第五十三話 =天ヶ崎玲奈の絶望=
第五十三話です。
最初に注意事項です。今回の話の中に、少し性的な描写が存在します。苦手な方がご注意ください。R15タグはつけておりますし、その中でおさまる程度には納めておりますが、念のために申し上げておきます。
では、今回もよろしくお願いします。
「優ちゃん……優ちゃん……‼」
譫言の様に呟きながら、玲奈はゆっくりと身体を起き上がらせていく。足が小刻みに震える。それだけで、既に限界寸前まで追い込まれた事が見て取れた。
だが、今はそんな事どうでもいい。目の前に優次郎がいる。その視線も感情も、全て自分へ向けられたものだ。それだけで動かすには十分すぎる。
ガシャン!
けたたましい音が、一瞬響く。鉄格子を掴み、これでもかと顔を愛しの人へ近づけた。
「優ちゃん優ちゃん優ちゃん優ちゃん優ちゃん優ちゃん優ちゃん優ちゃん優ちゃん‼‼」
早口に、幸福に満ち足りた笑顔を浮かべながら、彼の名だけを呼んだ。隣の叶には気づいていないのだろう。
常に優次郎を中心に生きてきた。それが天ヶ崎玲奈だ。それは二人も知っている。
しかし、これは流石に行き過ぎている。中心どころではない。今、彼女の全てが水瀬優次郎という青年のみで構成されていた。叶はもちろん、自分の存在すら薄れている様だ。
優次郎は笑みを深め、彼女に声をかける。
「なんだ、思ったより元気そうじゃん」
「優ちゃん、待ってたよ? ワタシ、ずっとずっと、ずーっと待ってたんだよ? 優ちゃんと会いたいって、優ちゃんと話したいって、ずーーーーーーっと想ってたんだよ?」
「そうなの? 嬉しいなぁ」
「当然だよね? ワタシには、もう優ちゃんしか無いんだもん。ずっと想ってたんだ。他の人なんて知らないって。関係ないって。みーんな死んじゃえばいいって。この世界に存在する生き物が、優ちゃんとワタシだけになればいい。それでね? その後で優ちゃんを殺すの。でも大丈夫だよ。ちゃーんと生き返らせてあげるから」
「生憎だけど、ボク玲奈に殺されるつもりないよ?」
「そうすれば、ワタシ達が望む世界が完成するんだよ。そうでしょ? ワタシと優ちゃんだけの、とーっても幸福な理想郷なんだもんね?」
おかしい。
優次郎は笑顔こそ絶やさないが、違和感を覚えていた。会話がかみ合っていないのだ。玲奈の言葉は、優次郎への返答として意味を成していない。まるで聞こえていないかのように、ただ一人、無邪気に嗤いながらボソボソと声を出しているだけだ。
「その世界も、もうじき出来るよ。だってほら、見てみてよ。こーんなに暗い世界になったんだもん。それに、今ここにはワタシと優ちゃんしかいないでしょ?」
それを聞き、優次郎は確信する。ちらりと横に目線だけ向ければ、叶はただじっと、変わり果てた玲奈の姿を見つめるだけだった。その表情は、どこか哀し気に見える。
天ヶ崎玲奈は、既に壊れている。
もう彼女の視界には優次郎しか見えておらず、耳も正常に機能していない。愛しき優次郎の声すらも届かない程に。
「これを見れば分かるでしょ?、みーんな死んじゃったんだよ? 虫も、動物も、草木も、人間も、みんなみんな、ワタシのコレクションになったんだよ?」
ずっと笑顔を絶やさず、喜びだけを瞳に宿し、玲奈は話し続けた。壊れた玩具の様に。
人間も、死人すらも玩具として扱ってきた彼女だったが、今となっては彼女自身がそれと大差ない状態になっているとは、何とも皮肉なものだなと、優次郎は無意識に思う。
ここまで壊れるのに、どれほどの拷問を受けたのだろうか。どれほどの悲鳴を上げ、どれほどの血を流し、どれほどの絶望を味わい――――――どれほど、優次郎を想ったのだろうか。
その時の彼女の心境、絶叫、表情を想像すれば、優次郎も自然と笑った。
「ワタシ、頑張ったんだよ? ワタシ達だけの世界にする為に、すっごく頑張ったんだよ? だから、御褒美ちょうだい?
