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灰色の世界  作者: ken
第二章
21/139

第二十話 =油断大敵=

二十話です。なんだかんだで此処まで話が続きました。ありがとうございます。

今回もよろしくお願いします。



「あー……こんな清々しい夕暮れはいつ以来だろ」


 なんて。大げさな事は分かっているが、優次郎はこう口にせずにはいられなかった。

 あの二日酔い状態が明けた翌日。椎名特製のお粥とドリンクは見事に効いた様で、優次郎の体調はすっかり元に戻っていた。あれだけ憂鬱だった昨日が嘘のように、今日の窓から除く夕日はとても輝いて優次郎の瞳に映り込んでいる。

 

「話には聞いてたけど、本当にお酒って怖いんだなぁ。ボクも人一倍お酒に弱いみたいだし……うん、お酒は控えた方が良いな。

 でも叶さんみたいな飲ませ屋もいるから、油断は禁物かなぁ」


 今後飲み会に誘われる事があっても、今の自分の立場を考えればあの5人以外と飲む事は無いだろう。特に聞く話では、叶は自分の酔った姿を大変気に入ったらしい。

 あの後の話は、同じく元気になった椎名から聞かされた。

 何でも自分は叶にべったりだったらしく、抱き着くわ頬擦りするわ膝枕されて挙句の果てにはそのまま寝るわで大変だったようだ。

 そしてそんな優次郎の姿を見た叶もまた、ひどく上機嫌になったらしく、ずっとされるがままでニコニコ笑っていたらしい。優次郎の体調を気遣った玲央や椎名、義信たちが彼を家に帰そうとした時も、叶が断固として拒否していたという。

 何でも「こんなユー君を1人で帰して、野獣に襲われたらどうするの!」と言う事だ。優次郎も優次郎だが、叶も叶だ。学生時代から優次郎に対して過保護が過ぎる。と言うより、そもそも優次郎を襲おうなんて勇者がこの町にいるとは思えない。

 だが、魔力を身体から放出し始めた叶に他の3人はそれ以上反論出来ず……結局押し負けて、そのまま叶と優次郎のいちゃつきタイムはお開きになるその時まで続いたらしい。

 帰りも、玲央が自分の部屋に泊めてくれた。本当は叶が家に、それも自分と添い寝させるとか何とか言っていたようだが、それは流石にまずいと言って玲央が何とか言いくるめ、自分の部屋に泊めてくれた。叶は不服そうだったらしいが。

 しかも、自分が出勤する時間になっても起きない優次郎を気遣い、置手紙と鍵を残してそのまま学院にいった。


 玲央先輩にはあの日、本当に世話になりっぱなしだったな。今度会ったらお礼を言わないとな……。


 1人決意した優次郎。それが分かっていたかの様に、絶妙なタイミングで彼は優次郎の前にやってきた。


「おや、ミナセ君じゃないか」


「あ、玲央先輩!」


 そこにいたのは、優次郎が今思い浮かべていた玲央本人だった。やっほーと言って右手を上げ、左手には何やら袋を持っている。

 優次郎を見るや微笑みを浮かべ、玲央は歩み寄って来る。


「その様子だと、もうお酒は残って無かったりしちゃうみたいだね」


「はい! しーちゃんのお陰でもうすっかり!

