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女王の呪い  作者: 梨本裕
6/12

伯爵令嬢

 久方ぶりに会った婚約者様は前にお会いした時よりずいぶんとやつれていらっしゃいました。革命の後に残った仕事が山積みなのでしょう。彼は国の英雄ですから。新しく取り入れるという制度にも大分困窮なされているようですし。


 婚約者との交流という名義で定期的に開かれるお茶会を、今日は中止すべきなのではとも思われました。それほど疲弊した本人も、それを見ているこちらも、これではお茶の味などわかりはしないでしょう。

「顔がやつれておられますわ。ご政務もほどほどになさって、ご自愛くださいませ」

「違うんだ。これは別に仕事のせいではないんだ」

「では何だとおっしゃいますの?」

 私は紅茶のカップをソーサーに置いた。彼の方は紅茶に手をつけてさえいませんでした。


「最近、私は誰かに呪われているとしか思えないんだ」

「まあ、どなたに?」


「女王陛下にだよ」


 あのお方の名を、再び彼の口から聞くことになろうとは。私は固まってしまった。


 現在国内に魔導師は一人として存在しない。女王様が追放を命じられたからです。そのため国外のある腕利きの魔導師に解呪の法を依頼しても、怯えた様子で手酷く断られたらしく、他の魔導師にもう一度依頼する気力を失ってしまわれたらしい。

 彼は相当思い詰めているようで、やつれたお顔を手で覆われてしまった。私はそんな彼に対し、なんと馬鹿げたことを、などとは言わない。


「女王は恨んでいるのだ。この国を。私さえも」

 私が女王を殺したから。彼はそう言って呻いた。


 確かに最終的に女王様の処刑を命じたのは彼でした。民がそれを望んだからです。彼は民が望むがままにしました。彼が命じなかったとするならば、誰が女王様を裁けたと言うのでしょうか。彼しかいなかったのです。それを彼は悔やんでいる。



 私は落ち着きを取り戻すために紅茶を一口含んだ。


「女王様のお気持ちも、わからない気がしないのでもないのです」


 ハッと彼は私の顔を見た。婚約者が国家の大罪人を庇う言葉が信じられないようでいらっしゃった。

 いいえ、しかし私が考えていることと婚約者様が考えていることは、とてもかけ離れたことでしょう。

「女性にとって恋慕う相手と結ばれないことがどれほど不幸なことか、あなた様はご存じないことでしょう」

「恋慕う相手? 女王にそのような方が?」

「ええ」


 身分ある者には自由な恋愛は許されておりません。しかし限りある中で幸せを求めることは構わないはずです。されど女王様はそれさえも許されておりませんでした。それを不憫と思わず、なんと言えばよろしいのでしょう。

 女王様は愛しておられた。誰かを。どなたかは存じ上げませんが、同じ女である私にはわかりました。限りある者しか知らない事実でしょう。

 ご自身の心を圧し殺され、女王様は果たされたのです。復讐を。


「殿方におわかりになられるでしょうか。恋い焦がれる胸の内がどれほど苦しいものか。恋心を耐え忍ぶことが身を焼かれるよりもつらいことか」

 私は幸せです。彼のようなできた婚約者がいて、そして愛してもらえる。とても幸福なことです。

 それを得られないどころか、許されないことが胸が張り裂ける以上の苦しみであることは明白です。もし私が女王様のお立場であれば、同じことをしなかったとは言い切れません。


 女王様はご幼少の折、両親はおろか使用人にさえ目をかけられなかったとお聞きしました。なんとお可哀そうなことなのでしょう。そうすれば女王様が狂ってしまわれたのも、女王様お一人に責を負わせることもどうかと私は思うのです。

 夜会で顔を合わせた女王様はいつも何かを渇望しておられました。今の私ならばはっきりと言えます。女王様は愛を求めておられたのです。


「一時女王と隣国の王子の婚約話が出たけれども、そのことなのだろうか」

「私にはわかりかねます」

 隣国の王子には婚約の申し出を断られたとお聞きしました。確かその話を提案したのは婚約者様のお父上だったとか。提案を断られて女王様はひどく荒れたとの噂もお聞きしました。


 とにかく女王様は誰かを愛しておられた。そしてその方からの愛を求めていらした。私にわかることはそれまでです。

 しかし心当たりがないのかと言われれば、それは違います。そして私の見当があっていれば、女王様とその方は決して結ばれませんでした。


 女王様は可哀想なお方だった。私はそのことが憐れでならず、しかしどうしようもないから、今日も聞き手に徹するしかないのです。




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