1:絶望の始まり
――僕の名前は赤坂優。
元は平凡の高校生だった。
いつも友達と話して、楽しい日々を送っていた。
そんな日々は、ある日絶望で塗り潰された。
「に、逃げろぉぉおぉおぉお!!!!!」
ある男性の声が、僕の耳に入り込んできた。
何だろう。
すると、今度は爆音が轟いた。
町全体を揺るがすかの様なその爆音の正体は、僕の学校の窓からはっきりと分かった。
「あれ、何だ……?」
僕は一つのところへと、視線が向かう。
それは、赤い謎の生物だ。
クワガタムシの螯を模したかの様な口元に、胴は人間であり、足は虎の様でありそれに謎の粘液に包まれている。尻の方は蜂の様な巨大な針がある。
当然ながら、見たこともない生物だ。
すると、僕がいる教室の中で他の生徒と教師達が悲鳴を上げ始めた。
原因は……、
「キシェェエエェエェェェェエエェエエエ!!!!!!!」
ミミズの様な体躯を持つライオンだった。
ライオンは一人の生徒を蟻に酷似した足で掴み、口の中へと運んだ。
そして、黄ばんだ歯で噛み砕いた。
肉と骨が壊れる音が混ざり、不気味な音色と化した。
次に、別の生徒の足元から小さなムカデの様な生物が這い出してきた。
その生徒は悲鳴を上げ、自分の足からムカデを引き剥がそうとした。
しかし、ムカデは全身から大量の棘を出し、生徒の足に深く突き刺さった。
その途端、生徒は白目を剥き、血泡を吹いて斃れた。
次はコウモリの様な生物が現れた。だが、顔が違う。顔はヤモリだった。
コウモリは次々に大量の生徒達を捕食していく。
肉を食いちぎり、呑み込んでいく。
そして奇跡的に生き残っていた教師は、後ろから何かに襲われた。
その『何か』とは、巨大なカマキリだった。
カマキリの部分は鎌と頭だけであり、他の部位は全てイモリである。
残るは、僕一人だけ――。
「もう、死んじゃうのか……」
もういいか。この世に未練なんてないし。
どうせ、生きたくもないし。
すると、謎の生物たちは次々と銃弾で命を落としていく。
何が起こったんだ……?
僕は銃弾の飛んできた方を見る。
銃弾を放ったのは、自衛隊の隊員達だった。
「君、早くここから逃げるんだ!」
「そうなんですか……じゃあ、逃げます」
僕は走って教室から去った。
廊下にも無数の生物達がいたが、全て自衛隊に殲滅された。
やがて、外へと辿り着いた。
だが、そこにはあの赤い謎の生物がいた。
後ろから自衛隊員達が赤い謎の生物に銃弾を撃つ。
しかしながら、銃弾は全て跳ね返された。
すると、赤い謎の生物は目では捉えられない速さで動いた。
そして僕は後ろを振り返った。
「は……」
自衛隊員達の首が、全て消えていた。
いや、赤い謎の生物に食べられたのだ。
赤い謎の生物は、僕を睨んでいる。
今度こそ本当に死を覚悟し、僕は瞑目した。
その途端、僕の耳には懐かしい声が響いてきた。
「優……てめぇ、死のうとしてんじゃねぇよ!!!!!!!」
この声は……。
「美玖なのか?」
僕は驚きで目を開いた。
目の前には、一人の少女がいた。
燃える様に赤い夕陽の茜色をした髪を持ち、虎の剛毛を模したかの様な美しく輝く金の瞳、身長はそんなに高くはないが、なぜか右手には地獄の様な色をした黒い鎖鎌が握られていた。
「あったりめぇよ。あたしだ」
「美玖も死にに来たのか?」
「ちげぇよ馬鹿野郎! あたしは、今からこいつを狩るんだよ」
「は……?」
美玖の言う『こいつ』とは、赤い謎の生物のことだ。
狩る……? 美玖があの生物をか?
そんな話があるのか?
そもそもあの生物に人間が太刀打ちできるのか?
すると、美玖はにやりと不敵に笑った。
そして――、
「いいから、てめぇはそこで見とけや!!!」
美玖は怒鳴り、その途端、鎖鎌に炎が纏わり付いた。
そして美玖は赤い謎の生物に飛び掛かった。
美玖に対し、赤い謎の生物は針から緑色の液体を飛ばした。
しかしながら、美玖は鎖鎌を赤い謎の生物に振るったと同時に液体は蒸発した。
対抗手段を一瞬にして消失された生物は、胴を切り裂かれる。
生物は奇声を上げて、身をくねらせる。
胴からは大量の赤い血が飛び出していた。
「よえぇぞ、赤野郎」
赤い謎の生物の目を、美玖は鎖鎌で突き刺した。
見事に命中し、生物はまたもや奇声と鮮血を撒き散らす。
「さっさと死ねぇ!!!!!!」
美玖は華奢な足で、生物の顔面を蹴った。
螯を圧し折り、頭の外殻を砕き、胴の付け根から頭自体が美玖の蹴りによって吹き飛ばされた。
頭は血を滴らせながら地面を転がり、やがて勢いは止まった。
「な、狩れただろ?」
鎖鎌を消失させ、美玖は僕に言った。
唖然と美玖の戦いを眺めていた僕は、ぱちぱちと拍手をした。
「凄い……美玖は強いんだなぁ」
「当たり前だとも。あたしは『特殊隊』の中でも入隊してから今も生き残る事のできている人物だからな」
「そうなんだ……その『特殊隊』とやらは、こういう生物達と戦ってるのか?」
「そうだ。あたしもその一人だ」
美玖は平然とそう述べ、そして――、
「ちっ、もうこの町は駄目か」
「どういうことだ?」
すると、美玖は苛ただしげに言った。
「救えないってことだ」
その言葉に、僕は目を見開いた。
すると、美玖は空を見ていた。
晴天だったはずの空が、今や曇天だ。
暗くなった空を、ふと、美玖は睨んだ。
「ここは危険だ。奴らが来るぞ」
「え……?」
美玖は僕の手を取って、走り出した。
そして跳躍した。
ある民家の屋根に着地した彼女と、僕。
僕は美玖の跳躍に驚きながらも、美玖に連れていかれる。
すると、学校の方から轟音が鳴り響いた。
僕は振り返ろうと――、
「振り返んじゃねぇ。もう見るな」
「分かった……」
僕は美玖の言う通りに、後ろは振り返らなかった。
人気のない住宅街を抜けて、そして高層ビルに向かって、美玖は大きく跳躍した。
高層ビルの屋上に着地し、道路に向かって飛び降り、見事に着地し、そしてまた走り出す。
そんな美玖に引っ張られながら、僕は思っていた。
――ここの町にいた人々は、僕以外皆あの生物たちの餌食になってしまったのだろう、と。




