の魔法を強化させる聖魔法が使えるようになって、青の宝石が手に入る。これは経験できたんだよね?」
たしかにミモザにはそんな記憶がある。この出来事をきっかけに聖女候補となり、教会からの修業を求められるようになった。
戦いが終わって手を開いたらいつの間にか青い雫型の宝石を握っていた。
その宝石は宝石箱ごとかばんの中につっこんできている。
「次に宰相子息ミヒャエルとのイベント。これは夏休み中の旅行で海の近くの洞窟を探検中に迷って一晩過ごすんだけど、毒を含んだ水と空気を浄化させて生きながらえることで、浄化の聖魔法が使えるようになって、緑の宝石が手に入る。
その次がアベルとのイベント。学外演習のオリエンテーリングで森で迷って崖からアベルと一緒に落ちて、怪我をしたアベルを治すために治癒の聖魔法が使えるようになり、赤の宝石が手に入る。」
そこのシスコン、いやそうな顔しないでよ。
「その次が騎士のシュタインとのイベント。学園祭での剣術大会で、優勝候補のシュタインが上級生からの嫌がらせで剣を折られて、暴力を振るわれる所に居合わせて、ふつうの鉄剣に祝福を与えてミスリルレベルの強い剣にしたわ。ここで物質強化の聖魔法が使えるようになって紫の宝石が手に入る。
最後に第二王子のユヒト殿下とのイベント。殿下が暗殺者に狙われたところに遭遇して、切り抜けるために肉体強化の聖魔法が使えるようになる。これで最後の黄色の宝石が手に入る。
以上が聖女になるためのイベントよ。
攻略対象者の目の色と同じ石を5つ揃えて教会に持っていくと聖女の称号がもらえるシステムだったもの。
多分、私がシナリオを変えてしまったから、攻略対象者との接点がとれなくてイベントを起こせなかったんだと思うの…
特にアベルとシュタインはローザスが虐めた過去があるからこそあなたに救いを求めて親しくなったのだし。」
「あの、これってハーレムルート以外でも全員とイベントをこなさないといけないんですか?」
「そうね、2年の夏までは全員の好感度を上げつつ、イベントをクリアしていくの。そうじゃないと聖女に認定されないから、貴族である攻略対象達と身分差があって恋愛できても結ばれないわ。
それにあえて誰かの誘いを断るとかしなければ聖女になるまでのシナリオ攻略はそんなに難しくないし。
聖女になった2年の秋のお祭りで恋愛祈願のお守りに誰の名前を書くかによってルートが確定するシステムよ。
あえて聖女イベントをクリアしないで進めると、全ルートが悲恋ルートになるんだけど、それはそれで人気があったの。」
どんなゲームですか??30代OLのニーズが分からない…
「じゃあ、今のルートは…」
「聖女になれていないのだから第一王子悲恋ルートね。ローザス処刑後はリエト殿下は自ら廃嫡されて平民になるんだけど、平民の生活になじめずに病死、ミモザは修道院に入るエンドよ。」
なにそれ!!!ヒロインも悪役令嬢もついでに第一王子も不幸じゃない!!!誰得シナリオですかーー!
「だから今更小春ちゃんが聖女を目指してももう遅いわ。強制労働がいやなら国外逃亡が一番よ。」
「…でも、ミモザは全然勉強してなくて、地理はおろか外国語も分からなくて…」
詰んだ、やっぱり詰んでる…目に涙が溜まってきた。
「そういえば、のびてた殿下の近くにこんなのが落ちてて、変な魔力の波動を感じたからとって置いたんだけど…」
おもむろにアベルがポケットから黄色い雫型の石を取り出す。
「「ああーーーーーーー!!」」
「これって肉体強化の聖女の石ですよね!!」
すがるように友梨愛さんの顔を見つめると、力強くうなづき返してくれる。
「私、多分あの瞬間、肉体強化魔法使ったんです!!
瞬間的に強化魔法の使い方も頭に浮かんできて、ミモザとしての知識だと思ったんだけど、あの時が初めてだったのかも。
強化魔法でもかけないと、とても私の力で大の男を倒せないし。」
「確かにアベル殿下が倒れたすぐあとにユヒト殿下が私に声を掛けて下さったわ。
この石の攻略対象のユヒト殿下はあの場の近くにいたってことよね…
おそらく、これは私の推測なんだけど、攻略対象者が近くにいて、かつ小春ちゃんが追い込まれた状況になれば今からでも聖魔法の習得ができるってことじゃないかしら。
ゲームシナリオでも攻略対象と一緒にいてピンチになった時に力が目覚めていたし、状況さえ整えたら学園を卒業しててもまだ間に合うのかもしれないわ!」
不敬罪回避の光明が見えてきた!!
「友梨愛さん…」
「小春ちゃん…」
手をとって喜ぶヒロインと悪役令嬢を、嫌そうな顔でアベルは眺めていた。