 それと、すみません。玲央先輩にはあの日お世話になりっぱなしで……ありがとうございました」


 頭を下げれば、玲央は困り顔を浮かべて右手を軽く振った。


「初めての飲み会だったりしちゃうわけなんだし、自分のお酒の強さなんて分かんなかったりしちゃうしね。誰しも1度は通る道だよ。気にしないで良いって」


 優しい先輩だ。

 素直にそう思う優次郎。昔から、彼は物事を表面的にとらえたりは絶対にしない。その裏の裏まで見透かしてしまってる様な、凄まじい観察眼を持っている。

 やっぱりこれも、彼の治癒魔術師としての大きな武器の1つなのだろうな、と優次郎は改めて思う。


「そう言ってもらえると嬉しいです。玲央先輩は今あがりですか?」


「そうだよ。それで、1度ミナセ君の研究室に行こうと思ってたから、ちょうど良かったりしちゃうんだよね」


「? ボクに用ですか?」


 首を傾げる優次郎に、玲央は左手に持っていた袋を差し出した。

 それは、病院でもらえる薬袋の形をしている。


「これ、ミナセ君にと思って向けに作った僕特製の薬だよ」


「もう二日酔いは治りましたよ?」


 冗談めかしで笑う優次郎に、玲央は淡く微笑む。


「じゃあ、また気分が悪くなった時に使いなよ。二日酔いじゃなくても良いから」


 そう言って優次郎の手を取り、押し付ける様にその薬を渡す。

 いつになく強引な玲央に、優次郎も首を傾げた。


「いいかい? これは君専用の薬だ。用途はさっき言った様に、気分がすぐれない時に使えばいい。一回に付き一錠、それ以上の服用は厳禁だ。君の身体が壊れちゃうかもしれないからね。

 もう一度言うけど、君専用だから他の人には絶対に飲ませないでね、分かった?」


 真剣な表情を浮かべる玲央を、値踏みするかの様に優次郎は見据えた。

 数秒。

 その後、優次郎はやんわりと笑った。


「分かりました。有り難く受け取っておきますね」


 そう言って、優次郎は薬袋を掲げる。

 玲央は満足そうに笑い、踵を返した。


「それでいいよ。またね、ミナセ君――――――――――お大事に(・・・・)


 そう言い残し、玲央はその場を去った。

 玲央が去った後、優次郎はしばし彼の立っていた場所を見つめ、その後薬袋に目をやった。


「ホント、油断は禁物だよね」


 そう言って、優次郎は薬袋をポケットにしまう。

 その時だ。


「? あれ、瞳ちゃん」


 もう1人、古馴染の少女に出会ったのは。

 瞳は声に気づくと優次郎に目をやり、一瞬止まった。


「……水瀬先生、お疲れ様です」


「お疲れ様! 今から帰り?」


「えぇ、まぁ」


「でも瞳ちゃん、今日は授業無かったよね?」


「図書館で調べものをしてたんです、卒論の事で」


 相変わらず熱心だなぁ。

 くすりと笑い、優次郎は口を開く。


「そっか、でもちょうどいいや。瞳ちゃんにも、言っておかなきゃなんない事もあるし」


「私に、ですか?」


 瞳は一瞬身構えた。

 さっきからその表情は、どことなく怖い。まるでこちらを睨んでいるかのようだ。

 まだ、怒ってるのかな。

 そんな事を思うと、優次郎もやはり少し悲しい。


「いや、確証はないし、念のためってくらいなんだけど……玲奈がさ、また動き出してるみたいなんだ」


 玲奈。

 その名に、瞳もまた目を見開いた。


「天ヶ崎玲奈……ですか?」


「そう。あの子の性格は瞳ちゃんも知ってるでしょ? ……いや、瞳ちゃんの方が(・・・・・・・)よく知ってるか(・・・・・・・)


 優次郎の言葉に瞳は顔をしかめ、顔を逸らす。


「知りませんよ、あの人の性格なんて。第一知ろうとも思いませんし」


「そっか。瞳ちゃんがそう言うんなら、そうなのかな」


 そう言って、優次郎はケラケラと笑った。

 何処となく小ばかにされている様に思えて、瞳は顔をしかめたまま戻さなかった。


「話が逸れちゃったね、ゴメン。

 簡単に言うと、こないだから姿が見えない……えっと、楠木先生? だっけ? まぁ結界魔術の専門講師の人がいるのは知ってるよね?」


「えぇ」


「その人の失踪と、玲奈が絡んでる可能性が高いって事さ。あの人も、ボクに色々恨み辛み抱えてみたいだしね。

 っていうか、叶さんから聞いてないの?」


「姉さんから聞いたのは、楠木先生が良からぬ事を考えているかもしれない事。それと、水瀬先生に恨みを抱えていた様だから、水瀬先生の周囲にも被害が及ぶ可能性があると言う事だけです。

