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激突

 世界は、闇に包まれた。


 まるでRPGのプロローグのような表現だが、しかし現実にそれは起きた。空に瘴気が瞬く間に広がり始め、日の光を奪っていった。


「アメノ、これは一体どうなっているのだ」


 王城の玉座に座るジャイノス王は、アメノに問いかけた。アメノは王の御前であるにも関わらず、既に二振りの刀を抜刀していたが、その事について誰も咎める者がいなかった。それほどまでに、肌を刺すような殺気を身体中に二人とも感じていたのだ。


「儂にも全く分かりかねますが、瘴気が尋常でないほどに広がっているのを感じますな」


「ヤナ殿や勇者達が、悪神に敗れたと思うか?」


「どうでありましょうな。それならそれで、嬉々として悪神が世界に向けてそのことを伝えてきそうではありますが……王よ! 来ますぞ!」


 アメノが王の間の天井を見上げ、ジャイノス王に向かって叫んだと同時に天井が崩れた。


「この魔族は……瘴気に呑まれておるな」


 崩れ落ちた瓦礫の中から起き上がった魔族は、禍々しい程に瘴気を身に纏い、この世の者とは思えぬ叫び声を上げた。


「く……声だけで精神が狂いそうだ。だが……アメノ、どうだ。これは釣れたと思って良いか?」


「恐らくは、一本釣り出来たでしょうな。まぁ、他にも釣れているようじゃが」


「ぬがぁああ!」


 アメノの言葉に応える様に、瓦礫の下から咆哮とともにガストフ支部長が飛び出した。そして同時に二丁の魔導拳銃を魔族に向かって連射しながら、アメノ達に顔を向けた。


「陛下、無作法な謁見にて申し訳ございません。何分、学がない者で」


「良い、気にするな。此処には、既に王など居らぬ。俺は、一人の戦士として此処におるのだ」


 ジャイノス王は玉座から立ち上がると、全身を王家に代々伝わる王者の装備一式に見を包み、手には王者の剣を手にしていた。


「ガストフ殿、外の様子はどうじゃ」


「コイツ以外は、個体毎の強さは何とかなっている。ただ、わんさかと湧いてきているからな。物量で押し切られてもおかしく無い。こっちの首尾は、どうなってる」


「見ての通り、老兵以外の先鋭で、姫と大臣達を召喚陣と共に護らせておる。儂らが死なぬ限りは、そっちには目に行かぬよう術を施したわ」


「ケイン騎士団長とライアちゃんは、納得しなかったろ」


 自動小銃の様な魔導銃を換装すると魔族に再び集中砲火させながら、ガストフ支部長は苦笑していた。


「儂だけなら、彼奴らも命令を聞かんがの」


「王命なら問題無い。王女と勇者の帰るべき場所の死守を命じれば、あの頑固者も従わずにはいられん」


「主君を護らせて貰えない騎士も不憫だが、仕方なしか」


「彼奴らの主君は、もう俺ではない。避難させる直前にエミリアを女王としたからな。大臣連中の隙を突いて移譲したから、後で説教を受ける羽目になるがな。だから俺は一人の戦士として、エミリアの父親として此処にいるのだ。そういうことだ、ガストフ。お前と一緒に連んでたアルフォンになったと言うことだ」


 ジャイノス王改めアルフォン・ジャイノスは、不敵に笑いながら魔力を全開放させ、全身から猛る焔の如く魔力が迸っている。


「うちらのパーティはお前が王になりやがったせいで、大変だったんだぞ。“済まん! 俺、王になる!”とか抜かしていきなり身分明かして出て行きやがって。もう王じゃ無いなら、あとで殴らせろ!」


「あぁ、後でな」


「さて、二人とも此処は王都の中心にして最大の防衛戦じゃ。儂らが死ねば、誰もこの国では太刀打ちできんじゃろう。それもまた、情けない話じゃがの」


「アメノよ、これが終わり次第に今一度この国の指南役になり、後輩どもをしごいてくれ。周囲の魔物の弱さにかまけ、平和すぎたからな」


「そうですな。血反吐を全て吐き出し、そこからが第一歩ということをもう一度、魂の髄まで叩き込んでやりましょう」


 このとき召喚陣の部屋で、何故か酷い悪寒に襲われた騎士団長と筆頭魔術師がいたらしい。


「さてと、豆鉄砲じゃもう止まってくれないほどに、瘴気が奴さんの力を増大させているみたいだ。準備は良いか?」


 ガストフの言葉ともに、アルフォン・ジャイノス、アメノの両名は頷いた。そしてガストフが先ほど持っていた二丁拳銃の倍はありそうな大きさの魔導銃を換装し、自身も魔力を全開放した。


