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一生の不覚

「ぐふ……姫の……為に……俺は……負けられぬ!」


 俺に胸を十字に切り裂かれながらも、アレク護衛団長は気力で耐え、再び俺に斬りこもうとしていた。


「ぐっ……悪いな……こっちも仲間の首を……取らせるわけには……行かないんでね! 『起死回生(窮地:能力倍増)』!」


 アレク護衛団長と同じく、胸を十字に斬られていた俺は『起死回生(窮地:能力倍増)』を発動した。そして、アレク護衛団長の決死の踏み込みを躱し、そのまま最後は峰打で地面に叩き伏せた。叩き伏せた衝撃でクレーターのように陥没した地面には、アレク護衛団長が白目になりながら失神し倒れていた。


「はぁはぁ……ぐっ……流石、王直属の護衛団長ってとこか。ライ、こっち来て回復を頼む。あとは……エイダ、アレク護衛団長をコレ(・・)で逃げられないように拘束しといてくれ」


コレ(・・)は?」


「神火を形状変化(デフォルマシオン)で創った縄だ。普通の縄じゃちぎられそうだしな。それに、エイダならエルフが抜けられない捕縛の仕方も知っているだろう?」


 エルフの事はエイダさんに任せるのが一番良い為、神火のロープをエイダさんに手渡した。エイダさんは、手に取った神火のロープを引っ張ったりしながら強度や硬さを確認すると、白目をむいているアレク護衛団長の方へと歩き出した。アレク護衛団長の方へと歩き出す直前に、エイダさん顔が嗤っていた気がするが気のせいだと信じたい。


「『ヤナビ、矢を撃ってきてた部隊は拘束したのか?』」


「はい、 マスター。『鉈を持った鬼(悪い子はいねがぁ)』が、顔を向き合わせる形で抱きかかえながら拘束中です。もっとも、全員が白目を剥いて気絶しておりますが」


「『……取り敢えずそのままでいい。エルフの里に着いて王宮の場所がわかったら、そこへぶん投げてしまえばいいさ』」


「……マスターも、大概だと思いますよ?」


 俺がヤナビとどっちが酷いかを念話と消音モードで言い合っていると、俺とアレク護衛団長の傷が完全にライの神聖魔法により回復した。


「う……生きてる?……貴様ぁ! 斬った相手に情けをかけ……たのではないのか?……見ないでくれぇええ!」


 俺は、エイダさんがどんな風に縛っていたかを視界の縁に捉えながらも、完全に見ないふりをしていた。


「憐れだ……絶対に俺は、あの人の前で意識を失わないぞ……」


 アレク護衛団長は何故かブーメランな下着一枚で、樹海の木に神火のロープで両手両足を縛られた上で吊るされていた。亀の甲羅のような模様になった神火のロープを眺めながら、俺が遠い目をしていた。


「敗者にこのような辱めを! 貴様! それでも戦士……おい、何処を見ている」


「いや、縛った張本人を見てるだけだが?」


「は? 貴様じゃないのか?……誰を一体見て……ひぃ!?」


 思わず目を背けたくなるような悪辣な嗤い顔をしたエイダさんが、そこには立っていた。


「姫?……何故、このような仕打ちを……それにどうして手には鞭を?」


 襲撃犯でありながらも、見ているこっちが憐れに思うほどにアレク護衛団長はエイダさんに震えながら声をかけていた。


「逆に何を言っているのでしょう? 貴方は私達を殲滅しせんと襲ってきた輩。当然、敗れ捕まれば何をされるかなんて、覚悟の上でしょうに」


 流石に亀の甲羅な縛りをさえた挙句にパンツ一丁で吊るされ、自国の姫様に鞭打ちされる覚悟はなかったのではなかろうか。当然とばっちりを受けたくないので、俺たちは一切口を挟まない。


「そんな!? 私は、姫を助けぴぎゃぁ!?」


 アレク護衛団長何か弁明しようとした瞬間、エイダさんの持っていた女王様の鞭(クイーンウィップ)が容赦なく空気を切り裂き、同時に悲鳴もあがった。


「さて、ここからは私の質問にだけ答えなさい。ちゃんと答えたらご褒美をあげますよ」


 俺はこの時点で、全員を馬車の中に押し込めた。間違いなくロクな影響を受けないと確信したからだ。ライ以外は、兎に角馬車の外に出て様子を見ようとしたので、馬車の中では外に出ようとするアシェリ達を俺が鉄壁のディフェンスでガードしていた。


