再会
アレから何年経ったんだろう……、私は大学を卒業して、社会人になった。
彼とは連絡を取っていない。
当然だ、だって、私は彼の連絡先など知らない……。
それに、もうさよならをしたんだ、私たちの関係は既に終わっているんだから……。
「雪…みたい…。」
桜並木をゆっくりと私は歩いていた。
昼休みの間、私は習慣となった近くの公園の桜を見に来ている。
「……逢いたい…。」
自然と零れた言葉に私は苦笑する。
私はあの時から泣いていない、まるで涙が涸れてしまったかのように、あの時から悲しくても涙が出なくなった。
一陣の風が悪戯に吹いた。
私の髪を乱す。
ああ、嫌な風ね。
私は乱された髪をそっと掻きあげる。
「………えっ…。」
視界に信じられないモノが映る。
彼だ、彼だ!
私が彼を見間違うはずが無い、でも…ああ、やっぱり私たちの関係は終わっていたんだね。
彼は私の知らない、綺麗な女性と一緒に歩いていた。
刹那、彼はこっちを見た。そして、目が大きく見開かれ、足がこっちを向いた。
「いや……。」
私は怖くなった。
彼を忘れられない自分…。
まだ、彼とやり直せるんじゃないかと思っている自分。
やだ、知られたくないっ!
私は走り出していた。
初めてパンプスで走った時は何度もこけそうになったけど、今じゃ平気だ。
息が切れる、だけど、私の後ろから彼の気配がした。
何で追いかけてくるの!
私の涸れたと思った涙が溢れ出す。
来ないでっ!
だけど、私の願いは叶わなかった。
「おい、待てよ!」
「……。」
彼の手は私を掴んだ。
「離して!」
私は力いっぱい彼を振り払った。
「……っ!」
彼の目が見開かれる。
それもそうだろう、今まで私は彼から逃れようとした事が無いのだから。
「……何しに来たんですか。」
「……。」
「私、仕事あるんで失礼します。」
私は頭を下げ、彼から立去ろうとするが、呆然と立ち尽くしていた彼は思い出したかのように私の手を掴んだ。
「行くなっ!」
切羽詰った彼の声に私は怒りを覚えた。
何で、貴方がそう言うの、私を置いていったくせに……。
「私は貴方なんか知りません、あのお綺麗な方の元に行ってください。」
「待てって言っているだろうが!」
彼は私を抱きしめた。
やだ…離して…。
忘れたいのに!
忘れなきゃいけないのに!
何で、何で貴方がそんな事をするのよ!
「何で逃げる!」
「貴方の所為じゃない!」
思わず怒鳴ってしまった私に彼は目を見開いた。
「貴方が…貴方が急に私の目の前に現れて……。」
「迷惑だったのか?」
「……。」
迷惑じゃなかった、ただ、ずっと一緒に居ると思った人が居なくなり、そして、再び自分の目の前に現れたから驚いたのだ。
だけど、貴方は違うんでしょ?
「離してっ!」
「駄目だっ!」
「どうしてよ!」
「離したら逃げるだろ!」
傍から見れば痴話げんかに映るだろうか、と暢気に考える自分が居る。
「貴方は――っ!」
私が言葉を紡ごうとした瞬間、彼はその口で私の言葉を止めた。
「……。」
ゆっくりと離される唇…。
「……んで…。」
「俺はお前を忘れる事が出来なかった……。」
「……嘘だ…。」
「本当だ。」
彼は眉間に皺を寄せている。
その顔が懐かしくて、胸が痛くなった。
「離れてて分かった…俺にはお前が必要なんだ……だから、一緒に来てくれないか。」
「……。」
自分勝手な人だと思った。
だけど、それが嬉しかった。
あの時だって、本当は連れて行って欲しかったのかもしれない、だけど、あの時は、私はまだ学生で、子どもだった……。
今は…違う。
「連れて行って…。」
「ん…。」
「離さないで…。」
「ん。」
「約束を一緒に守ろうね……。」
「ああ。」
私の恋心は離れている間でも決して彼を嫌う事はなかった。
だから、私は彼と共に未来を歩く。
離さないで
この手を
ずっと
ずっと
側に居て
私の大切な人……。
*おまけ*
「そういえば、さっきの綺麗な人は?」
「上司、因みにもう既に結婚されてる。」
「……、もしかして、私また勘違いしてた?」
「……。」
「ご、ごめんなさい!」
「……まあ、誤解が解けたんならそれで、いい。」
「……ううう、ごめんなさい。」
「気にするな。」
読んでいただきありがとうございました
この作品ではじめましてなのか、以前の作品を読んでいただいたのか分かりませんが読んでいただきありがとうございました
小説家になろうで初めて「後書き」を書いております
この作品は私の作品には珍しく「私」目線で書いておりますので少々補足を入れたいです
この作品のそもそもの始まりは私作者の夢から始まりました
「私」が自宅の上から誰かを見かけ一緒に駅に向かうというものでその中でキーワードとして「約束」
そこからこの作品は生まれました
因みにこの作品の彼は何故「私」を置いていったのか、それは海外でボランティアをする為でした
音信不通の為彼が帰国したことも知らない「私」
ハッピーエンド主義の作者はこのような形で終わらせました
もしよろしければ感想などいただけたら幸いです