死んで。今すぐ死んでよ。ワタシの為に、ワタシ達の世界の為に、今ここで。
大丈夫だよ? 優ちゃんは他の玩具とは違う。ワタシの愛しい人なんだもん。あれと一緒にはしない。ずっとワタシのそばに置くから。防腐魔術も覚えたの。凄いでしょ?」
すっ―――――と。玲奈の震える右手が、優次郎へ向けて伸ばされた。
避けるでもなく、払うでもなく、ただじっとそれを見つめる。
「ワタシ、もう限界なんだ。心も身体も。優ちゃんが欲しいって、子宮がうずくんだ。一人で抑えようとしてもダメなの。満たされるのは一瞬だけで、またすぐにうずいちゃうの。優ちゃんを求めちゃうの」
息が荒くなり、官能的な声が漏れだす。
「ちょうだい? 優ちゃんの全てを、ワタシにちょうだい? ワタシも、優ちゃんに全部あげるから。ねぇ、優ちゃん――――――――」
彼女の指先が、彼の服に一瞬触れた時だ。
「やめなさい」
いとも簡単に、その手は払われた。玲奈は目を丸くし、払われた手を見つめる。
手をはらった人物は誰か。優次郎が拒絶したのか。
いや、違う。優次郎の手は動いていない。動いているのは視線だけだ。先ほどまで玲奈を見つめていた赤い瞳は、今は彼の右隣りへと向けられていた。
玲奈も、その後を追う。そして、玲奈の眼が正常へと戻る。
笑顔が消え、憎しみが彼女の全身を覆った。優次郎を愛するのと同じくらい、憎しみの感情を向けている相手の声と姿が、彼女の五感を戻したのだ。
「綾瀬川……叶……」
ぼそりと呟かれた名。普段とは違う、他人行儀な呼称が、どれほどの憎しみを抱いているのかを物語っている。
名を呼ばれた叶も、鋭い視線で玲奈を睨みつけた。
「私を認識できるようになった様ね? アナタの言う通り、私は綾瀬川叶。あの日、あの海で、アナタと戦い、アナタをユー君に会わせる事もさせず、更に言えば傷一つ付けられる事も無く、完膚なきまでに叩きのめしてあげた、あの綾瀬川叶よ」
叶らしくもない、意地悪くどす黒い笑顔を浮かべ、見下す様に言ってのけた。言葉も、普段の彼女ならば絶対に選ばない様なものを使用している。
「天ヶ崎玲奈さん、他者への接触は禁止されているわ。だからこんな所に放り込まれたんだと言う事すら忘れたのかしら?」
「そんな事知らない。第一、ワタシには君たち取締委員会の言う事を聞く義務なんてないしね」
「あら、会話も出来る様になったのね? それに、アナタの言う所の『理想郷』から帰ってこれたようで安心したわ。ただの壊れた玩具から、一応人間には戻れたようだし」
玲奈の表情が、更に歪む。
「ケンカ売ってるの?」
「そう取ってもらっても構わないわ。また屈辱を味合わせてあげるだけだから」
叶の視線も、玲奈の表情に比例し、鋭く冷たいものへと変化していく。優次郎も、二人を止める事はしなかった。玲奈は叶を憎み、叶は玲奈を蔑む。いつから、こんな関係になってしまったのかと記憶を辿るが、どうにも思い出せないでいた。
「……綾瀬川叶」
「何かしら、天ヶ崎玲奈さん」
お互い目を離す事の無いまま、玲奈が叶に言刃を向けた。
「ワタシ、言ったよね? 君は―――――優ちゃんを救えなかったって」
叶の表情が歪むのを、優次郎は見逃さなかった。
あの日。戦いを終えた叶は、優次郎を強く抱きしめた。その時は理由が分からなかったが、今の二人を見ていれば、自ずと答えも見える。
そして、別れ際に言われた言葉が脳裏をよぎる。
『私は必ずアナタを救ってみせるから』
(なるほど。あの時、叶さんが変だった原因はコレか)
一人納得し、叶の表情が歪んだと同時に気持ち悪い笑みを浮かべ始めた玲奈を見つめる。
「その意味、分からない? もう君は、優ちゃんには必要ないの。君は変わったって言ってたけど、いくら君自身が変わった所で、過去は変わらない。優ちゃんを救えず、一人で燻っていた過去からは逃げられないんだよ?」
