37話 王都の者たち
第二章一話目の今回は、新キャラだけの話です。
時間的にはサクヤたちがドルトラル帝国軍に襲撃したあたりです。
ゼナス王国には【七賢者】と呼ばれる者達がいる。
彼ら彼女らはいずれもゼナス王国最高の魔法師であり、国王への意見をも許された諮問機関である。
その筆頭格が【カードの賢者】と呼ばれるミリアリア・ミーミアナ。
彼女の得意とするのは占術であり、タロットカードを用いた占いの精度はほぼ外れなし。
故に預言者として重宝されているのだ。
そんな彼女の館に二人の人間が来訪していた。
一人は国王三人の子供のうちの一人、『黄金の薔薇』とも呼ばれる王女【セリア・メーラ・ロッテンマーク】。
もう一人はミリアリアと同じく七賢者の一人。
【錬金の賢者】と呼ばれる七賢者最高齢の【ワードラー・ルルペイア】。
鉱物をかけ合わせたり術をかけたりしてより強力な鉱物を生み出すことが得意な錬金術師である。
彼の手によって作られた武器、防具はいずれも超一級の品であり、一つ一つが土地の値段と同額の値がつくのである。
さて、二人がミリアリアの館に来たのは、もちろん彼女の預言の力を借りるためであった。
最初に彼女に占ってもらったのは、国王の代理として来訪したセリア王女。
ドルトラル帝国軍襲来という王国未曾有の危機に対し、国の運命を占ってもらったのだが。
「本当に……これがわが国の運命なのですか、ミーミアナ卿? リーレット領軍が壊滅し、五万のドルトラル帝国軍が迫ってきているというのに?」
ゼナス王国の命運を示したカードは『世界』正位置『太陽』正位置『恋人たち』正位置。
「そうなの。『世界』正位置は『完全な勝利』を意味するわ。信じられないけど、大陸覇権を狙うあのドルトラル帝国に完全勝利しちゃうみたいね」
セリア王女はあまりの好結果に、権力者におもねった結果を示したことも考えた。
しかし、それはあり得ない。
彼女はこれまでのゼナス王国の運命を占いは、さんざんな不吉な運命を語っていたのだから。
「リーレットを中心に起こるはずの未曾有の災厄もゼナス王国滅亡の予兆もきれいに消えているわ。それに国の命運を占ったら必ず出ていた『悪魔』のカードも出なかったわ。何かしら禍々しい予兆が消えているのよ」
「……なるほど、吉兆ですね。最後の『恋人たち』のカードは何を現しているのですか?」
「それはセリア殿下自身の運命よ。恋愛運最高! 間もなく素敵な恋に出会いそうね」
「まあ嬉しい。わたくしが添い遂げることのできるお方であればよろしいですね。詳しく聞きたいところですが、ルルペイア卿をあまりお待たせするわけにはいきません。ここらで譲りましょう」
「あーあ、お爺ちゃんのお相手かぁ。あの人、職人気質の偏屈ジジイそのもので、苦手なんだよなぁ。セリア様と恋愛話していたいなぁ」
「それは役目をおっていない日にでもゆっくりと。では、わたくしはこれで」
セリア王女と入れ替わりで彼女の占い部屋に入ったルルペイア卿。
彼女の前にドカリと座る。
「遅かったなミーミアナ。女共のくだらん恋愛話などしていなかったろうな」
「失礼ね。セリア王女は結果だけ聞いたら、さっさとお爺ちゃんに譲ったわよ。この程度で『遅い』なんて気が短かすぎじゃない?」
「短慮をおこしてすまんな。業腹だが、ぜひとも貴様の力を借りねばならん事態になったのだ」
「たしかにお爺ちゃんは占いに頼らない方だと思っていたわね。いったい何が起こったの?」
「わが命をかけて制作しておる魔断の剣メガデス。あれが製作場から消えた。ワシと弟子どもが必死に行方を探したが、まるで知れん。こうなれば、きさまの術に頼るしかなくなった」
「あらあ、アレなくなっちゃったの? でも国の不吉な予兆は消えちゃったんだし、とりあえず無くてもいいのよ」
ミリアリアは魔界の悪魔が出現する可能性があると見ていた。
そのために【錬金の賢者】に出資して悪魔を殺せる武器の製作を手伝ったのだ。
「きさまは良くても、ワシは良くないわ! 莫大な資金も時間もかかっておる。出資者であるきさまにも、その成果を見せる必要がある! 何よりあれはワシの命をかけた最高作。それが失われて、それで良しとできるか!」
「あーそうね。たしかにアタシもお金を出した身としては、ほっとけないわね。ともかく見てあげる」
ミリアリアはタロットカードを手すると、それは意思を持ったかのように宙に自在に舞いはじめた。
「むむっ? 面妖な。風を起こしているわけでもないのに、何故ああもカードが舞う?」
それは彼女の契約している精霊のなす仕業。
その精霊は未来視ができ、依頼者の運命を示すカードを選ぶのだ。
やがて舞っているカードから、三枚が裏返しでルルペイア卿の前に並んだ。
「それがおじいちゃんの運命。それをどのように歩むかは、自身に委ねられているわ。一枚ずつめくって」
ルルペイア卿が無造作に最初にめくったのは『太陽』正位置。
「あら、良かったわね。魔断の剣は探さなくても、やがて見つかるわ。それは最高の成功を示すカード。慌てずに待ってなさい」
「ふぅむ、あの状況で消えたメガデスがワシの前に現れるというのか? よかろう、待つとするか」
二枚目をめくると、『戦車』の逆位置。
「……ただ、それをめぐって争いが起きるわね。『敗北』の暗示があるわ。負けてそれを失うかもしれないわよ」
「ちっ、上げて落としおって。まあいい。そのような運命、くつがえしてやるわ!」
三枚目。『恋人たち』の逆位置。
「その結果、愛する者を失うかもしれないわ。それでもやる?」
不吉なカードの暗示にも、ルルペイア卿はニヤリと嗤う。
「フン、面白くなってきたではないか。要は誰かしらメガデスを奪った者が、やがてワシの前に現れるというのだろう。そ奴はかなりの強敵。ならば、こちらもそれなりの準備を備えるとしよう」
「やるの? お爺ちゃんの愛する者が失われるかもしれないわよ」
「フッ、バカな。生涯を錬金と製作に捧げたワシに愛する者など……」
「モミジちゃんは? 息子さん夫婦の忘れ形見でしょ」
「……モミジまでも狙うか。誰であれ、ワシのメガデスを奪いコケにした者は許せん。そ奴の首、このワードラー・ルルペイアの手で搔っ切ってくれるッ…!」
その翌日、ドルトラル帝国軍が壊滅したとの情報が王都にもたらされた。
その報告をすべく、代替わりしたリーレット領領主が王都に上ってくることも。




