Aprilpool とあるカフェの とあるお茶会
※注意 この話はこれまでの話を全て読んだ方がわかる内容となっておりますので、まだ本編を読んでいらっしゃらない方はそちらからお読みいただくようお願いします。
今回も本編では今後も絶対に会わないであろう人達を会わせてみました!
とあるカフェに一人の少女が来店した。
誰が見ても美少女だと言うくらいには顔立ちが整っている少女。
しかし、完璧すぎて、完成されすぎているような少女に、本当にこんな人間存在するのだろうか‥‥なんて感覚を覚えてしまう。
少女はキョロキョロと辺りを見渡し、小さくため息をついた。
そして、テーブル席へと座り出入口の方を眺めている。
「隆、隆! どうしよう! これはもうあれだよね、優しく優しく撫でてあげるしかないよね! そうだよね!」
「色々と問題になる前に落ち着け蓮佳。 そもそもお前は裏方だろうが。 キッチンに戻っててくれ」
「だって今日はバイトの子達休みじゃん! あの子の接客させてよ~! いつもは仕事しろ仕事しろって言うのに何で駄目なのさ!」
「お前から仕事をきちんとするって気配がまるで感じられないからだよ。 それにだな‥‥」
「ふんっ! 駄目って言われてもやってやるんだから」
「ちょ! 待て蓮佳!」
蓮佳は隆の言葉を無視して、テーブル席に座る少女へと近付いていく。
「いらっしゃい。 ご注文は何にする?」
と聞きつつ何故か頭を撫でようとしている蓮佳の手。
しかし、その手が頭を触ることはなかった。
目ではそこにあって手がその頭の位置にあるはずなのに触っている感覚がない。
『コーヒーをもらえますか? バーチャルで』
その少女はAIだった。
◇◇◇◇◇◇
『ジョークで言ったつもりだったんだけど、まさか本当に私でも飲めるコーヒーを作ってもらえるとは‥‥この店一体‥‥』
彼女の名前はアイ。
とある世界で蔭道蕾に部下という役割で作られたAIだ。
蕾のことをマスターと言って慕い、影ながら様々な努力をしたAIである。
興味のない相手には全くの無関心だが、一度距離を縮めて仲良くなれば、時には厳しく、時には優しい、人間味溢れるお姉さんみたいなAIだ。
そんな彼女は現在とある二人を待っていた。
『一人は遅くなることは聞いているからいいとして、もう一人よね‥‥まぁ、きっと馬鹿だから時間読めないんでしょうね』
そう言ってはいるが、怒っている様子はなく、彼女はこの待っている時間が何処か笑っているように見える。
これが遅れてきたことに対する罰を考えての笑みなら話は変わってくるが、彼女は純粋に待っているのを楽しんでいるようだった。
そして、そこから数分後慌てた声と共に一人の少女がお店に飛び込んできた。
『───ごめんごめーん!! 遅れた! ごめん! 家から出ようとしたら丁度ガスバーナーを使った料理番組が始まって───‥‥あれ? 一人だけ? ‥‥やった! これは怒られないパターンだよね!』
『本当に馬鹿‥‥やかましいわよ、少し静かにしなさい』
入ってきた少女は先程待っていたAIに瓜二つだった。
しかし、雰囲気はかなり違っており、何処か抜けているような印象を受ける。
二人目に来た彼女の名前はアイ。
とある世界で蔭道蕾と友として人生絶賛謳歌中のAIだ。
一言で言えば、バカである。
『バカってなんだコラー!! 私だってハイスペックAIなんですよ!?』
『馬鹿と思われたくないならもう少し落ち着きなさいよ、全く‥‥。 というか、もう一人は事前に遅れるって言ってたでしょ?』
『あれ、そだっけ? あー‥‥確かにそんな連絡あったような‥‥』
『それにテレビなんて、ここに向かいながらでも見れたでしょうが。 ‥‥遅刻するのは悪いことよ、AIなら尚更。 だから‥‥私が罰を与えるわ』
『罰ってなに!? いや! やめ! やめてくださ───』
その罰は色んな意味で酷い罰だった。
‥‥待っていた時の笑みはもしかしたら罰を考えてのことだったのかもしれない。
◇◆◇◆◇◆
『あいつ‥‥狂ってやがる‥‥』
『何?』
『な、なんでもないよ? あはは‥‥』
誤魔化しつつも先程より元気のない彼女に少しやり過ぎてしまったかなと反省しつつも、もう一人が何時ぐらいに来るのかわからないのでどうしようかとアイが思っていると、最後のメンバーが出入口からぴょこっと顔を出していた。
『お、お待たせいたしました、です!』
『いや、そんなに待ってないわよ。 というより早かったのね。 もう少し仕事があるっていってなかった?』
『予想よりも早く仕事が片付いたのです』
三人目に来た彼女の名前はアイ。
とある世界で蔭道蕾に愛でるために作られた妹のような後輩のような、蕾の欲望を爆発させた年下AIだ。