「……何が言いたいのかしら」
「それも分からないの? 呆れた人だね。結局はちょっと魔術の才が人より優れているだけの『ハリボテの天才』って事か」
ここぞとばかりに言葉を畳みかける。玲奈には分かっていた。叶は、今も『あの時』の事がトラウマとなっているのだと。天才と言われ、様々な事件を解決し、戦争を止めてきたが、一番救いたかった人物を救えなかった後悔が、深く深く、今も叶の心を抉り続けているのだと。
「そんな役立たずは、さっさと退場しなって言ってるんだよ。どれだけ変わったのか知らないけど、君は優ちゃんを救えなかった時点で、既に敗者なんだよ。敗者に残された道は一つ。さっさと舞台を降りる事だよ。それなのに、いつまで偉そうに優ちゃんの隣にいるつもり?」
「…………そういうアナタは、どうなのかしら?」
ここで初めて、叶が反撃に出る。
「敗者というなら、アナタも同じじゃない。それも、私よりもっと状況が悪いわ。まだ可能性が残されている私よりもね。牢獄に閉じ込められて、ユー君の隣に立つどころか、同じ舞台からも引きずり降ろされたアナタが何を言っても、私には負け犬の遠吠えにしか聞こえないわよ」
「そうだよ? 確かにワタシは、アナタに負けた。でも、その事については感謝してるんだよ? 君のお陰で、ワタシは優ちゃんと同じ場所に来られたんだもん。君は入ったこと無いよね? 毎日毎日、優ちゃんの為にある身体に屈辱を受けて、罵倒されて、世界から拒絶された人間の心理なんて、分からないもんね?」
叶の反撃にも、玲奈はひるまない。むしろ、これが好機とばかりに笑った。
「優ちゃんの心理を理解できない君と、理解するチャンスを貰えたワタシ。優ちゃんの隣に相応しいのはどっちだと思う? ハリボテの出来損ないでも、それくらい分かるでしょ?」
「まるで自分が、そこから出られるとでも思っている様な言い草ね」
「ワタシの罪はただの殺人未遂。誰も殺していないし、戦ったのも君だけだよ。猪丸健二にしろ、楠木隆盛にしろ、あれはあの玩具たちが自分の意思でやっただけ。ワタシが命令したわけじゃないよ。あの子達も、ワタシとの関与は否定してるんだよね?」
「否定とは言い様ね。彼らに関しては、ただアナタの名前を出せば怯えて答えないだけと教えた筈だけど」
「同じ事だよ。あの子達は、ワタシが裏で糸を引いていた、なんてふざけた事は口にしてないし、ワタシだってそんな事言ってないでしょ? 君達は信じないで、こんな酷い事してくれたけどさ。
だったら、言質を取れてないんなら証拠不十分。ワタシの犯した罪は、優ちゃんへの殺人未遂だけ。それだけなら、拘置所はいつか出られる」
「そうすれば、自分もまた舞台へ戻れる。ユー君を殺すチャンスも、隣に立つチャンスも、いくらでもある。そう言いたいのかしら?」
「ハリボテの天才も、やっと理解出来たみたいだね。そんなだから、いつまで経っても優ちゃんを救えないんだよ。慎重と言えば聞こえはいいけど、ただの臆病者だもんね、君は。昔からさ」
「…………そう」
一度目を伏せ、叶は優次郎へと向き直った。優次郎もそれを察し、彼女の方へ首を回した。
「? 叶さ―――――――」
それ以上、優次郎は言葉を発しなかった。否、発せなかった。叶がとった、ある行動によって。
「――――――――え?」
玲奈の口から、無意識に言葉が零れ落ちる。
先ほどまでの笑顔はなりを潜め、信じられないものを見る様に、目の前の光景をただ見つめた。
叶が優次郎の唇に、自分のそれを重ねた光景を。
叶の突然の行動に、優次郎も驚きを隠せなかった。顔は彼女の両手によってしっかりと固定され、動かすことも出来ない。深く深く優次郎を貪る様に、舌で強引に彼の口をこじ開け、内部を侵蝕していく。
