Side シュタイン
馬車にゆられながら、正面の少女を見るとポッと頬を赤らめてくる。
よく見る反応に心のうちでため息をつく。
どうやら自分は見目が良いらしいと気付いたのはいつだったか。
特に身長が伸びてからは婦女子の方々から秋波を送られることは増えてきた。
こちらを見て頬を赤らめるだけという人はまだ良い方で、興味もない女性からプレゼントを押し付けてきたり、腕をとって胸元を押し付けてきたり、後を付けられたりと良い目にあったことはない。
女性の中で唯一自分をそういった目で見ないのは幼なじみであるローザス様くらいで、色恋を含まない視線に安心して接することができる。
ピンクの髪の少女は第一王子の恋人と聞いているが、自分への反応を見ると気持ちが重くなる。
余計ないざこざが起きないといいが…。
任務は最低限の距離を置いて遂行しようと心に決める。
あまり人気のない学園の北門に馬車をつける。
あまり人目につきたくないことと、寮にちかいことから、ローザス様から指示されていた。
先に降りて後ろを振り返り、乗り降りを助けるため手を差し伸べると、ミモザ嬢は真っ赤になって固まっていた。
男として当たり前のことをしたまでのつもりだったが、失敗したかもしれない。
気づかないふりをして声をかける。
「ミモザ嬢、どうされました?具合でもわるくなりましたか?」
「いっ、いえっ、大丈夫です!!」
やたらとカクカクした動きでぎこちなく馬車から身を乗り出すと手を乗せてきた。
とてもローザス様から婚約者を奪うような手管に長けた女性に見えない。
第一王子はもしかして男なれしていないこの素朴さがよかったのかもしれないが…。
馬車から降りて木に囲まれた小道を通り寮に向かう。
逃げる気配も全然ないなと思いながら歩いていると、ミモザ嬢の歩みがピタと止まる。
「ミモザじょ…
声をかけようとしたら大きく宙返りをしながら後ろに跳ぶ。
女性としてはあり得ない動きにびっくりする間も無く、ミモザ嬢のいた地面がボコッと音を立てて大きくくぼむ。
「攻撃魔法か…!」
攻撃魔法が早く飛んできた方向がわからず、周囲に警戒しながら剣を構える。
この剣でどこまで保つか…
「水よ、固まれ…!」
鉄製の細い剣に水魔法で氷を纏わりつかせ少しの強化を図る。
「危ない!!」
横から声が聞こえたと思うと体にふわっと浮遊感を感じる。
え、と思うと、私の腰と膝裏にミモザ嬢が手を回し、私を抱えて跳んでいた。
数秒遅れて、私がいた場所にボコッと凹みができる。
「シュタインさま、お怪我はありませんか!?」
いわゆるお姫様抱っこをされているが、体格差があるので自分がミモザ嬢の顔を大分見下ろす感じになる。
「…ええ、まあ、大丈夫です。」
「!良かったです。」
心底心配そうな顔をされて、戸惑いながらも答える。
なぜ、こんなに小柄なミモザ嬢が私を持ち上げられているのだ??
混乱しながらミモザ嬢の顔を見ていると、ハッと顔が険しくなる。
瞬間、またしても私を抱えたまま跳ね上がる。
やはり元いた場所には大きな凹みができている。
そのまま、2回、3回と跳び跳ねるごとに次々と攻撃魔法による陥没ができる。
ミモザ嬢は私ですら視認できないほどの速い攻撃魔法を正確に見切っているようだ。
「シュタインさまは、私が守ります。この美しい肢体に傷ひとつ付けさせてたまるもんですか…!」
真剣な顔でそう呟くと、腰に回っていた方の腕を尻の下に回し、膝下を抱き込む形で片手で抱え直される。空いた右手は正面に突き出す。
「風よ、防げ!!」
そうミモザ嬢が叫ぶと正面に空気の壁のようなものができる。
そこに一気に5、6発の攻撃魔法が次々と当たり、爆破するが、空気の壁はびくともしない。
見たこともないくらい、圧倒的な身体能力と魔法の強度。
これが聖女候補というものなのか…!?
連続した攻撃が一瞬止んだ瞬間、
「風よ、刃となれ!」
と、ミモザ嬢が叫ぶと、周囲にかまいたちが起こり、半径5メートルほど木が一気に倒れる。
そのうちの1つの木から何者かが飛び去る姿が見えた。
「もう、大丈夫そうですね。」
そういって、ミモザ嬢は周囲を見渡す。
「あの、ミモザ嬢、そろそろ、降ろして貰えませんか?」
「え?あああああ、すみません!!…シュタインさまの腰、触っちゃった。もう手を洗えない…」
ミモザ嬢は驚いて私をおろし、謝ったあと何やらぶつぶつとつぶやいている。
「びっくりしましたが、こちらこそありがとうございました。
ミモザ嬢はお強いのですね。」
「いえいえ、シュタインさまにお怪我がなくて何よりです。」
「でも、いくらお強いといっても、やはり女性ですので、ここは護衛の私に任せて欲しかったですね…。」
「女性とか護衛とか関係ありません。私は守りたいものを守ったのです。私にとっては貴方が美しく健やかなことが大事なのです。」
まっすぐな瞳で見つめられ、告げられた言葉に思わず赤面する。
この方は体や魔力だけでなく、心も本当にお強い方だ。
今まで武芸に優れ、自分は常に誰かを守るものと、自分以外は弱いと決めつけていた自分を恥じる。
世の中には、私など足元にも及ばない方がいる。
私は井の中の蛙になっていたのかもしれない。
「貴女にはきっと、敵いませんね。」
初めて言われた、私を守るという言葉にむず痒さを感じる。口角が少しあがっているのが自分でも分かる。
ミモザ嬢はぼっと音がしそうなほど顔を赤くした。
先程まで不快だったそれが今は逆に好ましく感じる。
「ミモザ嬢、シュタイン殿、大丈夫ですか?」
急に声をかけられ驚く。
公爵家長男のアベル様だ。
「魔法で襲われたようですね。
今日は念のため寮にはよらず、このまま公爵家に帰りましょう。
馬車も今控えています。」
帰り道、ひそひそと雑談するアベル様とミモザ嬢の後ろ姿を眺める。
ローザス様だけでなく、アベル様もミモザ嬢とは親しいようだ。
なぜかもやもやした気分になりながら、今後も一層修練に励もうと心に決める。
圧倒的な強さで私を守った方といつかは対等に戦いたいという目標ができたのだ。




