4:絶望が訪れる前の、とても楽しい時間。
――親子を『白き悪魔』から救出し、見事に任務は遂行した。
僕は美玖と共に『白き悪魔』正式名称『矗矗』と呼ばれるパラサイトを討伐した。
そして現在、僕と美玖は基地内の食堂へと訪れていた。
「美玖はどれ食べるんだ?」
「あたしは……あれがいいな」
美玖は唐揚げ定食を指差した。
そういえば、美玖は昔から唐揚げが好きだったな。
すると、美玖が僕の手を引いてデザートコーナーへと連れて行った(強制的に)。
「ちょ、美玖、僕まだ何食べるか決めてないんだけど……」
「いいじゃねぇか。ほら、見て見て、美味しそうなケーキが並んでる……!」
「あ、ああ」
見ると、食器の上に沢山のケーキ達が乗せられていた。
無邪気な幼子の様にはしゃいでいる美玖を隣に、僕は苦笑する。
「あたしはチョコが好きだからチョコレートケーキにするぞ」
「じゃあ僕もチョコで」
僕はおぼんの上にある皿チョコレートケーキを二つ乗せた。
はぁ、何で僕は美玖の荷物係みたいなのをやらされているんだ……。
僕とは対照的に、美玖はおぼんを手に取っていない。つまり、僕が美玖の食べるデザートを持たないといけないと言うことだ。まあ、悪い気はしないから別にいいが。
そして、美玖の注文しておいた唐揚げ定食が手元に届く。やはり、美玖は僕に唐揚げ定食を持たせた。
零れたら終わりだぞ、おい。
現在、僕は二つのおぼんを片手ずつ持っている。
ぐふぅ、自分の食べたい料理が決められない……。
「じゃあ、早速食べようぜ。ほら、あそこ空いてるぞ」
「あ、ああ……それより僕のは?」
「じゃ、座ろうぜ」
美玖は僕の言葉を無視した。
渋々と椅子の上に腰を下ろし、僕は溜め息を吐く。
取り敢えずチョコレートケーキを食べるか。
ぱくっ。味は最高だ。ここ最近一番幸せな気分かも。
「あ、優さんと美玖ちゃんだ! おーい!」
「莉寧か――ここ空いてるから座っていいぞ」
「ありがとうございます!」
莉寧は僕の隣に座った。
そして、莉寧は頼んでいた饂飩を食べている。
美玖と莉寧の女子二人に挟まれているも、僕は何一つ感銘を受けなかった。
因みに、美玖は今嬉しそうに唐揚げ定食を頬張っている最中だ。
「可愛い……まぁ、ずっと根に持ってても意味ないしな。許してやるか」
美玖を見つめながら僕は呟いた。
すると、莉寧が僕の肩を少し小突いてきた。
僕は莉寧の方を向く。
その途端、莉寧は耳打ちしてきた。
「ねぇねぇ優さん。美玖ちゃんってあんなに可愛かったんですか? やばくないですか? 可愛すぎて鼻血が出そうです!」
「まあ、普段は粗暴な言動して怖いけど、自分の好きなものに対しては優しいんだよ」
「じゃあ優さんは美玖ちゃんに慕われていると言うことですね」
「な――!?」
美玖が僕のことを慕っているだと!?
そ、それは、つまり……僕のことを好きだと言うことになるよな?
ごくりと固唾を飲むと、僕は美玖の横顔を見つめていた。
僕の視線が気になったのか、美玖はこちらを向いて「何だ?」と尋ねた。
「いや、何でもない……」
「――? ならいいけどよ」
唐揚げを一口、美玖は齧った。
僕は安堵の吐息を零した。
危うく僕と莉寧の会話が聞こえていたのかと思った。
すると、莉寧が大変なことを。
「美玖ちゃんって、優さんのこと好きなんですか!」
そう、莉寧はこの食堂にいる誰しもに聞こえる大声で美玖に尋ねた。
美玖は下を向いて静かに震えていた。
僕は不安に思い美玖に「大丈夫?」と聞くも、何も反応しなかった。
「り、莉寧の……」
途端、美玖は何か呟いた。
すると、美玖は真っ赤になった顔を上げて――、
「馬鹿野郎!!」
そう叫んだ。
美玖は涙目になりながら、食堂から走り去っていった。
「おい、莉寧。今のは美玖があまりにも可哀想だぞ」
「確かに……すみません、わたしのせいで美玖ちゃんを泣かせてしまって――」
「謝罪は僕じゃなくて美玖にしたほうがいいと思うんだけど……僕、美玖のところに行ってくる」
「優さん?」
「ここで待ってて」
僕は席を立ち、食堂を後に美玖の寮へと向かった。
美玖の部屋に着き、ドアを数回ノックする。
「美玖、いるか?」
「――」
しかしながら返事はない。
すると、ドアが少し開いていた。
その隙間から美玖が顔を覗かせる。
僕は美玖を見て微笑む。その途端、美玖は顔を赤くしてドアを閉じた。
がくりと肩を下ろし、僕は溜め息を吐く。
「駄目だったか……」
すると、再びドアが開いた。
そして美玖が僕を見る。
「は、入っていいぞ……」
声を震わせながら、美玖はそう言った。
僕は恐る恐る部屋の中に入ると、その場に正座した。
「ねぇ、優……優はあたしのこと好き?」
「好きだ」
「ひゃあっっ!!!」
美玖は顔を真っ赤にして可愛い悲鳴を上げた。
そして顔を覆い、指の隙間からちらちらと僕を見ている。
「僕は美玖のことが好きだよ。ていうか、好きなのが当たり前だよ。だってずっと一緒にいるんだ。それに、昔、美玖は今と相反してとても恥ずかしがりで内気な子だったよ」
「ば、馬鹿……それはあたしの黒歴史だ! 言うなって言っただろ!」
美玖は顔を真っ赤に(今度は恥辱によるものではなく、瞋恚で)して怒鳴った。
だが、美玖の怒りは一瞬で収まった。
「その……あたし、優君のことが好きなのは本当だけど――って、口調がぁ!?」
「昔に戻ってるな。まあ、昔も今も喋り方はどっちも好きだけどな」
「もう好き好き言わないで……」
下を向いて、もじもじとしている美玖。
するとドアが急に開いた。
「――大変です優さん! 緊急任務が!」
「緊急任務……?」
「はい、基地内にいる者は皆『鬱憎』と呼ばれるパラサイトを討伐しに行きましたよ! 急がないと!」
何だと……。
僕は隣にいる美玖を見た。
美玖は僕を見ていた。
「そうだな――僕たちも行くとするか」
――絶望と恐怖が訪れる混沌の時間は、この後に訪れる。