久方ぶりの快感、戸惑い、表現できない感情に襲われ、優次郎は叶の背中に手を回し、そのコートを強く握りしめるしか出来なかった。二人の口から、甘い声が漏れだす。
「…………めて」
玲奈の言葉が、震えながら放たれた。だが、それは小さく、二人の耳には届かない。叶は舌の動きを止めず、何度も何度も優次郎を味わった。
彼は自分のものだ。アナタのものじゃない。玲奈には、叶がそう言っているように思えた。
「めて……やめてよ……」
言葉だけではなく、身体も震えだす。立っていられなくなり、ペタリとその場に座り込んだ。両手はボサボサになってしまった髪を乱雑に掴んでしまう。目を見開き、絶望が顔を支配する。
自分は、一体何を見せつけられているのだろうか。そんな事は分かっている。分かっているからこそ、言葉も自然と外へ押し出される。
「やめてっ……やめろっ!」
懇願が、命令に代わった。
「止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ! 止めろぉぉぉぉぉぉ‼‼」
悲痛な叫び声は、闇に包まれた空間によってすぐに遮断された。
彼女の言葉を聞いてか聞かずか、叶は優次郎から口を離した。二人の間を、透明な糸がつなぐ。
「か……なえ……さん……?」
頬を染め、目を潤わせながら、優次郎は叶に問う。彼と同じく、乱れた呼吸を整えながら、叶はしばし彼の愛しい表情を見つめ、やがて妖艶に笑った。
そして、優次郎の顔を自身の胸へ押し付ける。柔らかな感触に、優次郎は顔から火が出そうになっていたが、叶は気にしない。
玲奈へと視線を向ければ、彼女も叫んだ事で乱れた呼吸を隠さず、叶を見上げていた。そこに、先ほどまでの憎悪も笑顔も何もない。ただただ、怯えた様に叶を見つめていた。
そして、叶は不敵に笑った。
「……可愛いでしょう?」
「っ!」
「可愛い可愛いユー君。昔からこうなのよ? キスした時も、事に及んだ時も、ユー君はいつも、こんなにも愛しい表情で私を見つめてくれたの。それだけじゃない。心も言葉も身体も、私と愛し合う為だけに向けてくれたのよ? アナタは見たこと無かったでしょうけど」
「何が……言いたいの……?」
蛇に睨まれた蛙とは、正にこの事だ。それほどまでに、玲奈は叶に怯え切っていた。
今、彼女が抱く感情は憎しみでも蔑みでも何でもない。
玲奈は今――――――叶に恐怖しているのだ。
「分からない? アナタも大概ね、人の事言えないじゃない。でも、私は今気分がいいの。だから教えてあげる。
私は、この子に触れる事が出来る。抱きしめる事が出来る。愛情の全てを、ちゃんと受け取ってもらう事が出来る。でも、アナタはどうかしら? アナタ、一度でもユー君に触れる事があった? 抱きしめてあげられた? アナタのその歪んだ感情を、受け止めてもらえた事があったかしら?」
玲奈は何も言わない。もう言葉も出ない。彼女にはもう、反撃の手は残されていない。
叶は優次郎の頭を優しく撫でながら続けた。
「ユー君の隣に立つと言っていたけれど、違うわ。アナタはまだ、舞台に立ってすらいない。アナタがどれだけユー君を愛しても、ユー君は受け取っていないもの。ユー君から舞台に上がる事すら許されていないアナタに、彼を殺す事も救う事も出来るとは思えないわね」
そこまで言うと、叶は優次郎を離す。叶の豊満な胸の中は息苦しかった様で、先ほどより息が上がっている様に思う。
「ごめんね? ユー君」
「もう……叶さんは……いつも突然過ぎますよ……」
ようやく息も整いだし、優次郎が言った。その言葉から、拒絶はしていないと分かる。それが更に、玲奈を締め付けていった。
叶が言った事は、間違っていない。自分は優次郎を殺したい程愛した。だが、受け止めてもらえた事があっただろうか?
