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8 子供の園の絶対君主

シグリートの意識が戻ったのは、少し太陽の光の強さが落ち、夜に向かう頃だった。


従者のコンラートはシグリートの意識のない間に、薄めた果実水に蜂蜜を混ぜたものを厨房からもらい主の口に少しずつ匙で含ませたりしていた。起きている間は吐いてしまうので、そうやって周囲が命を繋いできたのだろう。


起きて帰ると言いベッドから出ようとするシグリートと、まだ倒れたばかりです、お休みくださいとベッド押し戻すコンラート。


「シグリート様、おはようございます。突然ですが本日はこちらにお泊まりいただく事になりました。」


アリスティールは軽くドレスを両手でつまみ一礼して、決定事項として伝える。


「お前が何故決める?僕は王宮に帰る!勝手に出てきたのだ、帰らねば大変なことになる!」


シグリートはもちろん納得しない。


「私は『お前』ではありません。アリスティール=ノクターヌです。シグリート殿下大変なことになると分かっていたら、何故周囲の了解も、私たちに打診も無くここに来たのです?あと、どう大変になるか理解なされてますか?」


理解してたら来れる訳がない。所詮篭の鳥、温室育ちのおぼっちゃんだ。


「王宮、お母上のヒルダ様には私アリスティールから手紙を送り、ここに泊まっても大丈夫なように根回しをしてあります。気絶したまま帰れば、それこそ大騒ぎになりますので緊急避難的な意味合いもありました。あと、今から帰った方が私たちには大問題になります。」

「何故、そんな事になる?!」

「貴方の症状に心当たりがあります。そのための気分転換に二泊三日のこちらでの療養をお勧めしました。」


はっ、シグリートが驚いたように、アリスティールを見た。


「それを言った重さはお分かりでしょう?シグリート様。お医者様や薬師のほとんどの皆様は原因がわからないし、悪いところはないから、ゆっくり休んで療養したら良くなると言ったのではありませんか?」

「・・・・・」

「それは貴方が死ぬと言ったら罰を受けるかもしれなかったから。王子は死ぬけど治療方法がないなんて、簡単には言えないでしょう?」


人は聞きたいものだけ聞きたいものですから、ね。誰でも真実であっても簡単に権力者の息子に言って、勘気を被りたくないものだ。


だが、そう言われながらも、治らなければ患者や家族が嘘に気づき、不審が生まれるのも仕方ない話だ。


ただ、妖精の治療師だけは嘘をつけなかったのだが。


「それをあえて、心あたりがあると言ってしまった私は、貴方を弱らせて帰せば罰を受けます。泊めて療養させると大見得切って、泊めることすらできなければ、ヒルダ様や国王陛下の失望はさらに大きいでしょうね。」


アリスティールでも今シグリートの心的外傷(トラウマ)を抉りそうな、妹姫の死に関しては避けて畳み掛ける。


「また、ここに滞在中貴方が食事をとらねば、私とギースは死罪になります」

「そんな脅しには乗らないぞ!食べられないものは食べられないんだ!?食べても吐いてしまうから、医師も匙を投げて、死ぬしかない身なんだ」


「これをご覧ください。」アリスティールは一枚の紙を取り出した。


「これは勝手に王宮を出られた、シグリート様に関するヒルダ様からの全権委任状です。沢山の人が命を賭けて協力しています。だから、シグリート様は私に従う必要があるのです。」


ただの返事の手紙にすぎないそれを、大仰に恭しく差し出した。


「まさか・・・・・本当に母上の字だ・・・。」

「勝手に出てきたことのフォローと、変な刺客とか来たら防げないので王宮外の医師宅に泊まったことにしてもらってます。送り迎えをした騎士団の人にも口裏を合わせてもらいました。馬車も騎士団の人にも何かあったら対応できるよう、護衛兼ねてうちにそのまま居てもらいました。この三日は家族が危篤になったと休んでもらい、馬車も借りてもらいました。情報漏れも怖いですし。」


手紙を取り返し、綺麗に折って後ろ手に持つ。


「ただ、同時に全権を委任された以上、期待される成果が出ない。来た時よりシグリート様の体調が悪化していれば、子供と言っても私の首が飛びます、比喩じゃなくリアルに。」


アリスティールは淡々と語る。


「だから、私やギース、そしてシグリート様のわがままに協力してこんなところに連れて来てくれたコンラートや騎士さんが死んでいい、と言うなら食べないで下さい。シグリート様一緒に天国に参りましょう。」


自分の行動の結果、コンラートもここに送ってくれた騎士も死ぬことになるということに今気づいたのだろう。見開いた目に絶望が昏く揺れる。


同時にギースがすっとんきょうな声を上げる。


「え?俺も巻き込まれるの!?」


アリスティールはあれだけ説明したのに、と頭痛がしたように頭を押さえる。


「殿下に危害を加えて倒れさせた時点で、ギースの死刑は半分決まってます。むしろ私が巻き込まれた方です。」

「マジか」

「だから、この二泊三日は巻き込んだ私へのお詫びに、ギースは私に絶対服従してもらいます。」


もちろん、シグリート様も従ってもらう。ヒルダ妃に「私が全責任を負います」と大見得切った以上、誰かが責任をとって死ぬことは、私のミスだということになるのだ。


「絶対全員協力してもらいます」アリスティールは皆に高らかに宣言した。



読んでいただいてありがとうございます!

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