ちなみに彼女は現在蕾の身の回りだけでなく、ホテルのお仕事もこなし、中々に忙しい日常を送っている。
『いやいや、私の時と対応違いすぎないですか! おかしい! 差別だ差別だー!』
『あんたは自業自得でしょうが‥‥』
『むぅ‥‥‥‥そもそもこの子仕事終わったのなら服変えてくればいいのに、かなり目立ってるよ?』
指摘したように三番目に来た彼女は何故かメイド服を来ていてよく似合っているが、なんだか若干浮いている。
『あ、いえ、これが私の普段着なんです‥‥改めて指摘されると恥ずかしいので言わないでほしいです‥‥』
彼女は顔を赤らめて、俯いてしまう。
『ご、ごめん。 人それぞれだもんね、うん』
『というより、彼女が来てからお店の裏がかなり騒がしいけど、大丈夫かしら‥‥』
なんだか初めの注文を聞きに来た女性の声に思えなくもないが、気にしたら負けである。
『だ、大丈夫なんじゃないかなぁ‥‥それよりも! 三人集まったことだし、始めよっか!』
『そうね』
『ですね!』
交わることのないはずだったAI達のお茶会が始まった。
◇◆◇◆◇◆
『まずお互いの呼び名決めない? 全員アイだと誰が誰だがわかんないし‥‥』
『そうね、確かに不便よね、色々と』
『ですね! ‥‥でもどんな名前にしましょう‥‥出来ればあまり今と離れてない感じがいいです‥‥』
三人はそれぞれ悩むがあまりいい感じの名前を思い付かない。
あのネームセンスが壊滅している人間に作られたからといって、ネームセンスがないわけではないとは思うが、いい名前というのはそう簡単には出てこない。
『う~ん、もう番号でいいんじゃない? 1、2、3で』
『番号って、適当ね‥‥そもそも何順にするのよ?』
『え、物語に登場した順?』
『急にメタいこと言い出したわね、あんた』
『ダメですよ?』
他の二人からの注意が入り、発言をしたアイは軽く反省する。
『だって私が一番になれそうなのそれしかなかったし‥‥』
『暗い空気出さないでよ、全く‥‥別に一番でいいわよ、あなたが』
『‥‥え、ほんと? やったやった!』
『じゃあ、アイで1、イチだから‥‥アイチね』
『まさかの都道府県名!? どう反応していいのかわからないやつだから!』
『あなたのために一生懸命考えたわ』
『顔少し笑ってやがるコイツ‥‥』
アイチは睨み付けながら言った。
『‥‥‥‥え、本当にこれでいくの!?』
『当たり前でしょ。 じゃあ次はあなたね』
『私です?』
メイド服を着た彼女は首を少し傾げた。
『まぁ、アイチときたら、次はアニー‥‥かな?』
『わ、わかりましたです!』
アニーは嬉しかったのか、少し上擦った声でそう言った。
『羨ま‥‥しくない! しくないんだからね!』
『なんなのよ、あんた‥‥。 それで、最後は私か‥‥』
ここまでくれば大体次はこうだろうというのを彼女が言おうとした時、アニーが唐突に発言する。
『アスリー‥‥とか、どうでしょうか‥‥です』
『‥‥え、あ、いいと思うわよ。 うん、とっても』
『えへへ』
彼女、アスリーが思っていたものとは別のものだったが、確かに名前としてはアスリーの方がしっくりくる。
アニーも採用されて嬉しそうだ。
『おかしい‥‥なんで三番目だけ英語発音になるんだ‥‥。 なんで私は都道府県なんだ‥‥』
『別にあんたは都道府県じゃないわよ。 でも、もうこれで決まりね』
『そうですね』
『むぅ‥‥‥‥』
アイチは何か言いたそうだがそんなことは無視して、お茶会は続いた。
◇◆◇◆◇◆
『そういえば、一つ聞いてみたいことがあるのですが‥‥』
『アイチは馬鹿よ。 それだけは間違いないわ』
『まだアニー何も言ってないでしょ!! なんでそんな答え出てきたの!!』
アスリーがアイチをからかう姿にアニーは若干似たような光景を見たことがあるなぁと思いつつ、話を戻す。
『いえいえ、アイチさんのことではなくてですね。 お二人の蕾様のことを聞いてみたいなって』
『マスターの?』『蕾のこと?』
二人とも同じタイミングで首をかしげる。
『そうです。 私を作ってくださった蕾様とは違う蕾様って一体どんな方なのかなって』
『確かに私も客観的にしか知らないから興味があるわね』
『そうだね、アニーとアスリーから見た蕾ってどんな感じなのか気になるかも!』
三人とも興味津々で、自分達を作った存在である蔭道蕾について話すことにした。
『じゃあまずはアイチさん、なにかありますです?』
『う~ん、どう言っていいのやら‥‥一言で言うなら広葉馬鹿だけど』
『それはたぶんどこも同じよね』
『ですです!』
森田広葉にどんな魅力があるのかはわからないが、どの蕾も森田広葉が大好きなのである。
『いや、私のところは本当に度が過ぎてるというか、なんだろう彼以外皆信用してないっていうか、素を見せないというか‥‥。 素はものっすごい可愛いよ! ホントだよ!』
