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女王の呪い  作者: 梨本裕
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国の兵士

 これは城に勤める者だけの秘密ではあるが、民によく慕われる前王には多くの愛人がいた。王族、貴族にとって愛人がいることは当たり前のようなものなので、誰も表立って非難することはなかった。


 王には数多くあるうちのある一人の女に産ませた公子が一人いた。庶出の子だった。高貴な者に妾腹の子がいることなど、珍しいことではなかった。

 公子はお手付きの末にできた娘だった。身分が低いながらも、容姿は格別に優れた母の元に生まれた娘だった。


 王には嫡男がすでにいたので、公子が表に出てくることはなかった。かと言って目をかけて育てたわけでもなかった。母娘共々城の隅の塔に追いやり、以降王が二人のことを話題にすることはなかった。正妃との衝突を避けるためでもあっただろう。重ねて言うが、高貴な者にはよくあることだった。哀れなことであろうが、その母娘に誰も気にかけようとはしなかった。

 そうして誰もがその二人の存在を忘れかけた頃、母親の方が病で亡くなった。身分が身分であり、愛情というものが薄れた王は葬儀に参列せず、母親は王宮の隅にひっそりと埋葬されたとのことだ。



 やがて急事態が起こった。王の崩御だ。突然王が身罷ったことで城内は混乱した。城の者は慌てて次の王を立てる準備を始めた。

 しかし事はそう簡単に運ばなかった。王位継承権を持つ者が相次いで亡くなったからだ。一の王子、二の王子、一の王女……とうとう前王の血縁者、伴侶は根絶えた。誰もが呪われているとしか思えなかった。

 残った王位継承権を持つ者は、あの庶子の娘しかいなかった。反論の声は上がった。しかしあの娘を王位につけるしか残された道はなかった。成人すらしていない女王が誕生することとなった。


 そういう類の教育を一切受けて育たなかったせいだろうか、女王の政治は酷いものだった。女王に進言しようとした魔導師は国から追放され、あっという間に税は跳ね上がり、処刑者の数は日に日に増えていった。前の王の時代に築かれたものが次々と壊れていった。

 何年か女王の統治が続き、怒りを我慢できなくなった民衆に女王は反旗を翻された。


 女王は処刑された。断頭台で首と胴を真っ二つにされた。女王の悪政は呆気なく終わった。最期に女王は笑っていた。


 私は処刑人に任命されていた。処刑台の上で私は聞いてしまった。「お母様。今、そちらに」と女王が言ったのを。あれが女王の本当の遺言だった。父王に対する言及はなかった。



 ところで、これは誰にも話していないことだ。私はある秘密を抱えている。

 私は王家が呪われていると言った。何かの比喩ではない。私は見たからだ。女王がこの国に呪いをかけているところを。


 女王が即位して数年。女王の美しさに磨きがかかり、これから華麗に咲き誇るのだという齢の頃だ。女王が誰の共もつけずに城を抜け出すところを私は目撃した。

 城に仕える者として、女王を危険に晒すわけにはいかない。たとえそれが王に相応しくない人物であっても、王には違いないのだから。私はこっそりと後をつけて護衛した。

 女王は城下をするすると歩いて行った。恐らく女王に即位する前に何度か町に降りていたのだろう。戸惑う様子も見せず、女王は目的地を目指して真っ直ぐに、早足で進んでいた。女王はどこに行くのだろう。気になりながらも、女王に気づかれないように私は護衛を続けた。


 そして私は見てしまった。女王が魔女が住んでいると言われている森に入ったところを。魔女から何かの薬を受け取っているところを!

 あれは呪いに使う薬に違いなかったのだろう。この国に呪いをかけた犯人は女王だったのだ。


 これは私だけが知っている秘密だ。誰にも話したことはない。王家は女王に呪われていたのだった。




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