十九・謎の男、十六夜岳
十九・謎の男、十六夜岳
黒いブーツを履き、薄手のジャケットを着た紅葉が、優璃たちの前に立っていた。
「なんだ、お前ら? ・・・・・・アタシの妹らに、何してんだよ・・・・・・」
「お、お姉ちゃん!」
「えぇ? く、くれはサンなの?」
優璃と穂花は、紅葉の後ろに隠れる。
「紅葉? いきなり停めろって言うから何かと思えばさ。こいつら、金なさそうだぜぇ?」
「すっこんでろ、玄桐!」
「は、はいぃっ!」
玄桐は公園に大型スクーターを乗り入れ、遠くから紅葉の様子を窺っている。
「(あ、ありゃ、紅葉の妹じゃんか。・・・・・・あ、そーいうことだったのね)」
男たちはタバコの煙をふうっと紅葉たちに吹きかけ、睨みつける。
「うわ。けほけほ・・・・・・。ゆ、ゆりちゃん、けむいよねーっ?」
「だいじ、ほのかちゃん? けほんけほん。けむいね・・・・・・」
「おぅ、女! なんなんだ、てめー? いきなり・・・・・・」
バキャアッ! ボガアァッ! ドゴオオォッ!
「・・・・・・う、うぐぅおぁぁ・・・・・・」
目の前の男を、紅葉は左右の拳で殴り、みぞおちに強烈な膝蹴りを入れて叩き伏せた。
「優璃も穂花ちゃんもさぁ・・・・・・こんなバカ共、相手にしなくていいわ。さぁ、帰りな?」
「で、でも。お姉ちゃん・・・・・・」
「くれはサンー。わたしとゆりちゃんは、どうすれば・・・・・・」
「いいから帰れって。こいつらは、アタシがよぉーく、話つけといてやるから。行きな!」
「お姉ちゃぁん! ・・・・・・無茶しないでよねーっ! ママに怒られるからねっ?」
「ゆりちゃん。い、行こうっ! くれはサン。あ、ありがとうございますーっ! ひいー」
優璃たちは、自転車に跨がり、急いでその場から離れていった。
「おいおいおいおいおいー。・・・・・・何してくれちゃってんだ? これじゃ、明日から仕事になんねーじゃねーかよ!」
「知らなぁーい。・・・・・・お前らの仕事なんて、アタシの知ったこっちゃないしぃ?」
「俺ら、派遣の日雇いで、やっとこさ毎日メシ食ってんだよ。てめーがケガさせたこいつらを、治療費とか面倒見てくれんのかよ?」
「アタシには関係なぁーい。だいたい、アタシの妹にちょっかい出したのは、お前らなんだろ? 女子中学生相手に、いーぃ大人がさ。ばぁーか! この、ロリコンスケベ共!」
「「 な、なんだとぉ! この女ぁ! 」」
紅葉に睨みを利かせて詰め寄る男たちだが、飄々と受け流す紅葉。
男たちは怒り狂い、一気に紅葉に掴みかかってきた。
グイッ! ドゴシャッ! バキバキバキイッ! どしゃ
「・・・・・・う、うげぇっ! ・・・・・・うがあっ! ・・・・・・げふーっ・・・・・・」
紅葉の頭突きが、男の顔に入る。そして右、左、右と三発殴り、その場で男は崩れる。
「ばっかじゃねぇの? そんな程度で、アタシをどうにかできると思ってんのかよ?」
グイッ! ドスウウッ! ガツンッ! バキイッ! どしゃ
「・・・・・・ひぶぅ! べふぅ! ごあぁー・・・・・・」
もう一人の男も、紅葉を引っ張り込んだものの、腹に強烈なパンチを見舞われ、顎に頭突きを入れられ、股を思い切り下から蹴り上げられ、その場に倒れ込んだ。
「やーれやれ。・・・・・・ストレス解消にすら、なりゃしない! つまんねぇ男たちだわー」
「・・・・・・や、やったなぁ紅葉! へへっ。さてさて、収穫はー・・・・・・」
玄桐はスキップして紅葉に駆け寄り、倒れている男たちの財布から、紙幣を抜き取ってゆく。
「やっぱりだぁ。ちぇっ! 紅葉ぁ、全部で六千円だぜぇ? 五人でだぞ! 五人で!」
玄桐は、倒れた男の足を、ぽこんと蹴り飛ばした。
「いいよ、ほっとけ! 帰るよ、玄桐! 優璃たちも無事に帰れただろうし・・・・・・」
「シケてんなぁ。六千円なんて。あーぁ、不作だぜぇー」
紅葉と玄桐が公園に入ろうとすると、一台の黒い外車がその先に停まっていた。
・・・・・・がちゃりっ
「(ん? ・・・・・・なんだ、あいつ?)」
その車からは、黒いスーツを着た若々しい男が降りてきて、笑顔で紅葉と玄桐に近づく。
「いやぁ。はっはっは! さすが、素晴らしいアクションだ! 見てたよ、お嬢ちゃん?」
さらりとした茶髪混じりの黒髪で、整った顔立ちの男。拍手しながら紅葉の目の前に立つ。
「・・・・・・何だ? 誰よ、あんた? アタシを見てたって、何?」
「あぁ。申し遅れた。こういう者さ。よろしくね、お嬢ちゃん。・・・・・・いや、常盤紅葉!」
男は紅葉に、黒いエナメルのセカンドバッグから、名刺を差し出した。
「芸能・人材プロデュース、ガブーンバイパー社の・・・・・・十六夜岳っ! なぜアタシを?」
「ふんふふーん。どうやら、オレの名前、初ではないはずだよなぁ? 常盤紅葉。キミが宇河宮で先日殴った者も、その名刺持ってただろ。あれ、うちの会社に所属していてね」
「(な、なんだよこれ! や、やべー流れなんじゃねぇの? あわわわわ・・・・・・)」
玄桐は、十六夜と紅葉を両方ちらりと見て、こっそり帰ろうとしている。
「・・・・・・そこでだ、常盤紅葉。キミのその腕とルックスを見込んでの話だが、うちの会社に来てみないか? オレたちが派遣した先で、そのアクションを活かし、金を稼げる。悪い話じゃないだろぉ? ふふふーん。どうかな? 仕事を受ければ、金には困らないよ?」
十六夜は、名刺を見つめる紅葉の肩をぽんと叩き、車に乗り込んで去って行った。
「ふぅん。・・・・・・バカ狩りしなくていいのか。・・・・・・どーせ、やりたいこともないしなぁ」
「だ、だいじかよぉ、紅葉ぁ。お、おいら、ちょっとだけ、ビビったぜぇー・・・・・・」
紅葉は十六夜の名刺を胸ポケットに入れ、玄桐を置いて、歩いていってしまった。




