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宣言

「侵略? どういう事だ?」


 エイダさんの言葉に、俺はモザイク処理されたアレク護衛団長を神火の式神(シキガミ)で拘束しながら、聞き返した。


「原因不明の死の病が、広まりつつあるとの事ですね。どうやらその病にかかると、幻覚を見るようになり錯乱しながら、最後は命を落とすらしいです。そして、何より特徴的なのは死後に遺体が崩れ出すと言うものです」


「という事は、南都支部ギルドで見たアレは」


「えぇ、おそらくはその死の病にかかったエルフなのでしょうね」


 エイダさんは無表情で、モザイクアレクを眺めながら答える。


「だが、何故その死の病にかかったエルフは、『外』にいて更には『世界樹』と『女神』の言葉を吐いていたんだろうな。エイダやエディスの話じゃ、世界樹と女神の関連はエルフが全員知っているという類の情報ではないんだろ?」


「私でさえ、『外』の遺跡を調べて関連している可能性を感じたくらいですから、少なくとも若いエルフは知らないでしょう」


「そっか、二人ともエルフの中では(・・・)、若いんだな……うん、俺が悪かった……二人とも十分若い……二人して、マジックバックから縄を出すな……謝るからアレ(・・)は勘弁してくれ」


 エイダさんとエディスが、無言かつ無表情で縄を準備し出したので、俺は即座に誠心誠意に謝罪した。アレは完全にガチな目だった為に、こっちもガチで謝罪をした。


「マスター、新たな異世界への扉が開くかもしれませんよ?」


「『既に異世界にいるのに、更に新しい扉を開けなんて開きたくないわ……』」


 ヤナビの洒落にならないボケに、ツッコミを入れている間に神火の式神(シキガミ)がモザイクアレクを拘束しながら抱え込み、移動可能な状態へと準備が完了した。


 再び俺とエイダさんを馬車の外に残し、他のメンバーは俺が再度作れ直した神火の馬車(キャンピングカー)中に入り、俺たちは進行を再開した。モザイクアレク及び矢を射ってきた部隊は『鉈を持った鬼(悪い子はいねがぁ)』が馬車後ろから担いで付いてきている。


「完全に、マスターが悪役の絵図ですね」


 ヤナビの消音(イヤホン)モードでの呟きを、スルー(無視)しながらエイダさんの案内を頼りに樹海を進み始めた。




「結局、挨拶はあれだけか?」


 モザイク処理済みアレク護衛団長達からの挨拶(・・)以降は、何もなく拍子抜けする程順調に道を進んでいた。


「恐らくはこのまま、エルフの里まで行けるでしょう。アレク護衛団長よりも手練れは、私の記憶には守護兵長ぐらいですが、流石に出てこないでしょうね……ただ、王の手駒がそれだけとは、思えませんが」


「まぁ、普通に考えて暗殺部隊ぐらい持ってそうだが、エルフ自体が外と関係を絶っているのに、そんな部隊があるのか?」


 俺は|神火の馬車を操作しながら、隣に座るエイダさんに思ったことをそのまま伝える。


「ダーリン、それは逆ですね。『外』との関係を絶っているからこそ、そういった部隊が大事なのです。外からエルフを脅かす者を調査し、人知れず排除する役割を彼らは持っています。そして、逸れエルフの始末を兼ねています」


「言われてみれば、確かにそうか……最後の逸れエルフって言うのは、エイダやエディスみたいな家出娘の事を言うのか?」


「家出娘……あながち間違いではないですが……その通りです。里から何かの使命を持って出たのではなく、自分の意思で外に出た者の事です。恐らくですが、逸れエルフとして活動出来ているのは、私とエディスぐらいでしょうね」


「ん? だが、冒険者にもエルフはいるだろう?」


「エルフの冒険者は、全て暗部の者ですね」


「は!?」


「最も、その事を知っているのは王族だけですから、エディスは私がその事を伝えるまでやはり知らなかった様ですし」


「知っていたエイダさんは兎も角、エディスは良く生き延びたな……なるほど、ガストフ支部長か」


 まだ戦う力もないうちに里を飛び出したエディスが今日まで生き延びたのは、ガストフ支部長のお陰だろう。エディスは、ガストフ支部長が単独で王都から出ることを許可しなかったと言っていたが、『悪神の巫女』だと知っていたこと以外にも、コレが理由かもしれない。


「えぇ、彼女は本当に運が良かったのでしょう。彼は特殊なスキルを持っている上に、Sランクの冒険者に至る程の実力者ですから。恐らく、エディスの知らぬ所でずっと守ってきたのでしょう」


