159話 疑り深いギルド長
考えてみれば『朝まで』とかあり得ない。受付のお姉さんがギルド長を呼んできたら、それでラムスの武勇伝講談も終わりだ。
私一人がギルド長に呼ばれ二階の奥の執務室へ通された。
そこで見たギルド長は………
「え? 女の人?」
ギルド長はおおよそ冒険者をまとめる長とは思えない華奢な女の人だった。
この世界では上流階級しか着ないスーツとか纏って品の良い知性的な感じはするんだけど。荒くれ男たちをまとめるには不向きじゃないかなぁ?
「ようこそ。わたしは当ギルドの代表を務めるリザ・ベイリー。あなたがゼナス王国の英雄殿ですか。女性だとは聞いていましたが、ずいぶんお若い」
「その言葉は、そっくりギルド長にもあてはまりますね。ずいぶん品の良い女の方ですが、冒険者の経験はお有りで?」
「ありません。わたしは伯爵閣下の遠縁です。わが領では冒険者に一部街の治安維持をまかせている関係で、閣下に近しい者がギルドの長を務めているのです」
ああ、冒険者が警邏の仕事もやっているのか。
で、ギルド長も貴族様の血筋の者がやっているというわけか。
ギルド長ってのは名をあげた冒険者がやるものだと思っていたけど、そういったシステムもあるんだな。
「失礼しました。では伯爵閣下を悩ませているアクロイア聖碑の賊の件なのですが、ぜひ私にやらせていただけないでしょうか。伯爵閣下にお目通りさせてください」
「たしかに、剣王サクヤに引き受けていただけるなら、それは願ってもないことです」
「でしょう」
「しかしそれは、あなたが本物の剣王サクヤであれば、です」
「え?」
「わたしは閣下よりギルド長をまかされている立場として、万一にもニセモノを閣下に通すわけにはいかないのですよ。悪いですがここは用心させてもらいます」
「冒険者証の本人確認はしたでしょう。アダマンタイト級冒険者証にかかっている魔法確認を偽る事は不可能ですよ」
「そうですね。ですが、お連れの彼が語った武勇伝は少し嘘くさくてね。それに閣下が剣王サクヤの情報を求めているこのタイミングで、本人が都合よく現れてくれたというのも、どうもにも」
糞、ラムスがデタラメ武勇伝なんて講談したばかりに!
ま、だったらその疑いを晴らすために少し手間をかけるか。
「まぁ自分が疑わしいというのも分かります。ならば腕を見て判断するというのはどうです?」
「いいですね。まずは腕を見せてもらいましょう」
という訳で、やって来たのはギルドの中庭にある修練場。広々とした中庭に、剣やら弓やらを振り回して鍛錬にはげむ兄ちゃん達がいる場所だ。
来る途中待っているラムスとノエルにも声をかけて、ここに集合した。
「そんなわけで、ここで私の腕を見せることになったんだよ。ラムスがデタラメ武勇伝なんて話したせいで」
「む、そう言えばデタラメだったか。話しているうちに本当だったような気がしていた。だったらあの時オレ様はなにをしていたんだったか?」
「全軍を統率する総督だったよ。なんでそれを忘れるかなぁ」
「まぁ腕を見せろと言うなら見せてこい。貴様なら楽勝だろう」
「サクヤさま、がんばってください!」
やがてギルド長のリザさんが十人ばかりの男達を引き連れてやって来た。しかし、その相手というのが…………
「え? あれが腕をためす相手?」
「なんだ、やけに年のいっている奴らだな。引退間近の連中か?」
そう。その人たちは年期のいった人達だった。正直、腕を測るには不足ぎみと思えるのだ。
「ノエル。激励もらって悪いけど、がんばれない。下手に力をいれたらポックリ逝っちゃいそうだ」
「あはは。では、ほどほどに力を抜いてやってきてください」
しかたないので使う木剣は一番軽くて短いのにした。
さて。剣王としては、この人ら相手に一分以上かけたらニセモノと判断されるかもだ。そのつもりでやってやりますか。
「はじめ」
リザさんの合図とともに俊足で飛び出す。
バシッバシッバシッ