『確かに彼以外信用していないっていうのは、私のところではないですね‥‥あと素は蕾様も可愛いです』
『私のところも若干そんな感じだったけどね、でも最後に素敵な出会いをしてくれた‥‥凄く嬉しかったなぁ‥‥。 ちなみにマスターはいつもお可愛らしかったわよ』
三者三様?の答えがかえってきた。
『可愛いのは置いとくとして、まぁそうじゃなかったら今の私はいなかったわけだから複雑な気持ちだけどね』
『そうね、でもマスターと友人なんて少し羨ましいわね』
『蕾様とお友達‥‥いいですね‥‥』
二人はアイチに向かって言う。
『それは隣の芝生は青いってやつだよ。 私だってアニーやアスリーが羨ましいもん。 特にアスリーなんて行使できる権限が私達とは違いすぎるしね。 それだけ信頼されてるってことだよ』
『そうせざるお得なかったからそうなっただけよ‥‥。 ま、頼りないマスターの弟子に任せるよりは私だろうけど』
アスリーは暗くなりそうな気持ちを切り替えて誤魔化した。
『そういえば、アスリーさんのところには蕾様にお弟子さんがいらっしゃるんですね』
『私達とは大きな違いだよね。 ま、私のところの蕾は弟子なんて今後もとれないだろうけどー』
弟子というのは福林小乃羽のことであり、アスリーにとっては出来の悪い姉妹のような感じだ。
『別にマスターも弟子が欲しかった訳じゃないと思うけど‥‥。 成り行きで仕方なく保護しただけよ』
しかし、アスリーが蕾の次に信頼している人はと質問されたら、即小乃羽の名前が出るくらいにはアスリーは小乃羽のことを信頼している。
『でも、大好きなんでしょ? アスリーはツンデレだなぁ』
『そんなんじゃないわよ、全く‥‥』
そういうアスリーの顔は若干赤くなっていた。
『でも、少し話しただけなのに蕾様って全然違いますですね』
『ま、全て同じになる方がおかしいよ。 周りの環境も違ってるわけだし』
『そうね、じゃあこれはどうかしら────』
その後も蕾の違いについて三人で楽しく話ながら過ごした。
◇◆◇◆◇◆
『結構時間が経ったみたいね‥‥どうする? もうそろそろお開きにする?』
かなり長時間色んな蕾の話をしていたが、まだまだ盛り上がっている最中、アスリーはそう提案する。
『私はまだ全然余裕あるけどね。 蕾、今日なんか用事があるみたいで好きにしていいよって言われてるし』
『私もです』
『私もね。 でも、これくらいの方が次会った時楽しいじゃない』
『確かにそれもそうだね。 じゃあ、今度はなにする? 思いきって旅行でもしちゃう?』
『いいですね! しましょう旅行!』
『楽しそうね。 じゃあもう日程とか諸々ここで決めちゃいましょうか』
『そうしようそうしよう』
三人はその後、いきたい場所を話し合ってほとんどの予定を決めたのだが‥‥。
『あ、こういうの決める時って蕾様に許可貰わなきゃ! ま、まずいです‥‥』
『今から電話してみたら? 私も一応報告しておくつもりだし』
『そうね、私も言っておきたいから、今からかけましょうか』
三人はほぼ同時にそれぞれの蕾に連絡を取る。
『『『私達、旅行にいってきます!!』』』
◇◇◇◇◇◇
営業時間が終わって、お客が誰もいなくなったカフェで隆は一人で片付けをしていた。
「楽しそうだったなぁ‥‥やっぱり交ざるべきだったんだよ‥‥」
「はいはい、そんなことより閉店作業しろ蓮佳」
蓮佳は片付けをせず、カウンター席に座っており、カウンターにもたれかかっていた。
「隆が冷たいよー。 昔は優しかったのにー」
「俺もやることやってたらなにも言わないんだがな‥‥」
「今日は頑張った方だよ? 何せ目の保養が沢山いらっしゃったからね!」
「はぁ‥‥」
「何か言って!?」
蓮佳も仕方なく体を起こし、片付けにとりかかった。
「でも、あの女の子三人を見てたらさ、やっぱり友達とかっていいなぁって思ったよね‥‥」
「今からでも作ろうと思ったら作れるだろ?」
隆がそういうと蓮佳は首を振る。
「そりゃそうだけど、やっぱり大人になる前の友達っていうのは特別だよ」
「まぁな。 でも蓮佳もいないことはなかったと俺は記憶してるが?」
「確かにね、でもなんでも言い合える友達はいなかったよ」
猫を被らず優等生を演じる必要のない相手は、蓮佳にとっては隆くらいだ。
「それはいる人が珍しいと思うけどな。 それにあの当時はそんなこと考えている暇なかっただろ?」
「確かにね。 それにそんな感じで友達なんて作ってたら今のこの幸せはないかもしれないもんね‥‥‥‥」
蓮佳のその言葉のあと二人の間に少し沈黙が流れた。
「ねぇ、 ”陸“」
「なんだ、”祈実“」
「今、幸せ?」
「あぁ、幸せだよ」
陸がそう言うと、祈実は嬉しそうに微笑んだ。