スキンシップを回避しよう!
装飾のない黒い馬車に揺られ、ぐったりとする。
今日は心のHPをごっそりと持って行かれた気がする…
目の前にはアベルたんが座っていてずっと馬車の外を見ている。
相変わらず会話もないし、目も合わない。
心なしか私たちの間の風がブリザードから北風くらいになった気がしないでもない…こともない…。
昼前に出たのにも関わらず、もう西日が強い時間帯になってきた。
今日はもう早くお風呂に入って寝たいなあ…と考えていたら公爵家が見えてきた。
立派な正門が見えてきたあたりで右折したので、出た時同様、どうやら帰りもお忍びのようだ。
まあ、不敬罪執行猶予中だから、馬車を出してもらえただけありがたい。
使用人用の通用門に着くと、何やら執事っぽい壮年の男性が窓をたたく。
アベルたんがドアを開けると、なにやら耳打ちする。
アベルたんに日本海峡のごとき眉間の皺が現れる。
…なんか嫌な予感がする。
執事っぽい人が馬車のドアを閉めると、アベルたんが良い笑顔でこちらを見てくる。
「クソピンク、喜べ。もう一仕事できたぞ。」
今日は早く寝たかったのになぁ…。
アベルたんの後ろをついて公爵邸を進む。
昨日通された応接室も立派だったけど、それ以上に装飾の多い広い廊下を進む。
やたらと足が重いのは絨毯の毛足の長さのせいだけではない…
分厚くごてごてした彫刻の彫られた焦茶の木のドアがの前に着くと、使用人らしき人がうやうやしくドアを開けてくる。
豪華な調度品の置かれた格式高い応接室には、背が高く、姿勢の良い金髪の男性が立っていた。
…嫌な予感しかしない……。
男性が振り向くと既視感のある青く澄んだ瞳と目が合う。
やっぱりー…。
そこにいたのはリエト・ユーグラシア第一王子だった。
私の心を知らずに、第一王子は喜色を浮かべ、こちらに駆け寄ってくる。
当たり前のように腰に右手を回してきてぞっとする。
左手は私の頬をなぞり、顔を覗き込んできた。
「ミモザ、心配したぞ。何ともなかったか?」
(ひーーー、ムーリーーー、私イケメン免疫ないんですけどー!!)
スキンシップ&やたらと甘い声のダブルパンチに拒否反応しか起きない。
鳥肌を堪えて腕を振り解き3歩下がって、記憶の片隅から引っ張り出した渾身のカーテシーを行う。
「私のような者を心配していただけるなど、光栄です。」
カーテシーからさらに頭を下げる。
「先日は第一王子殿下に大変な失礼を働き、誠に申し訳ございませんでした。」
「頭を上げてくれ、ミモザ。お前からそんな他人行儀な態度を取られることの方が心外だ。先日のことはこの通り大したことはなかった。いつも通りに接してくれまいか?」
頭上からそのような言葉が聞こえるが、スキンシップはお断りです。
念のためさらに3歩下がって顔を上げる。
「もっと近くに来て、元気な顔を見せてくれ。」
「いえ、元気なので大丈夫です!!」
第一王子は眉を下げると、応接室にいた友梨愛さんをキッとにらみつける。
「ミモザの様子がおかしい。ローザス、貴様ミモザに何をした?」
「心外ですわ、リエト殿下。何もしておりませんわ。私、ミモザ嬢とは先ほど和解してとても仲良くなりましたの。」
友梨愛さんがニコニコしてこちらを見て手招きする。
よし、合法的に王子から離れられる!!
犬だったら尻尾を振る勢いで友梨愛さんのそばによる。
友梨愛さんは目を細めて私の頭を撫でてくる。
まあ、第一王子は驚いた顔、アベルたんは鬼の形相で睨みつけてくるけど、知るもんか。ここが私の安全地帯じゃ!
「ミモザ、何か脅されているのではないか?」
「ローザス姉様はそんなことされませんよ。」
「そうです!!友…ローザス様にはとても良くしていただきました!!」
友梨愛さんのうでを掴んでにこにこと仲良しアピールをする。
「ミモザさんはこのようにおっしゃってますわ、いい加減信じてくださいませんか?」
「…どんな手を使ったか知らないが、ミモザが嫌がる様子があれば即刻引き剥がすからな!
それよりもミモザ、まずいことになった、あと2週間後にそなたの不敬罪に関する沙汰が王立裁判所より下ることとなった。
私とミモザの親しさ故の行為だと言っても判事は聞く耳をもたん。
多くの貴族がいる前でのことであるから、無罪放免とならば示しがつかんと言われたのだ…。」
「え…。」
予想していたよりも早い展開に固まる。
「そなたはそれまで、城の貴賓牢にて沙汰を待つようにとの事だ。
私がそなたを絶対守る。不敬罪が下らぬよう手をつくす!だから、一旦ここは私を信じて城まで来てくれまいか。
そなたが寮から逃げ出した痕跡があったことが心証を悪くさせておる。
逃げ回らず大人しく着いていて来てほしい。私が絶対守る!!」
ちょっと待って、貴賓牢?そんなのに入れられたら聖女になんてなれないじゃない!!
せっかく聖女の石も3つあつめたのに!!!