ベテランさんたちの腕が動く前に手の甲を片っ端から叩いて、次々に武器を落としてゆく。
よし。体感だけど十名すべての武器を落とすのに一分かからなかったと思う。
「つ、強い!」
「こりゃダメです。俺らじゃ相手にならねぇ!」
「くそ、若いヤツラがいてくれりゃあ」
よし。剣王サクヤと納得させるのにはこれで十分だろう。
私はリザさんの元へと行く。
「どうです。これで本物だとご納得いただけましたか?」
「………つまらない」
「は? いや、どうやっても劇的な試合にはなりませんが。それより私が本物の剣王だという判断は?」
「あ、いや失礼しました。たしかに大した剣の腕前ではあります。ですがその人たち相手なら、ルバル君にも同じことが出来たでしょう。少なくとも彼以上という証明が欲しいですね」
ううん、この慎重さは若くして冒険者ギルドをまかされた責任感によるものか。
ラムスはこの答えに怒ってリザさんにくってかかる。
「おい待て! こんなヤツラを用意したのは貴様だろう。ゴネるなら、ちゃんとサクヤの腕をはかれる相手を出してから言え。そのルバルとやらを呼んでこい!」
「残念ですが、彼は前の事件で犠牲になってしまいました。彼のみならず当ギルドの活きの良いヤツラは、全員アクロイアの一件で亡くなっております」
ああ、それでこの人たちか。どう見ても引退かそれ間近な人ばかりだもんね。
「ええい、だったらどうするのだ! こんな無駄な試合なぞさせて、何がしたいのだ!」
「ああっ! なんという悲劇。せっかく剣王がいるのに、その腕を見せるに足る人材がいないなんて!」
突然リザさんは天を仰いで慟哭した。
はぁ? なんなんだ、この奇行。
『剣王がいる』とか言ってるけど、私が本物か疑っているんじゃないの?
「うん? おい。もしかしてお前………」
ラムスが何か言おうとする前に、リザさんは早口でまくしたてた。
「コホン、失礼しました。ですがちょうどここに、あなたの腕を見るに足る案件が持ち込まれています。このクエストであなたが剣王か否かを判断するというのはどうでしょう」
まいったな。本格的なクエストまでやらせる気?
時間はあと二十日あまりしかないし、あまりこの件で引っぱられるワケにはいかないんだけど。
「クエストは森で新種の魔物が発見されたというものです。それは冒険者たちが狩ろうにも、強力な魔法を使い、近寄ることすら出来ないそうです」
「森ィ!? 森に入っての探索は数日かかってしまいますよ!」
「おい、いつまで引っ張るつもりだ。オレ様たちはそんなに時間をかけるわけにはいかんのだぞ!」
「心配ありません。それは森の浅瀬から動かないそうです。居場所はこちらの冒険者を動員して特定させます。サクヤさんは、ただ倒してくれればいい」
ホッ。なら、まぁ良いか。
「わかりました。ただしそれを成し遂げたなら、今度こそ必ず伯爵閣下にお目通りをさせてくださいね」
「もちろんですとも! ああ、ついにあの伝説の剣王の戦いが見れる! 吟遊詩人を呼んで、その様をしかと描写させなきゃ。交友会のお友達にも知らせて……」
「おい、ヨダレが垂れているぞ。それに本物の剣王か否かを確かめるのに、お友達なんて必要か?」
ラムスのスルドイ指摘に、リザさんはハッとして口元をぬぐう。
「ゴ、ゴホン! それでは新種の魔物についての特徴を説明いたします」
あ、ごまかした。
まぁいいや。とにかく新種の魔物とやらをさっさと倒して、伯爵閣下に会わないとね。この時点でこんなに手間取るとは思わなかったよ。
「上半身は人間の女性ですが、下半身は複数の頭を持つ狼のものだそうです。強力な魔法を操り、近寄ることすら出来ないそうです。当ギルドでは、そのモンスターをスキュラと呼称いたしました。美しい女性が魔女の呪いによって下半身を六体の魔物に変えられたという伝説のモンスターです」
それ、ユクハちゃん!!!
なんてこった。新種の魔物にされちゃったよ。