大好き、という言葉は言ってもらえた事がある。健二との一件で、久々に再会した時と、隆盛との一件で会った時だ。
彼は言ってくれた。殺したい程大好きだと。
だが、その後どうだった? 一度目は綾瀬川姉妹の介入で有耶無耶にされてしまったが、二度目はすぐに狂気を納めた。そして『構っている暇はない』と言っていた。
ずっと目を背けていた。自分の一方的な愛情であることから。
だが、今目の前で叶から現実を叩きつけられた事で、強引に向かい合う事になってしまった。
優次郎から拒絶の言葉を言われたわけでは無いし、完全な玲奈の憶測でしかない。だが今の彼女は、あふれ出るマイナス思考を止められず、全て悪い方向へ考えてしまう。
「……して」
初めて抱いた『恐怖』。優次郎から拒絶されているのでは? という疑心暗鬼。
圧し潰された玲奈は、その言葉を口にした。
「殺して……優ちゃん……」
二人の視線が、玲奈へと注がれる。
「もう、疲れちゃった……身体も心も全部汚されてさ……だから、いっその事殺してよ……優ちゃんが、ワタシを」
色を失いかけている瞳で地面を見つめ、独り言の様に呟いた。今度は優次郎の耳に届いていたらしく、ゆっくりと玲奈の前でしゃがみ込む。叶は何もせず、静観に徹する事とした。
「玲奈」
名を呼ばれ、顔を上げる。愛しの優次郎の顔。しっかりと彼女を見据え――――――。
「いーやーだーねー‼」
彼女の想いを、拒絶した。
「え……?」
再び、彼女を絶望が襲う。それを見れば、優次郎も嬉しそうに笑った。
「それそれ! 玲奈のその顔が見たかったんだよ! ボクの苦労も、やっと報われたね!」
「何、言ってるの?」
「え? わかんないの?」
キョトンとした顔で首を傾げ、彼は言った。玲奈を地獄へ叩き落す言葉を。
「ボクはずっと、その顔が見たかったから、キミの相手をしてあげてたんだよ? あの生意気なキミの顔が絶望に染まったら、絶対に素晴らしいものになるだろうなーって思ってさ。
だから嬉しいんだ! 散々耐えてたけど、今それも報われたからさ!」
「あっ……うっ……」
「それとも、ホントにボクがキミを殺しそうとしてるって思ってたの? もしそうなら、ボクも中々の演技派だねー!」
初めて聞いた、優次郎が明確に自分を拒絶する言葉。玲奈の口から、音が漏れだす。
優次郎も、追い討ちをかけていく。さも嬉しそうに。愉快そうに。玩具と戯れる子供のように。
「ボクがキミを殺す? そんな事するわけないでしょ? ボクが殺したら、キミは少なからず救われちゃうじゃんか。やっと見られたその顔、一瞬なんて勿体ないし」
だから、ずーっと生き続けな。ボクに拒絶されてたんだっていう事実を、一生抱えながら。
付け足された言葉を聞き、玲奈の心は、音を立てて崩れ去った。かすかに残っていた光も消え失せ、首はかくんと落ち、まるで人形の様に。
満足げに笑い、優次郎は立ちあがり踵を返す。
「叶さん、帰りましょうか。もう用事も済んだ事ですし」
「…………えぇ」
「じゃあね、玲奈。また、来るよ」
何のために来るのか。それは口にしなかった。
優次郎と叶は、振り返る事なく歩き出す。玲奈は動かず、何も言わず、ただ足音だけを聞いていた。
視界の隅に、並んで歩く二人の姿をぼんやりと認識したまま。
今回もありがとうございました!
叶さんは普段おっとりふわふわタイプですが、恋愛となると超が付くほどの肉食系ですね。こういった描写を書きなれていない事もあり、どうするか迷ったのですが……玲奈を絶望させるには、これが一番効果的だと思いましたので、こうなりました。痛々しい描写や性的描写が苦手な方には辛い話だったかも知れませんが、どうかご了承ください。
そんな感じの五十三話です。
叶に現実を突きつけられ、遂には優次郎本人から拒絶された玲奈が今後どうなるのか? そこもお楽しみいただけたらと思います。
では今回はこの辺で。
また次回もよろしくお願いします!