 あまりに真剣に外に出ようとするので、最初は遮音(サイレント)で馬車内に悲鳴が聞こえないようにしていたが、ライ以外による決死の特攻を何度も受けるうちに遮音(サイレント)を維持できなくなってしまった。


 その結果、エイダさんの高笑いとアレク護衛団長の悲鳴だと思いたい(・・・・)叫びが大音響で聞こえてきた。その叫びに、何を思ったのかヤる気をだしたアシェリ達は、遂にはライを巻き込み空間魔法で馬車の外に脱出しようと試みた。


「『狂喜乱舞(ヤナ流二刀剣術)』『極致』『次元断』」


「「「「……」」」」


「行かせねぇよ?」


「ヤナ様……そこまで(次元断)しますか?」


「当たり前だ。百歩千歩譲ってセアラ以外は、万が一ここを突破されて外の風景を見たとしても最悪は免れそうだが、セアラだけは駄目だ」


 俺は、決死の覚悟で少なくともセアラだけは最悪食い止める気で初めからいたのだ。


「それは、何故ですか? 早くしないと、エイダ先生(・・)の手腕が見れないではないですか。このような実技の見取り稽古の機会は中々ないのです。ヤナ様、そこを退いてください」


 セアラは、俺に負けじ劣らずの威圧を俺に放ってくる。その間もアレク護衛団長の(悲鳴であってほしい)ちょっと明らかにおかしくなってきた叫びが、エイダさんの罵倒とともに聞こえてくる。そして、俺はエイダさんを『先生』と呼ぶ今のセアラに、決して今の馬車の外の光景を見させてはならないと、一層の決心を固める。


「いいや、退くことは出来ない。今のセアラに外の光景を見せたら、ポンコツどころの騒ぎじゃ無くなる。流石に王に申し訳がなさ過ぎる上に、間違いなく俺自身の身が危ない」


「そうですか……それでは仕方がありませんね。ライ、空間拡張で馬車の中を戦闘が出来る広さまで広げてください」


 セアラは、ライに指示を出し、馬車の内の広さを戦闘が出来る十分な広さまで拡張させた。そして自分は、おもむろにメイド服のスカートの下から金棒を取り出す。


「あぁ、仕方がない」


 俺も改めて、『天』『地』を構え直す。


「押し通ります!」

「させぬ!」


「アホですね、二人とも」


 ヤナビの冷静なツッコミは、俺とセアラに聞こえる事はなく二人は馬車の中で、真剣に激突した。




「シェンラ! アシェリ! エディス! ヤナ様に手数の多いスキルで足止め! ライはその間に、再度馬車の外への空間を繋げるのです!」


「ちっ! 嫌らしい指示を出しやがって! させるかよ! 『隙間無し(ギチギチ)』!」


「全方位への斬撃ですね! 全員私の後ろへ退避!」


 アシェリ達前衛組三人が俺に飛びかかろうとした瞬間、カウンターで全方位への斬撃である隙間無し(ギチギチ)を放った。セアラは自分の後ろへと全員を誘導し、正面に防護壁を展開した。


「ライ! 私が斬撃を抑えている間に、皆んなを外へ!」


「うん! 分かった!」


 俺は自分の斬撃が邪魔で、中心から動けなかった。


「まさか、俺が隙間無し(ギチギチ)を放つのを誘った?」


「ぐぅ……えぇ、ヤナ様が全方位に向けた斬撃を放てば、その斬撃を抑えることさえできれば、此方に好機が生まれる見込みでした……ここまでうまく行くとは思いませんでしたが」