「ガストフ支部長……どんだけ男前だよ、あのおっさん……」


「コレが、格好つけない格好良さですよ、マスター」


「『やかましいわ。人を格好付けてるみたいに言うな』」


「え?」


「『え? じゃねぇよ……』」


 俺がヤナビの辛辣な言葉に微妙な顔をしていると、エイダさんは若干怪訝な顔をしながらも道案内を続けた。




「そうか、アレクは失敗したか」


 王は、誰も姿を見せていない王の間で一人空虚な空間に向かって言葉を投げかけた。


「如何なされますか? 王命さえ戴ければ、我らの命と引き換えにでも始末してきますが」


 王に向かって、何もいない筈の空間から言葉が返ってきていた。


「まぁ、良い。放っておけ、元よりアレクで抑えられると思っておらんかったからな」


「そうなのですか? アレク護衛団長は、確かに姫に対しては甘いですが、それ以外に関しては非常に優秀な戦士だと思っていましたが」


 王は、返ってきた言葉を聞くと玉座に深く座り目を瞑りながら、確信に満ちた口調で言葉を吐く。


「アレも今回で三度目だ。次は無いと考えている筈だろうからな、それくらい力を付けたか手駒を揃えたかしてきているだろう」


「やはり、次は無いのですね」


「無い」


 王は断言すると、手を振り上げた。王の間には、再び静寂が訪れた。


「女神様の意志か、悪神の意志か……どちらであろうな」


 王の言葉に応える者は、誰も居なかった。




「ダーリン」


「あぁ、着いたみたいだな」


 モザイクなアレクからの襲撃から数時間が経った頃、樹海を進んでいくと明るく開けた場所へと辿り着いた。


「随分歓迎してくれているみたいだ」


「此処は『門』中でも、王族の住む王宮に近い門ですから」


 光が差し込む広場が目に前にあるだけで、エイダさんが表現する『門』は見ることは出来なかったが、周りに潜む者達の気配は十分に感じることは出来た。


「流石に、此処からは私も本来の姿にならないと通ることは出来ないでしょうね。ヤナ様は、神火の馬車(キャンピングカー)解除(リリース)して下さい」


「あぁ、わかった」


 エイダさんに言われた通り神火の馬車(キャンピングカー)解除(リリース)する為に、中に居るアシェリ達に一声かけた。全員が外に出てきた事を確認すると、神火の馬車(キャンピングカー)解除(リリース)した。モザイクなアレク達を抱えるは、取り敢えず邪魔にならない様に隅の方に『鉈を持った鬼(悪い子はいねがぁ)』を待機させた。


 そして、エイダさんが光の差し込む広場の中央に立ち、その後ろに俺が周囲に警戒しながら立っていた。アシェリ達は俺の後ろで各々が周囲警戒しながら立っていた。


「『門』を護る者達よ! 我は、ハイエルフの王リブラインの娘にしてハイエルフの姫エイダ! 王族の権限にて、『門』を開けなさい!」


 エイダさんが、誰も居ない空間に向かって名乗りを上げ、『門』を開ける様に要求した。数十秒間の静寂が続いた後に、誰も居ない空間から声が響き渡る。


「ハイエルフの姫である証を示せ」


 その声に反応する様に、エイダさんの方だが淡く光だし髪の色が金髪から銀髪へと変わっていく。そして、耳も人族のそれからエルフ耳へと変わっていく。


「『銀瞳』は、ハイエルフの証! しかとその目に確認しなさい!」


 エイダさんは、俺たちに背を向けているため確認出来ないが、エディスの翠色の瞳と違い銀色の瞳を持っているらしい。それが、ハイエルフの証だと堂々と宣言していた。


「しかと確認致しました。ハイエルフの姫君エイダ様。ご無礼をお許し下さい。それでは、エイダ様()『門』をお入り下さい」


 声だけの存在は、どうやらエイダさん事を本物だと確認したらしい。偽装している可能性ある筈だが、エイダさんが『銀瞳』を見せて直ぐに本物だと確認していた為、何かしら確認する手段を持っているのだろう。


「私でけではなく、此処にいる者は全て『門』を通ります」


「それはなりませぬ。『門』を通る事が出来るのは、使命で『外』に出た者と王族のみです。見たところ、逸れエルフ一人と、その他はエルフですら無い者達ばかりの様ですし、到底『門』を通らせる訳にはいきません」


 俺は、予想通りの展開に溜息を吐きたくなったがエイダさんは違っている様だった。


「確かにただの冒険者達であるのであれば、『門』を通る資格は無いでしょう」


「そうでは無いと仰るのですか?」


「私の後ろにいる青年は、私の『夫』であり、その後ろに並ぶ女性達は私と同じく彼の『妻』となった者達。即ち全員が王族という事です」


「……全員が『妻』と言うのですか?」


「勿論、夫の外での二つ名は『女狂いの黒き野獣(好色漢)』。正にその二つ名に嘘偽りない性癖を持っているのです」


 俺は全力で否定したかったが、エイダが真面目な声の調子で説明をしている為、此処はぐっと我慢した。


「なるほど、発情男(スケベ)という訳ですな」


 キレてません。キレマセンよ?


