27 氷の城の眠り王子(3)
見ていただきありがとうございます!
今日二回目の更新です。
この話は続けてだしたかったので。
ふぅ、アリスティールは一息ついた。妄想で変なことを言い出す前に、無事氷のドームが溶けたらしい。ギースは力尽きて倒れたが。
だがシグリートを見ると、まだ白い冷気が出ていた。まだ完全には終わっていないらしい。再度氷のドームができたらもう打つ手がなく、そのままシグリートは中で衰弱死コースだ。ギースが気絶しているから、アリスティールにも寒さが一気に押し寄せる。もしかして・・・このままだとみんな凍死してしまう・・・?
「起きなさい!」
シグリートに駆け寄り、もふもふ手袋のまま一度叩いた、柔らかすぎてダメージがない。
「殿下起きなさい!」
仕方なく、手袋を脱いで頬を叩く。人の頬を叩くなんて、日本から考えても初めての体験だ。意外と自分の手も痛い。シグリートはピクリともしない。
「起きなさい、起きなさい、シグリート殿下」
もう、起きないのではと不安になる。泣きそうになりながら、何回も頬を叩く。発生源に触るので冷気がダイレクトに刺さり、自分の手に霜がついていく。なかなか覚めない。
「起きなさい!手が痛いわよ!せっかく会いにきてあげたのに、起きないともう帰るわよ!」
手が痛いのは叩いているからなのか、凍傷を起こしているからなのかわからなくなってくる。
「あんたの引きこもりのせいで、私はすごい恥ずかしい思いをしたのよ!いい加減起きて、この氷を消しなさい!シグリート!」
八つ当たりぎみに王子を呼び捨てにして、アリスティールは手加減無しで殴った、拳で。瞬間部屋の氷がシャン!と音をたてて全部消えた。
そして、銀髪の王子はゆっくり目を開けた。青い目に光が入り自分を見る。
「アリスティール嬢、何故ここにいるんだ?僕は顔が痛いんだが」
「遅くなってごめんなさい、遊びに来たのよ。私はすごく手が痛いわ。」
シグリートが横たわったまま、首を周囲に向ける。アリスティールの後ろで倒れているギースに目を止めた。
「何故ギースがそこに倒れてるんだ?もしかして僕がやったのか?あの茶会の日の飴のように。」
「違うわ、ギースは魔力を使い果たしただけ。って飴、飴がどうしたの?」
アリスティールはシグリートの言葉を聞き返した。シグリートはぼんやりと虚ろな目で質問に答える。珍しく素直なのは、まだどこか夢の世界にいるからか。
「僕はある日お母様の部屋で、かくれんぼをしていた。お気に入りの隠れ場所に飴を見つけたんだ。隠してあったのは、とても美味しい飴だった。食べ物に厳しいお母様が隠して置いていた飴。我慢できなくて、毎日少しずつ食べたんだ、一つか二つ。毒とかもないように思えた。だから、あの茶会の日皆がお菓子を持ち寄ると聞いて、僕はその飴を容れ物ごと持って行ったんだ。」
シグリートはポツリポツリと語り続けた。誰かにずっと聞いてもらいたかったのかもしれない。
「大人たちにあの茶会の後何度聞かれても、僕は怖くて正直に言えなかった。お菓子を持って行ったことは言えなかった。お母様が飴を隠してて、それを僕が持って行ったなんて。聞いてくる奴らは僕のためを考えたお母様が、毒で皆を殺そうとしてたって決めつけてきた。そんな中言えば僕もお母様もただではすまない。」
シグリートは悲痛な声で続けた。
「それだけじゃない。お母様が毒を持っていなかったとは、僕には断言できなかった。前にお母様は、普通の菓子に混ぜて一つだけ毒入りを入れておくことがある、すると食べる人も油断するし証拠も残らないって言ってたんだ。お母様は本当に毒を隠し持ってて、それを僕が持ちだして、クローディアやオルティは死んでしまったのかもしれない。」
シグリートは真っ暗な目で言った。
「そして、お母様がまたフィルも殺そうとしたのかもしれないんだ、僕のために。」
フィルナンド王子が熱でひきつけを起こしてから、おかしくなったって言ってたっけ?茶会で子供が倒れる状況がフラッシュバックしたのだろう。
「そう考えるとまたご飯が食べられなくて苦しくて、気づいたら水に飛び込んでいたんだ。」
「シグリート聞いて」
顔を覆おうとするシグリートの手を握り止める。そして、アリスティールは彼の目を見て言った。また、心の沼に沈んでしまう前に、引き止めないといけない。
「あの茶会の日、私は飴を食べていないわ。」
これは本当の話だ。それに飴に仮に毒が入ってたとして、複数の人が亡くなるようなものとは思えなかった。話からすると、亡くなっても一人くらいのものだ。だが、それ以上言えない。何を言っても元気づけるための嘘ととられかねない。
「今は何を聞いても、貴方は納得いかないかもしれない。だから、死者に聞いてみましょう。そうね、クローディア様とかいいかもしれないわ。仲良かったんでしょう?」
防寒具の内側ポケットから、玉がいくつもついた魔法器具を出した。クローディアが環境映像装置と呼んでいたものだ。
「これは一度だけ、会いたいと望む死者の姿を見せてくれる装置なの。シグリート様、クローディア様を思い浮かべながら大きな玉に触れてみて。」
クローディアの姿を再生させるべく、彼女を意識させるようにアリスティールは誘導する。シグリートが恐々上の大きな玉に触れる。無邪気にドレス姿でくるっと回るクローディアが再生された。ちょっとしては服を変え、また可愛くポーズをとる。
シグリートは呆然としていた。クローディアが笑ってる、とポツリと呟く。
「クローディア様は貴方のせいだと思っていないし、むしろ貴方を心配しているわ。」
あの、秘密の庭の中で、その部分は声には出せない。
ちょうど、映像が変わる。ファッションショーより、ちょっと大人びた容姿、あの服装は使者が来た夜のものだ。魔法器具から近い位置で撮ったのだろう映像は、ゆっくり立ちシグリートを見つめているように見える。そして、映像はゆっくり手を伸ばし、まるでシグリートを抱きしめているような位置で手を止めた。ゆっくりゆっくりいとおしむように、声は聞こえないが心配や愛情を伝えるように。
シグリートは手を伸ばすが、手はすっと通過してしまう。実体がない映像だから仕方ないことなのだが。それでも触れない映像を、大事な人が会いに来てくれたと信じるシグリートは、すごく優しく大事そうに抱き返した、こわさないように帰ってきてと願うように。
シグリートもアリスティールも、知らずに涙が流れ出していた。
章の終わりまであと四個です!




