86 魔族領での結婚式(後編)
「暁斗君、胡桃ちゃんはどう?」
シンシアさんがモニター等を用意している最中に、由奈が入ってきた。
ひなたも一緒のようだ。
「心を閉ざしてるせいか、反応がない…かな」
「やっぱり、あの再会の光景が引き金となったんだね」
「ああ…。 シンシアさん…今、あそこでモニター等の準備をしている人が言うには、胡桃の過去に相当の闇を抱えてるらしい」
「胡桃ちゃん…」
俺と由奈、そしてひなたは胡桃の現状に心を痛める。
式が終わったらシンシアさんが診てくれるらしいが…。
「とにかく、式が終わるまで私たちも胡桃ちゃんの側にいるよ。 会場はアイリスちゃんとクリスタちゃんに任せてる」
「済まないな、二人とも…」
「気にしないで。 私たちも胡桃ちゃんが心配だしね」
「アイリスちゃん達も心配してたけど、招待されたからね…。 話し合った結果がアイリスちゃんとクリスタちゃんを会場に残すと決定したんだよ」
「そうか…」
アイリス達も胡桃が心配だったんだな。
だが、式に招待されている以上、会場に誰か残らないといけないのもまた事実。
話し合った結果がアイリスとクリスタが会場に残ることだった。
「そろそろ式が始まるので、映像を流しますね」
「あ、はい」
「胡桃ちゃん、一応少しだけでも見ようか。 モニター越しなら大丈夫だと思うし」
「…ん」
ひなたの説得に胡桃はなんとか応じ、モニターでの映像で式の内容を見ることにした。
しかし、よく見たらこのモニター大きいな。
モニター越しでも伝わる臨場感あふれる会場。
胡桃も目を大きく開けて映像にかぶりつくように見る。
しばらくして、婿と三人の嫁が入場する場面になり、そこで見たことのある人が映っていた。
「ん…? この人、さっき見たような…」
「あ、私もさっき胡桃ちゃんの件で聞かれた時に会った人だ。 もしかして…?」
「ええ、あの三人の婿は私の兄、ザッケローニですよ」
「なんと…」
あの時に話しかけられた隊長さん…シンシアさんのお兄さんが、彼女達の婿だったのだ。
そして、由奈にも今回の件で聞かれたようなので、見覚えがあったらしい。
七絵からの報告があった際には想像がつかなかったが、ようやく理解できた。
三人の幸せそうな笑顔と照れくさそうなザッケローニさん。
モニター越しでもそれらはしっかりと目に入る。
『わぁ、三人ともすごいキレイだなぁ』
会場にいるアイリスの羨ましがる声が聞こえた。
クリスタもうっとりとした表情で、三人を魅入っているようだ。
ザッケローニさんはタキシード…かな?
なんだか、よりイケメンになってるような雰囲気を醸し出していた。
そして、神父によるスピーチの後に誓いのキスまで披露した。
流石にこれは見る側としては恥ずかしかったが、式を挙げた際に必要なので見ておく。
キスの後はケーキの入刀。
その後は、三人の嫁とザッケローニさんの決意のスピーチだった。
「そういえば、暁斗さん方は式を挙げられましたか?」
「いえ、色々あってまだ…。 一応、イリアさんには余裕があったらお願いすると言いましたが…」
しっかりと会場の模様を見ている俺は、シンシアさんから式を挙げたのかを聞かたので、即座にまだ挙げていないと答えた。
手続き上、ひなた達は嫁として迎えているので問題はないが…。
「まぁ、ドレスは着たいって希望はあるけど、問題が山積みだしね。 ある程度片付けないと安心して式を挙げれないっていうのが本音ですが」
「うん、追手やら脱走勇者とかの問題があるしね…」
「なるほど…」
ひなたも由奈もウェディングドレスを着たいという願望はあるが、今は問題解決の方に舵を切っている。
二人の願いを叶えるためにも、早く問題は解決しないといけないなと、胡桃を膝に乗せて会場の模様を見る俺は密かに決意をした。
こうしているうちにセレモニーが終わったようだ。
だが、シンシアさん曰く、これは前半に当たる部分らしい。
後半は食事会という二次会が開かれるが、30分のインターバルを設けているのだとか。
「食事会に出す料理をこちらに持ってくるようにできますが…」
「ええ、お願いします」
未だに胡桃の精神状態が良くないので食事会も俺と胡桃はこの部屋ですることにした。
シンシアさんの指示の元、部下たちがテーブルを持ってくる。
その時に足音が聞こえた。
そして…
「胡桃っ…!!」
「あ、七絵…」
俺に抱きかかえられている胡桃は、七絵の声が聞こえたのでその方向を向いていた。
七絵も涙目になってこっちを見てる。
「ごめんね、胡桃…。 友達の再会に浮かれてて胡桃の事、考慮してなかった…」
「ん…、にぃが宥めてくれたから…」
「暁斗先輩もすみません…」
「ああ、気にしないでくれ。 それよりも…」
涙目になって謝る七絵に、俺は気になった事を聞くことにした。
「七絵は、胡桃の過去を知ってるのかい?」
「過去…ええ、知っています。 私は小学生から友達として接してたし、私の両親も何度か胡桃を保護していたので。 胡桃…話していい?」
「ん…、にぃ達にこれ以上…心配を掛けたくはないから…くるみの代わりに…」
胡桃が震えている。
トラウマめいた何かがあったのだろうか?
「ひなた、由奈。 胡桃を頼む」
「うん、分かったよ」
「胡桃ちゃん、行こうか」
「ん…」
胡桃は俺からバトンタッチする形で由奈に抱きかかえられる。
そのまま一旦部屋を出た。
なるべく、胡桃に刺激を与えないように…。
「済まないな。 それで…胡桃の過去とは…?」
「はい、まず胡桃の両親ですが…かなりの毒親だったみたいです」
毒親…。
それだけで、単純な話じゃ済まされない…そんな予感はしていた。
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