飼い主に似る
「『瘴気で覆われたその男達だが、まだ腕輪か何か装備しているか?」』
俺は、瘴気纏い盗賊頭の時と同じなのか、アシェリに瘴気が濃く発生している装備が無いかを尋ねた。
「『ありますね。三人とも、腕に瘴気が滲み出ている腕輪を装着しています』」
「『そうか、なら先ずその腕輪を腕ごとで良いから斬り落とせ。それで戻らなければ、此方も覚悟を決めなきゃならんな……その場合、俺が行くまで逃げ回れ。トドメは俺がさす』」
「『……先ずは、腕の斬り落としを試してみます』」
通信魔法を通して、伝わってくるアシェリの強い覚悟を含んだ声を俺は聞いて、更に飛ぶ速度を速めた。
(子供に殺しなんてさせるかよ…)
「もっと……もっと速く早く疾くだぁあああ!」
俺は、限界を超えて空を駆けた。
「ご主人様とのお別れは済んだカァ、犬っころぉ? 今から俺らが、お前のご主人様ダァ! ケツでも振って、命乞いでもしろぉお!」
私は、その言葉を聞いて思わず嗤ってしまった。
「何が可笑しいノダ! 恐怖で気でも触れたか? ギャハハ!」
「ごめんなさい。なんだか可笑しくって。何でさっきまで、貴方達如きに萎縮して諦めてしまったのでしょう? 私は主様に拾われてからこれまで、もっと暴力的で狂い猛々しく……そして優しい殺気と威圧を、この身に受けていたのに」
「何を言って……」
私は立ち上がり、吹き飛ばされた冒険者達へと瞬時に駆け寄った。
「なっ! あいつただの奴隷じゃないのカ!」
私は『駿足』を使用し、あの三人から一気に距離をとっていた。
「よかった。まだ生きてる。気絶しているだけみたい」
「おいおい! そんな雑魚どもほっといて、俺たちと楽しもうゼェ!」
私は三人向かい顔を向ける。
「そうですね。お待たせして申し訳ございません。それでは遊びましょう?」
私は三人に嗤いかけながら、スキルを発動する。
「『輝夜の刻』」
私は身体に貯めていた月光の力を、解放した。身体が、元々の姿へと形を変えていく。子供の身体で付けていた装備は、月狼の巫女の装束へと置き換わる。そして眼帯を外し、瞳を三人に晒した。
「お前……何なんだ一体!」
悪神の聖痕が浮き出た左眼を見開き、三人を見つめる。
「何だって良いでしょう? さぁ、殿方達あぁそびぃましょぉ」
巫女装束に両手にナイフを二本手に取り、牙を見せながら嗤ってみせる。
「ひぃ!? 何だってんダァ! 野郎共やっちまうぞ!」
「「へい坊チャン!」」
私に向かって、取り巻き二人が向かって走り出す。先程まで速いと感じた奴らに動きも、今は止まって見える。
「『輝夜の願い』『月光の舞』」
「「ギヤァアアアアア! 目がぁああああ! 腕があぁああああああ!」」
月光の舞により、全身より輝かしい光を向かってきた二人の取り巻きに照射し、その光の中を一直線に駆け一気に全身を斬りつけながら、腕輪を装備していた方の腕を斬り落とした。
そして、切り落とされと腕についていた腕輪を、踏みつけ叩き壊した。
「ゲス! ゴス! 身体が戻っちまっタだと!?」
「あら? おにいさんお二人はもう、身体も萎んでカッコ悪くなってしまいましたねぇ。私の知ってる『お鬼ぃさん』と違って、弱くて情けないですね。ふふふ」
「馬鹿にするなぁあああ! 貴様の首を、あのクズ冒険者に叩きつけてやるわぁああ!」
「それは無理でしょうね……『輝夜の歌』」
私は歌った
闘える喜びを
悪意に立ち向かう事が出来る喜びを
月への想いを
「「「うふふふ、さぁおにいさぁあああん、あぁああそびぃましょオオオオ」」」
「なんだ……これは……奴隷が増えて……ひぃ!? 寄るなぁあ! くるなぁああああ!」
私の歌は、聴いたものを狂わせる。
狂り狂りと狂いだす。
「そろそろもう寝なさい『闇夜の散歩』」
「暗いおぉお! くるなぁあああ! ぎゃああああ!」
