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奉仕活動をしよう!

貴賓牢とは知らなかったけど、確かに言われてみればそうかもしれない。


 明るく朝日が差し込む室内は毛足の長い絨毯と質の良い家具が置いてある。

 トイレとシャワー室もあり、公爵家の客間に負けない快適さだが、窓はすべて胸より上の位置にあり、人1人通れるくらいの大きさで、ドアもこの世界では珍しく鉄製だ。

 肩の高さにポストの投函口のような横長の穴があり、てっきり投函口かと思ってたけど、中を監視するための覗き穴かもしれない。

 そしてそもそもこの部屋の立地が城の尖塔にあたる部分にある。

 この高さでは普通は逃げられない。普通は。


 賓客扱いをするとは言っていたが、公爵家と結託して何かしでかされると困るのかもしれない。平民で知識がないのを良いことに体よく貴賓牢に入れられたわけだ。


 まあ、私も貴賓牢に入れられたことも気づかなかったけどね。

 正面からは出してくれないだろうと思って、普通に窓からこっそり出入りできたけど、アベルたんのいう通り、私が規格外なわけだ。



 外からノックが鳴ると、鍵の開く音がして侍女が2人、美味しそうな食事と、シンプルながら高そうな生地のワンピースを持って入ってくる。


「おはようございます。お食事とお召し物をお持ちしました。」


 私は慣れないが、この世界では貴族女性は侍女に着替えを手伝ってもらえるのが普通だ。私は平民ということもあり、自分で着替えたいと昨日言ったところ、形がシンプルなワンピースに落ち着いた。


 やたら光沢のある薄水色のワンピースに着替えると侍女が慣れた様子で髪をといて結ってくれる。サイドを三つ編みにしたハーフアップだ。

 手際が良くて感心する。


 食事を摂ると、用意していた紅茶が出てくる。

 うん、めっちゃ匂いいい。


 紅茶を飲みながら侍女に話しかける。


「ねえ、今日私は教会に出向いて市井の皆様に奉仕活動をしたいわ。できるかしら?」


 にこにこしながら侍女に尋ねる。


「陛下に確認をとりましょう。聖女さまとして当然のことと思います。

 さすが聖女さまはすばらしい心ばえですね。」


 怪しまれずにむしろ誉められた。やった。


「ええ、お願いしますわ。」





 侍女の2人が出て行ってしばらくするとノックが聞こえる。

 どうぞ、というと金髪金眼のイケメン、第二王子のユヒト殿下がいた。


「…第二王子殿下、おはようございます。どうされたのですか?」


「一体どういった風の吹き回しかと思ってね。

 君は聖女と言っても勤労奉仕なんか全然興味ないだろう?」


「まあ、強い興味はありませんが、私はしばらく王城か教会にしか行けないのでしょう?

 今まで好きにしていた分鬱憤が溜まっちゃって。

 でしたらまだ多くの人と話せる教会に行きたくて。」


「…ふーん。まあ、僕が目つけ役として今日一日付き添うけどね。」


「ええ、構いませんわ。」


「…なんか君、昨日までとキャラ違うくない?」


「…昨日までの態度が王子様に対して取るべき態度ではなかったと一日冷静になって気づいたのです。」


「まあ、良いけどね。

 変に逃げ出そうとか思わないでよね。」







 昼過ぎに、白地に金の紋章が入った一目で王家のものとわかる馬車に乗り込む。

 どこで聞きつけたのか沿道には人が集まり、「聖女様」「第二王子殿下」と呼ぶ声が聞こえる。

 おそらく昨日の闘技場での一件が広まったのだろう。

 昨日の闘技場には高位貴族の子息だけでなく、平民に近かったり平民相手に商売をしている貴族もいたのだ。一般民衆に広まるのも時間の問題だとは思っていたけど、ここまで早いとは。


「すごい人気だね。およそ100年ぶりの聖女なんだって?