「姫の夫と言うその男は、姫に敬意を払い王族の伴侶として『門』を通る事は許可しましょう」


「他の妻は駄目だと?」


「当たり前です。姫も分かって言っているのでしょう? その男は王族の伴侶であって、エルフの王族ではありません。当然、その妻達はエルフの王族とは全く関係ありません」


 声だけの主は、毅然とした口調できっぱりと言い放った。言葉には出ていないものの、俺たちを蔑むような雰囲気だけはしっかりと伝わってくる。


「同じ男を、夫とする妻達です。私と同列と見て良いのではないですか?」


「流石にそれは、強引すぎます。その男だけでも、相当に姫に譲っているのです。そもそも、自分から里を出て行き卑しくも生き残った逸れエルフに、獣臭い獣人、竜の矜持を忘れ人に懐く竜、そして非力な人族。エルフの里に何用か知らぬが身の程を弁えるのだな。ましてや、姫が同列だという言葉をまにうけるでないぞ?」


 今度は完全に嘲笑を含む声で、アシェリ達を馬鹿にしていた。若干、後ろから殺気を感じ始めたが、交渉しているエイダを気遣って、彼女達()キレることは無かった。


「貴様も姫のご機嫌とりなのだろう? 二つ名から察するに、夜の方が得意そうだが今回は姫が里にお帰りになられた事を考慮して『門』は通らせてやる。ただし、腰には紐でもつけて柱に括りつけてもらっておくのだな。エルフの女も男も、お前達とは比べるわけもなく美しい。姫に愛想を尽かされないように、せいぜい気をつけるのだな」


 勿論俺はキレナイ。A級試験の時ゴーンベ室長とのやりとりが、俺を成長させているのだ。此処でキレてしまったら、何の為に全員を『妻』という設定を認めたと言うのだ。此処でキレたら、既成事実だけが残ってしまう。


「チッ……中々成長してますね……」


 どこかの悪辣メイドの声が聞こえたような気がしたが、その手は食わない。この人は、面白いと思ったことはヤる人だ。俺は、門番とエイダさんの会話を聞いて確信した。


 間違いなく『嫁』の設定は、意味なかったと。エイダさんは、この展開を初めから見越していたに違いない。俺は深呼吸しながら心を落ち着かせ、改めて自分の敵を認識する。



 敵は、銀髪銀瞳の悪魔だと。



「門番よ、一つ訂正を入れます」


「何でしょう? そこの男は『夫』ではなかったと言う訂正なら、いつでもして頂いて構いませんが」


「いえ、そこは全く訂正はありません。訂正は『夜が得意』という部分です」


「は?」


 俺はエイダさんの訂正部分に嫌な予感を感じ、思わず声を出してしまった。


「彼は、一度も私たちに手を出していません」


「はい? それは……フハハハハ! いや、失敬。しかし、ぶふぅ! それで、あの二つ名ですか? ただの萎れた男ではないですか。くっくっく、よほど自信のないモノしかなく、それでも見栄を張っての自称ですかな? こんな情けない男を見たのは、久しぶふぅう!」



「あなたのモノが、自信を持てるかどうか確認するわよ?」

「主様……寧ろもっと言われて発奮しくれませんかね?」

「私達で自信をつけて貰えれば、それで解決です!」


「お姉ちゃん達、悪い顔してるね」


「ヤナが覚悟を決めぬのが、原因なのじゃ」


「……ふふふ、耐えたぞ? いつまでも俺が思い通りにキレて失言すると思……」



「そこの嫁共は、結局何処ぞの尻軽を金で買ってきたのだろう? 情けないお前にお似合いだな」


 その言葉を聞いた俺は、静かに腕輪と指輪を外した。


「『明鏡止水(精神統一)』『双子(ツイン)』『三重(トリプル)』『神殺し(限界超越)』『天下(身体能力/魔力)無双(増幅増強)』」


 俺は「六倍掛け」した魔力を全開放した。




「スキルの暴走なぞクソ食らえだ……全員、俺の自慢の嫁だぁあああ!」




「「「「「おぉおおおお!」」」」」


「結局、キレましたねマスター……しかも大声で、自ら宣言を……」




 正面玄関ぶち破ってお邪魔しますよ、お義父さん



↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)

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