私から闇が噴き出しザコスを包み込み、幻影と共に斬りかかり、取り巻きと同じように全身を斬りつけながら、腕を斬り落とした。そして、瘴気の腕輪を踏み壊した。
「はぁはぁ……やっぱり月が出てないのに……溜めてた月光だけでは……きついわね」
そして私の目からは、瘴気が滲み出てきていた。
ザコスが隔離結界を発動していたらしく、四方を囲んでいた薄い膜が消えていき、空からが私を月光が照らしていた。
「それに、この姿だと……やっぱり聖痕の力が抑えきれない……早く戻らないと……」
私は両親と旅をしている時、『悪神の聖痕』の力を抑える為に『輝夜の時戻り』で、十六歳だった私の身体を、子供の頃の身体に成るまで時間を戻した。そのお蔭で身体に付いていた聖痕の状態を、聖痕の力を抑えることが出来ていた。
しかし、『輝夜の刻』で本来の姿に一時的でも戻ると、聖痕も同じく成長してしまう。
私が『月への帰還』で、再び十歳の身体へと戻そうとした時だった。すぐ耳元で、粘りつくような気持ちの悪い声が聞こえた。
「勿体ないぞ? そんな良い女が、クソガキに戻るなんてなぁ」
「がはっ!?」
そして私は、いきなり背後から背中を蹴り飛ばされた。
「おいおい、人間の貴族って奴は偉いんじゃないのかよ? 偉いって事は強いって事じゃないのかぁ? 弱いなぁお前」
ザコスが彼奴を見て叫ぶ。
「お……おい! お前はラオライン! 早く俺を助けぐぎゃぁあああ!?」
彼奴は、容赦なく三人を瘴気の炎で焼き殺した。
「はぁ、貴族ってのは偉い人間だって聞いてたから、俺達も遊びに公爵だの伯爵だの付けてたんだが……偉いってのは強いって事じゃないのか?」
「ぜぇぜぇ……お前が、ザコス達に瘴気の腕輪を渡したの……?」
「ん? あぁ、欲望、嫉妬、恨み何か持ってる奴は、良く瘴気が馴染むからなぁ」
「クズめ……」
私は、ラオラインと呼ばれた彼奴を睨みつける。
「ほぉ、せっかくもう少しで絶望に染まるってとこまで、調教してやったのに、目から絶望の色が見えないなぁ」
「もう私は、お前達に絶望する事はないわ。それにお前は、何でそんなに服がボロボロなの? そんな情けない格好で格好つけないでくれる? 笑えるわよ?」
「うるさぁあああい! お前の次は彼奴だ!……くっくっく、強気だなぁ。あの冒険者を大分信頼してるようだなぁ? 何だ惚れたか? あぁ? 獣が人に惚れるとは傑作だぁ! ハァアハッハッハ!」
「ふふふ、お前は何を言っているのでしょう?」
「何を笑っている。あの男の様な、その薄気味悪い笑い方をやめろぉ!」
「私は、ヤナ様の奴隷。信頼? 惚れた? 彼は私のご主人様よ? もう私は野良の狼じゃないわ。狂い舞うご主人様に付いて、狂い踊る飼い狼。命すらもうご主人様のもの。ご主人様の命令はただ一つ。『嗤いながら戦え』よ」
そして私は最高の嗤い顔でラオラインを見る。
「知ってる? 飼われた狼は、飼い主に似るのよ? 『完全獣化』『月狼』」
私の身体を月光が包み込む。魔力と月光が混ざり合い、私の身体を巨大な狼に変えていく。
「ウォオオオオオオン!」
私は月に吠える。
「は! 今度は逃げねぇのかよ! サクッと狩って、ご主人様に毛皮を届けてやらぁ!」
とうさま、かあさま、一族の仇を目の前にして、あの喉元を喰いちぎる為にガチガチと私は牙を鳴らす。
嘗て私は絶望していた
自分の弱さに『絶望』していた
戦わず逃げる事に『絶望』していた
戦士の誇りを失う事に『絶望』していた
嘗て私は月に願いを掛けた。
『絶望』に抗う勇気をください
この眼に打ち勝つ力を下さい
そして月は私の願いを叶えてくれた
もう私は絶望なぞしていない
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