 セアラが、障壁に罅を生じさせながらも隙間無し(ギチギチ)を食い止めている間に、一人また一人とライの作った空間トンネルを通り外へと抜け出していく。


「それでは、ヤナ様お外でお会いしましょう」


 セアラは、障壁の向こう側で綺麗に一礼したあと、空間トンネルへと飛び込もうとした。


「セアラだけは、アレを見せるかよ!」


 俺は、セアラが空間トンネルに姿を消そうとした瞬間に、ある言葉を発した。


「あぁ、暑いなぁ。ちょっと脱ごうかなぁ?」


「え!? 何処まで脱ぐんですか! きゃぁ!?」


 俺の言葉に見事に釣られたセアラは、空間トンネルから馬車内の俺へと物凄い勢いで近づいてきたので、そのまま空間トンネルとは反対側に投げ飛ばした。


「自分でやっておいてなんなんだが、アレで釣られる王女ってどうなんだ……」


「マスター、誤解ないように言っておきますが、私は最近特に指導しておりませんよ?」


「わかってる……犯人は、外の女王様だろ……」


 既にアレク護衛団長に叫びは、苦痛と羞恥の限界を突破し、ダメなパターンの超越者へと変わっている様だった。もう、彼を気の毒とは欠片も思う事はないだろう。


「ヤナ様……計りましたね……何故! 何故脱いでいないのですか!」


「やかましいわ! 寧ろ何で本当に脱ぐと思ったんだよ! 一人だけ指数関数的にポンコツが進みやがって!」


「ヤナ様への想いが、そうさせるのです!」


「責任転換!? ここは一つ、真剣に説教だ」


 俺は、丁度良い機会と考えきっちり矯正する事を宣言した。


「ふふふ、望むところです……『鬼狂い(殲滅姫)』……アハハハハハハ!」


「教育的指導だぁあああ!」


「やっぱりアホですね、マスターもセアラ様も」


 そして、王女と召喚者はガチで激突したのだった。




「で、最後は馬車の中なのに腕輪と指輪を外した状態で、セアラを本気でぶっ飛ばした訳ね」


 エディスは、先程まで馬車があった場所に出来ているクレーターの中心で、王女が見せては行けない類の表情で倒れているセアラを見ながら告げた。


「……セアラの本気は、鍛錬とは違う恐ろしさを感じてな……精神的にもかなり追い込まれて、最後はこっちも本気を出さないと色々危なかった……」


「主様に対する特攻スキル見たいなのも、自ら開発している様ですしね。開発している時は、怖くて近づけないので詳細は知らないのですが……」


 アシェリの言葉に戦慄しながらも、俺は先ほどのガリガリと精神が削られる戦いを思い出しながら、遥か遠い王城に向かって遠い目をした。


「ヤナの目から、光がなくなってるよ?」

「そっとしておいてやるのじゃ……それもまた優しさというやつなのじゃ……」


 俺が希望を探して遠い目をしている間に、ライが回復してくれたらしく、セアラの意識が戻った。


「う……は!? エイダ先生の講義は!?」


「講義じゃねぇよ……残念だが、全て終わったところだよ」


「そんな……セアラ、一生の不覚……せめて結果の産物だけでも……ん? よく見えない?」


 あんな物を見れなかった事を一生の不覚とするセアラに、俺の心が折れそうになりながら、セアラが目を細めて何とか見ようとしているモノ(・・)に俺も視線を移した。


「あぁ、アレ(・・)か? 色々教育的によろしくない状態だったからな、『神火のモザイク(見ちゃダメ)』をかけさせて貰った」


 アレク護衛団長は、木の枝から吊るされた状態から幹に逆さに括り付けられた状態へと変化していた。それはもう、良い子には絶対に見せられない状態であり、あの姿をライに見られたのは俺の一生の不覚だ。


「そんな!? せめて、ヤナ様が思わず隠すほどに素敵(・・)な状態に成り果てたソレ(・・)を見るだけでも!」


「やかましいわ! 良い子には勿論見せれないが、悪い子にはもっと見せられるか!」


 俺は、『神火のモザイク(見ちゃダメ)』をかけたままの状態で、新たに一体創り出した『神火の式神(シキガミ)』でアレク護衛団長を、セアラの視界に入らない場所に移動した。




「セアラ様にもお見せになってよかったのですが? ダーリンの新しい扉を開くきっかけになるかもしれませんし」


「……絶対に止めろ……で、あんな事(・・・・)までしたんだ。何かわかったのか?」


 俺は、本気で先ほどのエイダさんの尋問の手法をセアラに伝えさせないと決意しながら、尋問の成果を訪ねた。


「どうやら、エルフの隠れ里は既に侵略を受けている様です」


 誰かさんが書いているクソッタレな物語の筋書きは、どうしても俺を巻き込みたいらしい。


↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)

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