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女王の呪い  作者: 梨本裕
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魔女

 一国を滅ぼした女王の話を聞きたいだって? こんな森の奥にまで来て、酔狂なやつもいたもんだね。そんなやつはあの子以来だよ。

 あの子? あんたが聞きたがってる女王のことさ。そういやあの子もこんな感じで突然訪ねてきたね。


 ……ん? なんだい。話が長くなりそうなら中に入れてくれだって? なんてずうずうしいやつなんだい。

 仕方ないね。そこに座りな。ああそこじゃない、そのテーブルのイスだ。ついでだからお茶くらい淹れてやるよ。安心しな、おかしなもんは入れやしないから。それからあたしが目を離したからとそこらの瓶に手をつけるんじゃないよ。中には猛毒も混ざってるからね。一滴でも皮膚に落ちるとドロドロに溶けちまうよ。イッヒッヒ。



 さてどこから話したもんだかね。とにかくあの子は突然やって来たのさ。その時はまだ薄汚い小娘だった。小娘が思い詰めた顔で魔女の家を訪ねてきたんだ。何かあるってピーンときたさ。

 魔女ってのは気まぐれな性格のもんでね。気分に任せてあたしゃその小娘の話を聞いてやった。そうしたらその小娘、なんて言ったと思う? 人を呪い殺す方法を教えてくれだなんて言ったのさ!


 あたしゃ別に止めなかったよ。あたしゃ魔女だからね。甲高く笑いながら誰かの幸せを壊すのが仕事みたいなもんさね。親切に呪いのやり方を教えてやったさ。

 そうしたらあの子ったら、早速一人を殺したのさ! 一人を殺したら二人目、三人目……。魔女より熱心に人を殺す人間を、あたしゃ初めて見たね。感心したもんだよ。


 次にその子があたしのところにやって来たのはそれから数年後のことだった。やんごとない身になったとは聞いてたもんだけど、初めてここに来た時よりずいぶん豪華な身なりだったね。しかもその上小綺麗にしたら、これまた美人なもんだから驚いたもんだよ。


 けどね、嫌な予感ってもんがしたのさ。その子について悪い噂ばっかを聞いてたもんだからさ。

 でも追い返すのもどうかと思ったわけだよ。だからあたしゃ聞いてやったね。また呪いの方法を教えて欲しいのかい、って。そうしたらその子はまたあたしを驚かしたのさ。魔女の秘薬が欲しい、ってね!


 あたしゃ何度も確かめてあげたよ。何のために使うものか知っているのか。誰に使うのか。よく考えたのか。その子は秘薬の使い道を知っていて、自分のために使うつもりで、よく考えた後だって言ったさ。あたしゃもう何も言えなかったね。


 魔女の秘薬って言うぐらいのもんだ。魔女であるあたしが言うのもおかしなもんだが、あれはろくなもんじゃない。それでも薬が必要だって言うんだから、あの子が憐れなもんだよ。

 あたしゃね、これでも止めてあげたんだよ。まだ年若いんだから考え直した方がいいって。でもあの子は全部やり遂げちまったもんだから。ほんと、可哀想だよ。

 二度目に訪ねに来た時は一度目よりも思い詰めた様子でね、それでも二度目の方がまだ人間らしい、うんや、女の顔をしてたね。それなのになんだってあんな真似を……。ああ、馬鹿なことをしたもんだよ、あの子は。



 あの秘薬の正体? ああ止めてくれ! とてもじゃないがあたしの口から言えるもんじゃない。あれほど女を不幸にする薬なんてないさ。これ以上は言わせないでくれ。


 あの子は本心では止めて欲しかったんだよ。あたしにゃわかるね。そうすればちっぽけな幸せでも手に入れられたはずなんだよ。あの子は馬鹿だよ、まったくさ。


 可哀想なもんだ。あの子も呪われてたんだよ。あの子だって最初からあんな風に生きたかったわけ、あるわけないじゃないか。可哀想だ。

 誰もがあの子を悪者にするんだろう。人間ってのは馬鹿な生き物だ。誰も真実を見つけられやしない。ああ、可哀想だ。あれじゃあ、あんまりにも可哀想だ。



 ほら、そろそろ帰っておくれ。もうこれ以上あの子のことを語らせないでくれ。これからあの子に花を届けてやるんだ。


 興味本位であの子のことを探ろうってんなら、止めておくことさね。聞いたところで誰も幸せにはなれやしないさ。あたしゃ魔女だってのにおかしな話だね。でも止めておくことを勧めておくよ。



 ああちょいと待ちな。あんた、名前は何て言うんだい? ……そうか、あんたが。


 ……もしかしてあんた、死のうなんて考えてやしないだろうね? 頼まれたってあたしゃ即死の薬なんかはやらないよ。あの子はそんなこと、望みやしないだろうさ。あんたの思いは無駄じゃないさ。ちゃんと、あの子にも伝わってたよ。


 ……あの子の話がしたいなら、またおいで。今度は茶菓子くらいつけて出してやるさね。




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