表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/40

Side ユヒト

 私は兄上からはたった3ヶ月遅く産まれただけの弟だ。

 だが、差はそれだけではない。

 兄上は正妃の子、私は側妃どころか正式に輿入れしていない妾腹の子であった。


 母は貧しい男爵家の末娘で城には侍女として出仕していたが、見目の良さから王のお手つきとなった。

 母には後ろ盾らしい後ろ盾もなく、また、欲もない人であったが、それが良かったのか王の寵愛は深かった。

 そのおかげか第一王子であるリエト兄上とは幼い頃から肩を並べて学び、王族としての教養も地位も保証されていた。


 状況が変わったのは私が6歳の時、母が第二子を身籠った時だ。

 勉強も武術も兄上よりも私の方が少しだけ良くできていた。

 それに対して兄上は「ユヒトはすごいなぁ、優秀なユヒトが私の右腕になるなら盤石だ。」などど呑気なことを言っていたが、母親である正妃は内心穏やかではなかったのであろう。

 身分は低いとはいえ、第二子も身籠った寵愛の深い妾から産まれた、自分の子より優秀な王子。

 その存在は正妃である自分の、ひいては自分の産んだ子の立場を脅かす存在だったのであろう。

 母の第二子の妊娠の発表と時を同じくして、アインベルト公爵家の長女ローザスと兄上の婚約が決まった。

 王家につながる血筋で、力のある公爵家を後ろ盾に、また優秀で知られたローザスに兄上のサポートをさせることで、地盤と執務能力の強化を図ったのだ。




 その後、結局私に兄弟が増えることはなかった。母は出産で大量出血し亡くなった。産み月より1月ほど早く産まれた王女は未熟な上、乳母の母乳を上手く飲むこともできず母の死から三日後に母の後を追った。



 何も確証はない。だが、母の死は本当に仕方のないことだったのだろうか。

 母と妹の死は余りにも正妃にとって都合が良かった。

 その疑問は未だに私の胸に燻り続けている。



 母という後ろ盾がなくなった私は王宮では非常に微妙な位置に置かれた。

 通常は王族は10歳までは母親の宮殿で過ごすが、母が死んだことにより王妃の養子となる形となり、王妃の宮殿の片隅に部屋が与えられた。

 日当たりも悪く、日に3回たった1人の次女が様子を見にくるだけの部屋で一日の大半を過ごした。

 ただし、王族としての教養の場は、兄上がユヒトと授業を受けたいと駄々をこねたお陰でそれまでと同じに受けることができたのが不幸中の幸いかもしれない。


 以前と変わらず接して、教育を受ける機会を作ってくれた兄上には感謝する一方、自分の待遇を当たり前と思い、両親に甘え、婚約者に甘え、能天気に幸せそうに過ごす兄上に段々と鬱屈した気持ちを抱くようになった。

 できないことは必要以上にやろうとしない。弟に能力で抜かれても悔しいと思わない。劇や音楽、ダンスや詩、美しい装飾品や絵画を愛して享楽的。自分の気持ちを最優先する兄にイライラが募る。

 享楽的で短慮な兄上よりも自分の方が王に向いているのではないか、という思いは膨らんでいった。




 兄の婚約者であるローザスとは立場上何度も顔を合わせていた。

 同じ年の少女は見目が良いのはもちろん、自分達と同じ年齢とは思えないほど聡明で大人びた性格をしていた。

 自分の意見をしっかり主張しながらも、相手も立てることができる稀有な能力を持っている少女は自分勝手に振る舞う兄上を諌め、公務の補助も行っていた。


 手のかかる兄の世話を呆れながらも温かい目で行うローザスの様子を見るたびに段々と母を彼女に重ね合わせるようになっていった。

 いつか、自分を同じような瞳で見つめてほしい。

 そういった想いが芽生えたのはいつだったか。

 その想いとは裏腹に、ローザスを振り回すことのできる兄上へのイライラは増す。なぜ、ろくに努力もしない兄上ばかり、こうも色々な物を持っているのだろうか。




 チャンスが巡ってきたのは学園に入学してから。

 兄上はちょっとしたトラブルから聖魔法を持つ平民の女生徒と急に距離を縮めていた。

 これを利用しない手はない。


 兄上に助言をするフリをして兄上と聖女候補が非常識な振る舞いをするようにそれとなく誘導した。

 「ユヒトは頭がいいから」と、私のいうことに疑問を持たず、盲目的に私の助言を受け入れていった結果、兄上は自分をずっとサポートしていたローザスに不信感を持ち、聖女候補に熱を上げ始めた。