 これでわかったろう。君は簡単に市井に戻ったり気軽に出歩くことはもう難しいんだよ。

 国で保護しないと危ないんだ。」


「…そうですね。でもどちらかと言うと教会で過ごしたいとは思っているんですけど。」


「まあ、希望は聞いておくよ。でも君は兄上の想い人でもあるからね。正式な結婚はしなくても事実上の伴侶とされるんじゃないかな?」


「……。」


 誰が王族と結婚してたまるか。

 口には出さないけど。

 バカと腹黒しかいない空間に嫁入りしたら確実に胃に穴が空くかハゲると思う。


 20分ほどで教会についた。十字架はないけど、バラ窓がついた高い屋根の建物は前世の大聖堂のような見た目をしている。


 教会の中に入ると、事前に連絡してたのもあってか、教皇様が中で待ち構えていて迎え入れてくれる。


「聖女様、よくぞ教会にお越し下さいました。」


「教皇様、ご無沙汰しておりまして申し訳ございません。

 今まで教会の活動を蔑ろにしていてすみませんでした。

 本日より心を入れ替えて民への奉仕活動に取り組みたいと思いましてこちらへ参りました。」


「聖女様…。そのように言っていただけて嬉しゅうございます。」


「教皇様、ミモザで結構です。これから一緒に働くのですもの。

 それで、私は実は聖魔法の中でも治癒魔法が得意ですの。

 できれば怪我人の救護をしたいと思ってこちらへまいりました。」


「何と…。治癒魔法をもう使いこなせるとは…。

 ではミモザ様には奥の救護院にて患者を診てくださいますかな。」


「はい、喜んで。」


「ではご案内しましょう。第二王子殿下は本日はいかがなさいますか。」


「私は聖女様のサポートとして付き添いましたので一緒に救護院に行きましょう。」


「なるほど、分かりました。ではお二方、こちらへどうぞ。」


 抜け目ないな。ずっと私にはりつくつもりかしら…。



 派手な聖堂を抜けると中庭があり、2階建くらいの建物が四方を囲んでいる。その右手の方に案内される。


 水色を基調とした装飾のないインテリアの空間にベッドが30台ほど整然と並べられていて、いまは10人位の人がベッドを使っていた。


「最近は戦争も災害もなかったからの。

 救護院で預かっている人は少ないのです。

 奥の4人は重症の怪我人、馬車の事故や崖から転落したものを預かっています。

 手前の8人は冬に流行ったたちの悪い風が重症化しての…なかなか床払いできないのです。

 教会の救護院は市井の治療院では手に負えない重症者を預かることが多いのです。」


「なるほど、そうなんですね。」

 とりあえず目に見える怪我は治した経験がある。

 奥の怪我人からやっつけていこう。


 怪我人に近寄ると、正気のない目でこちらをみてくる。

 何となく緊張するなぁ。


 右側の一番奥の少年は添え木を当てた右足をつっている。骨折かな?

 彼から始めよう。


 右手をケガのある足に添えて治るように心の中で祈ると、手からキラキラした光が出て足に吸い込まれていく。

 少年は驚いたようにこちらを見ている。


「どうでしょう?もう大丈夫だと思いますよ?」


「え?そういえば足が全然痛くない。」

 少年はそういうと添え木を止めていた布をとると、恐る恐るベッド脇に立つ。


「うわぁ、僕立てる!お姉ちゃんありがとう!!」


「どういたしまして。」


「何と、素晴らしい。彼の右足はほとんど原型がないくらい潰されていたのに…!聖女様、ありがとうございます。」


「いえ、教皇様、お礼には及びません。当然のことをしたまでです。」


 え?見えなかったけどそんなに重症だったの?


 そこから調子に乗ってのこり3人の怪我人も順に直していく。

 うん、まだ魔力的に大丈夫そう。


「あなたはどこが具合が悪いの?」


 風邪をこじらせたゾーンに入るが、ケガの人と違ってどこに治癒魔法をかけたらいいか分からない。


「…聖女さま…、肺に苦しさが残っていすのです。頭痛になることも多くて…。全身にだるさも残っています。」


 ほぼ全身じゃん!医学の知識もないし、面倒だから全身にかけてみよう。

 そう思って全身を薄く包むように治癒魔法をかける。


「すごい、呼吸が楽に。体の倦怠感も嘘のようになくなりました!」


「そう、良かったわ。」


 さらに5人に同じ魔法をかけていったところで力尽きた。

 そろそろ無理…。休もう。


 少し大袈裟にふらついて膝をつく。


「ミモザ様!?大丈夫ですか!?」


「魔法を使ったので少し疲れたようです…。」


「それはいけません。客室を用意させましょう。魔力を回復させるまで今日はそこでお休み下さい。」


「…ありがとうございます。」


「…教皇様、聖女様は王城に帰らないと…」


「ユヒト殿下、そもそも聖女様は教会の管轄にあります。

 いわば教会は聖女様にとって我が家のようなものです。

 それに具合が大層悪いようですので馬車でのご移動は負担になるのでは?

 王家は聖女様の体調などどうでもいいと?」


 そう教皇様がいった時、救護院の患者が殺気立つのが分かった。


「聖女様は私たちの恩人です。その聖女様に負担を強いるおつもりですか!?」


「しかし警護の面でも…」


「教会には魔術に優れた神官も多数おります。歴代の聖女様が造られた貴重な祭具もずっと彼らに守られてきました。何の心配がありましょう。」


「…分かりました。今日のところは教会におまかせしましょう。

 明日また、お迎えに上がります。」


「…申し訳ありません、よろしくお願いします。」


 少し腑に落ちない顔をしながら第二王子が教会を後にする。


 アベルたん、私、ミッションその1、クリアしました!!

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