2:禍殲異能特殊隊
――眩しい光が目に差し込み、僕は目を覚ました。
「――?」
美玖と共に街を去り、僕は野宿をしていた。それが、いつの間にか僕は寝てしまっていたようだ。
山の中に焚火を作って獣に襲われないようにしている。美玖が言うには、パラサイトと呼ばれる怪物達は案外、火を恐れるのだそうだ。
そして、僕は体を起こして美玖を見る。隣で非常時用の毛布にくるまっている。
僕の分はないのか?
「さて……顔でも洗ってくるか」
折角の朝なので、川に行って洗顔をすることに。
冷たく、気持ちの良い川の水が最高だ。僕は顔を洗って、川の水を一口飲む。
美味しい……。
新鮮で、透き通っている綺麗な川を後に、僕は美玖の元へと戻った。
すると、近くから小鳥の哢りが聞こえた。
普段では味わえない優雅な雰囲気の朝に、少しばかり嬉しさを感じられた。
美玖の所へと戻ると、僕は昨日採取した木の実を一口食べた。
赤い色をした木の実で、一体どういう木の実なのかは知らない。万が一にでも毒があった場合、解毒剤を飲めば大丈夫だ。
すると、美玖が目を覚まして欠伸をした。
「ふぁ~……優、起きてたのか。早いな……あたしはまだ眠いよ……」
目を擦りながら、毛布を直す美玖。
それを見届けながら、僕は木の実をもう一つ口に入れる。
「なあ、美玖。ここから先どうするんだ? 帰る場所はあるのか?」
「――あるっちゃあるけど。ていうか、今その場所に向かおうとしてるんだ」
「そうなんだ」
なるほど、ちゃんとあったのか。よかった。
この先あの『パラサイト』と呼ばれる怪物と逃げながら足掻く羽目になってしまうのだろうか、と苦悩していた。でも、ちゃんと隠れ蓑的な存在があったために助かった。これが不幸中の幸いと呼ばれるものだろう。
「じゃあ、出発すんぞ。荷物纏めろ」
「そうするよ」
僕は非常食用の木の実をポケットに入れ、焚き木の火を消して美玖の隣へと向かった。
美玖はこの先、『禍殲異能特殊隊C軍基地』と呼ばれる場所へと向かうらしい。一体何をするのだろうか。
ふと、美玖は僕を横から見つめていた。
「なあ、優は異能が使えるのか?」
「使えるけどなぁ……あまり制御できない」
「そうか、でも使えんなら、あたしと同伴することできるな」
「同伴って……?」
「詳しい話は特殊隊の基地に着いてからだ」
不思議に思いつつも、僕は追及をやめた。
何故か、美玖は嬉しそうにしていた。
ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ
「――さて、もうすぐだぞ」
「おお……!」
僕は圧巻された。
眼前に聳え立つ黒い軍基地の様な建造物の中へと、美玖は入っていく。
軍基地に見惚れていた僕は、慌てて美玖の後に着いていく。
「ここが『禍殲異能特殊隊C軍基地』と呼ばれる場所なのか?」
「そうだよ。あたしはこの軍基地の連中と関わりがあるからここに来たんだ」
「そうなのか……? 関係って、どういう関係だ?」
「変な方向に解釈してないか……? まあいいけど、あたしはここの特殊隊に所属しているんだよ。それで優をここで保護するために来たんだが……優は異能を使えるから、もしかしたら同じく特殊隊に属せるんじゃねぇかなって思った」
「所属、ね……」
僕は顎に手を添えて考える。
危険に向かって身を捧げるんだ。一度は深く考えなければ。
「所属してくれれば、この軍基地には寮や食堂と……色々な施設が使えるようになるから便利だぞ。あたしも……その優とは一緒にいたいし、特殊隊に入ってくれると嬉しい」
後半の台詞で、頬を赤らめる美玖。
粗暴な言動とは裏腹に、やはり女の子らしさもあるんだな。
可愛らしい奴め。
「どうするべきか……」
ここは素直に所属した方が楽なのでは?
だが、所属したとして過酷な窮地に追いやられるのでは? 訓練や、任務、その他エトセトラの事にて。
逆に所属しなかった場合、僕は寮ではなく特別な施設に入れられるのかもしれない。未知数な上、もし何かがあった時、僕は美玖と会うことができなくなるかもしれない。
――それに、もう僕は美玖しか縋る相手がいないし……。
「――美玖、じゃあこの特殊隊に入ることにするよ」
「よしっ、じゃあ団長に会いにいって話を聞いてもらうぞ」
「――はて、私のことを呼んだかな」
「だ、団長!?」
後ろから団長の声がし、美玖は肩を跳ねさせて驚く。
赤髪で如何にも男勝りな女性――。彼女は特殊隊の軍隊長ではなく団長を占めているということらしい。
美玖は慌てて団長の方を向くと、挨拶をした。
「団長、突然ですが優を特殊隊に所属させてはくれないでしょうか!!」
「優って子は、君で間違いないかな?」
「は、はい……」
僕に視線が行き、彼女の美貌に思わず心悸が激しくなってしまう。
緊迫する脳内には、今彼女だけが映っている。
「そうか……特殊隊に入りたいのなら、実力を計りたいのだが、いいかな?」
「は、はい……」
「それじゃあ、着いて来てくれるかな」
団長の後ろをゆっくりと着いていく僕と、何故かジト目で僕を睨みながら隣を歩く美玖。
何やら美玖は僕に不満があるようだ。
「今、絶対団長のことばっかり考えてるだろ」
「い、いや、別にそういうわけじゃ……」
「むぅ……」
頬を膨らます美玖。
僕は苦笑しながらそんな態度の美玖を見つめる。
すると、団長はある一つの部屋へと入った。
そこは何かの実験室の様な部屋だった。
団長は僕の方を振り返ると、微笑んだ。
「優君、君の異能を見せてくれないかな」
「僕は……『神剣』の異能です……ほら」
煌々と輝く煌びやかな一つの剣を出現させ、手に取る。
団長は目を見開いていた様子だった。
「これは神剣なのか……? 初めて見たぞ」
今僕が手に持っている蒼い剣……これは『神剣』と呼ばれる『聖剣』の上位互換だ。
『神剣』は太古の時代で生み出され、そして消え去った伝説の『聖剣』だ。
逸話と神話の時代で主に使用され、その時代以降の玖戦時代と瓏極時代からは一切その存在が見受けられなくなったそうだ。なので、もしも今その『神剣』とやらが発見されたのなら、それはそれは世紀の大発見となり得るだろう。
「よし……所属を認定する」
「やったな!」
美玖は僕に抱き着いてきた。
そんな行動に驚きつつも、僕は団長に礼をする。
「――これで、一緒にいられるよ!」
唐突に口調の変わった美玖を前に、僕は微笑していた。