 そして、一匹と三人の命の削り合いが始まった。



 王都の防壁は冒険者達や兵士、騎士団が一丸となって護っており、魔物や下級魔族の大群に対して決して押されていなかった。最も警戒すべき最上級魔族を王城で押さえていた為だった。


 誰も逃さぬように全方位から群がっていた魔物達は、拮抗した状態が暫く続いた後に突然大移動し始めた。


「どうなってる!?」


「正面の大門に魔物達が集中し始め、一点突破を目指している模様!」


 数が数であり、一点で攻められる方が押し切られる危険があり、これまで軍や騎士団、冒険者達がわざと拡散させていたが、瘴気が濃くなるにつれて、まるで挑発が効かなくなってしまっていた。


 防衛隊を遥かに上回る敵の軍勢に、一人また一人と限界を迎え倒れていく。しかし、それでも戦う者達に諦めの色は見えない。


 何故なら、ある男を知っていたからだ。魔物の大氾濫に大して決して引かず戦い抜いた“変態の中の変態(ヤナ)”の事を。


 だがしかし、現実は厳しく非情である。数の暴力の前に前線は押し込まれ、大門の目の前まで魔物達は辿り着き始めた。そして絶望はいつでも追い討ちをかけようとする。


「おいおいおい……ありゃ……なんだよ」


 城壁の上の見張りの兵士が目を疑ったのは、オーガの三倍はあろうかと思われる魔物が迫っていたからだった。更には身体には他の魔物よりも濃い瘴気を纏い、吼える叫び声は城壁を揺らすほどだった。


 現場指揮を任されていた五蓮(ゴレン)(ジャ)が一目それを見て自分達でどうにか出来るレベルを超えていると判断し、城壁の中へ総員を退避させる判断を下した。


 そして辛うじて相手が出来るかもしれない自分達のパーティのみが殿として残り、全員が退避出来る時間を稼ごうとした。


 リーダーのクロの判断に、他のメンバーは黙って頷く。迫り来る死期に最後まで抗い、己の命尽きるまで戦う五人。そして振り下ろされる巨大オーガの一撃。


 受け止められる筈はない。わかっていても五人は自らの剣を、拳を、杖で迎え撃ったのだった。




「あらやだ、いつのまにアンタ達カッコ良くなったのよん」


 巨大オーガの一撃は、たった一人の性別不詳の宮廷料理人の腕が受け止めていた。はち切れんばかりの筋肉を隆起させながら、仁王立ちで佇むその姿に戦場の刻は止まった。


「王都に入り込んでた魔族達は、昇天するまでお仕置きしたわん。ひよっこだったアンタ達が……頑張ったわね」


「「「クックルの兄キぼふふぁへら!?」」」


 そして大門の前まで、クックルに殴り飛ばされる五人。


「「「ありが…とう…ございます…お姉ぇ様」」」


「いいわん。しっかり回復してもらって、早く戻ってきなさい。他の子達もねん。それまでは、私が戦線を……押し返しとくからぁあああ! ぬおぉおおおあああああ!」


 その姿まさに筋肉の悪魔(マッスルデビル)。着ていた調理人の服は上半身が更に膨れ上がった筋肉により弾け飛び、どういう術か分からないが身体は一回りも二回りも大きくなっていた。


 かつて流離の冒険者がいた。その冒険者には夢があった。それは一流の料理人になること。


 世界中を旅し、世界中の食材を口にし、腕を磨いた。辿り着いた王城の料理長という頂き。


 繰り出す拳は重く硬く、魔物達の行軍を吹き飛ばしながら、前線を城壁から押し返す背中は、人々に希望を与える。


 この時より、クックルは人々にこう呼ばれることになる。


 “筋肉兄…姉御”と。




『ふむ、中々楽しませてくれるね。この時代の英雄達も』


 簒奪神ゴドロブが楽しげに呟く。


『まぁ、だがもう最終盤なんでね。それに私の復活祝いに、もっと絶望の叫び声が聞きたいんだ』


 簒奪神ゴドロブは空に向かって瘴気を送り出すべく、右腕を掲げた。そして、各地に送り込まれた魔物と魔族に更に瘴気を送り込むべく瘴気を放とうとした瞬間だった。


「ゴドロォオオオオオブゥウウウウ!!!」


 ヤナの咆哮がそれを止めさせたのだった。


『ふふふはぁはははっはははは!!!』


 そして神の笑い声と共に、最終決戦の幕が上がったのだった。


↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)

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