 聖女候補も兄上の妨害でまともに聖女としての訓練を受けられないようにした。

 その甲斐があって、聖魔法の適正があるのにも関わらずずっと聖女認定は先延ばしされていた。



 卒業パーティーの日、この日は本当ならば私の計画の総仕上げとなる日であった。

 しかし、兄上が大衆の面前で婚約破棄という大失態を起こす前に、聖女候補に殴られ意識を飛ばしてしまうというハプニングが起こった。

 しかもその後、聖女候補はなぜか公爵家預かりとなり、こちらから接触することはできなくなった。

 あとちょっとだったのに、上手く行かない。

 このままだともうすぐ兄上とローザスは結婚して、兄上が立太子してしまうではないか。



 そんな中、聖女候補と恋仲になったという公爵家嫡男のアベルと、兄上が決闘を行うという話が舞い込んできた。

 これはラストチャンスだ。

 兄上を唆して国宝のオリハルコンの剣を持ち出させた。







 結果としては笑いが止まらないくらい私の思い描いた筋書き通りとなった。

 聖女候補があれほどまで聖魔法を使えるようになっていたことは予想外だが、アベルの剣技の訓練を盗み見ていたことで逆にこちらに有利になるように事を運べた。




 

 そんな中、聖女が急に奉仕活動をしたいなどと言い始めた。

 何も知らずに「豪華な家具ですね。」といって貴賓牢に収まった呑気な聖女はついに暇を持て余し始めたらしい。

 始終腰の低い平民の聖女に対して、侍女たちも好意的で、ここで奉仕活動を諦めさせるのもおかしい。

 正直、一度計画を頓挫させられた経験から、正式に私が立太子するまで、予想外の動きをする聖女にはあまり動いては欲しくない。

 念のため私自らが監視する形で教会での奉仕活動を認めた。



 教会での彼女の活躍は舌を巻くレベルだった。

 奇跡の力で次々と怪我人や病人を治していく。


 特に不審なことはないが、何か引っかかる。

 本能的な部分が彼女の行為に対して違和感を感じているが、具体的にどこがおかしいとは言いにくい。


 もやもやした感じを抱いたまま、奉仕活動の4日目に事件は起こった。

 王都の南地区での爆発事故だ。

 彼女は教会に運び込まれた怪我人を一気に治し、さらに騎士の報告だと、南地区の火事も一気に消火したらしい。


 その報告を城の執務室でやたらキラキラした目の騎士から受けた時、聖女の活動の違和感が一気に形となった。


 まずい、まさかこれは計算か?

 いや、そんなはずはない。あの聖女は兄上と同じ脳に綿菓子が詰まってるタイプだ。

 誰か入れ知恵を?だが、誰が…。

 あの腹黒公爵子息は教会に近づいていないはずだし、神官か?

 まさか天然でこんな事をやってのけたのか?

 だとしたらまだ修正可能か?


 背中を冷たい汗が伝う。


 このままでは私のプランが頓挫する…!

 だからと言って今から打てる手はあるのか?


 そんな私の様子に気づかず、騎士がさらに告げる。


「因みに、今日はこの後午後4時から、聖女様が教会の聖堂で民衆に御目見えをするようですよ。

 今日のご活躍が民衆の間で爆発的に広まって聖女様を一目みたいという民衆が詰めかけて大変だったようで、そのような形で民衆のガス抜きをするようです。」


 なんだって!?それはさらにまずい!!


 いてもたっても居られず立ち上がる。


「え?第二王子殿下!!!」


 今は午後3時を回ったばかりだ。間に合うか?


「教会に向かう!即刻馬車の手配を!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