38話 王都に到着
王都を目指してガタゴト馬車に揺られて三日間。
無事に王都へ着いてしまった。
噂では、大盗賊団が逃げ出した領民を狙った奴隷狩りをしているというので、夜も交代で寝て待っていたのだが、結局は出ず仕舞い。
「何事もなく着いちゃったね。街道には大盗賊団が大規模な奴隷狩りをやってるとか聞いたけど、ただの噂だったのかな?」
「いくら大盗賊団でも、ドルトラル帝国軍五万を壊滅させた領主様の馬車を襲うなんてバカな盗賊はいないと思いますよ。もしロミアさまが敗走でもしていたら、貴種の高額奴隷として真っ先に狙われていたでしょうけどね」
「さすが奴隷ビジネスには詳しいね、ノエル。たしかにロミアちゃんが奴隷で売られていたら、全財産はたいてもぜったい購入する人はいるだろうね」
私も欲しくなっちゃうよ。
もう何度も関係とかもっているのに、何故だろう?
「残念だな。無辜の民をさらう悪党が襲ってくるらしいから、待っていたのに。リーレット領に戻ったら、そいつらはボクが成敗してやる!」
「さすがアーシェラ。すごい正義感だね。ま、私もそいつらは許しておけないな」
まあ、ロミアちゃんも多くの領民がさらわれたことは看過できないから、帰ったら大規模な討伐隊を編成するとか言ってたし。
当然、私達にも依頼はくるだろうから、アーシェラも、その時に腕を振るってもらおう。
「いや、俺っちの知り合いも何人もさらわれたって話は聞いているんスよ。もし、あの時逃げてたらヤバかったスね。いやあ、忠誠は尽くすもんスね」
などと言っているのは、開拓部に続き、今回も御者を務めてくれるリーレット領軍士官候補のクライブ君。
しかし私の記憶が確かなら、あの時家族と逃げようとしていたはずだが?
「ええい、お前はあの時家族と逃げようしていただろう! 脱出するための足を手に入れられず、グズグズしてる間に帝国軍に包囲された、といったところだな。まったく何が忠誠だ」
「いやいやぁ、世の中は結果がすべて! 運よく勝ち組に入れたなら、きれい事を言って昇進するのが正しい生き方ッス。目鼻がきいて先に脱出した連中は、大盗賊団にとっ捕まって奴隷に売られてるってんだから、余計メシウマっす」
いろいろ最低だねクライブさん。
私だったら、ちょっと思ったとしても、さすがに口には出せないよ。
こういう事を口に出す人に出世はないと思うよ。
さて、通称『下街』と呼ばれる一般区を抜けて、『上街』と呼ばれる貴族街の手前の検問に差し掛かったあたりだ。
私たちの馬車は止まり、ラムスが降りてロミアちゃんの方の馬車に乗り換える旨が告げられた。
その説明を、わざわざロミアちゃんは馬車から降りてきて説明してくれた。
「ごめんね、サクヤ様達は王城へ入れないんだ。王城に上るには『宮廷階位』という身分が必要なの」
「え? それって使用人とかにも必要なものなの?」
ロミアちゃんが連れてきた侍女とか使用人とかは問題なく入れるみたいなのだ。
「もちろん使用人にも必要だよ。わが家へ所属すれば今すぐにでも最下級の身分はとれるよ。もっとも階位によって入る場所が制限されたりするから、あまり動けないけどね」
「ということだ。サクヤと羊娘と新入りは、下町で宿をとって、帰るまでそこにいてもらうことになる。まぁ観光でもして待ってろ」
「あれ? ラムスもその身分とやらがあるの?」
「うむ、生まれた時からな。そういう訳で、この王都ではオレ様たちは別行動だ。ではな」
「サクヤ様たちの宿は、このクライブにまかせてあるからね。三日に一回はそちらに向かわせて連絡をとるようにするね」
そうか。私は王城に入れないのか。
この王都に来る前、『滞在中に三人いるターゲットの女の子全員をオトす!』という、やる気と希望に満ちた目標を立てたのだが。
滞在予定は二十日間。
王城にすら入れないんじゃ、セリア王女は無理だね。
今回は最難関のセリア王女は諦めて、残り二人の攻略に専念しよう。
この王都にいる残り二人は【召喚士ユクハ】と【錬金術師モミジ】。
この二人は親友同士。
なので、どちらかと知り合いになればもう片方も自動的に知り合える。
つまり、この短い滞在期間でも同時攻略が可能なお得商品なのだ。ラッキー!
さて、その第一歩。
ユクハちゃんはこの時期はまだ見習い術士。
師の元で修行に一生懸命励んでいる最中のはずだ。
そんな彼女と知り合うには……原作通りやってみようかな。
「わかったよ。それじゃラムス。私はここにいる間、ちょっと金策をしたいからさ。ギルドカードを貸してくれない? 恥ずかしながら、出る前にかなり散財しちゃってさ」
高レベルの冒険者パーティーは、ギルドから【ギルドカード】という一種の身分証である魔法のカードを発行してもらえる。
それを使用できるのはリーダー、もしくは副リーダーを含むパーティーのトップだけ。
そしてそのギルドカードがあれば、他の街でもそのランクのパーティーとして仕事を請け負うことが出来るのだ。
「ふうむ。良いが、どんな仕事をするつもりだ? 土地勘がなければ仕事など出来んだろう」
「さすがに、ここで高額の仕事なんか狙わないよ。ま、実のところ、お金より興味本位で見てみたいと思っている場所があってさ」
「興味本位だと? ……ああっ! まさかダンジョンか!?」
「そう。この王都名物の世界最大ダンジョン【奈落の道】。そこにもぐってみるよ」