 それで気を付けろとは言われていましたが……なるほど、天ヶ崎玲奈まで絡んでいるんですか」


「ありゃ。叶さん、玲奈の事は瞳ちゃんに伏せてたのか」


 まずい事したかな、と苦笑する優次郎に、瞳は目で答えた。

 それを察した様で、優次郎も笑みから苦しみを排除する。


「まぁでも、そう言う事だよ。楠木先生も、結界魔術に関しては凄腕だったしね。まぁプライドの高さがその完成度を下げてる感じもしたけど……それを差し引いても、かなりの腕だと思うよ」


「水瀬先生がそう言うのなら、本当にそうなのでしょうね」


 何せ約2年。世界中の一流魔術師と互角以上の戦いを繰り広げていたのだ。

 その優次郎が凄腕だと言うのなら、そうなのだろうと思うしかない。


「だから、瞳ちゃんも気を付けてね。まぁキミの事だし大丈夫だとは思うけど、今の玲奈がどれほどの力を持っているのかはまだ分かんないし、油断大敵だよ。それに楠木先生の結界魔術も入ってきたら、厄介になるって事は間違いないだろうしね」


「分かりました。意識しておきます」


 そう答えれば、よろしい! と言って優次郎は笑った。


「話はそれだけし、ボクは研究室に戻ろっかな。瞳ちゃんも今から帰るんでしょ? 気を付けてね。と言っても目の前だけど。でも、今日叶さんいないんでしょ?」


「えぇ。朝から学会に行っています。明日の朝には戻ると思いますけど」


「そっか。まぁ叶さんは大丈夫だと思うけど。1人だと本当に危ないからね、今は。だからしつこい様だけど、気を付けてね、瞳ちゃん」


 そう言うと、じゃあねーと手を振って優次郎は踵を返した。

 遠くなっていく後姿が目に入る。

 10m。

 20m。

 30m。

 ゆっくりと、されど確実に優次郎は自分から遠のいていった。 

 その姿を見ていると、



「――――――先生」



 どうしても、声を掛けなければならないと思えた。


「ん? 何かな?」

 

 立ち止まり、身体を反転させた優次郎は、何事かと言った顔をして首を傾げた。


「いえ、あの……もう、体調は大丈夫ですか?」


 瞳は一瞬言葉に詰まったが、咄嗟にそう口にした。


「あぁ、二日酔いの事? 大丈夫だよ! しーちゃんの御飯のお陰ですっかり元気になったし!」


「そう、ですか。安心しました」


 瞳がそう言えば、優次郎は再び呆けた顔をしたが、やがて――――――――


「心配してくれたの? ありがと! やっぱり瞳ちゃんは優しいね!」


 そう言って、満面の笑顔を瞳に咲かせた。

 その笑顔に、瞳は声を出せなかった。


「じゃあ、またね! さよなら」


 今度こそ、優次郎はだんだんと遠ざかっていき、やがて見えなくなった。

 瞳はしばらくその場に立ちすくんだ後、思い出したかのように身体を反転させ、生徒玄関へと小走りしていった。

 何故、彼の笑顔に声が出せなかった。 

 その答えを、瞳は知っている。

 彼の笑顔に、彼の声に、彼が――――――――自分だけに向けた全てに、見惚れていたのだ。

 彼女の頬が夕日色に染まっていたのを見た者は、誰もいなかった。










「―――――――まぁ、及第点かな」


 その一件があった反対側の廊下からは、その光景がよく見えた。会話までは流石に聞こえないが、悪い方向には進んでいなかったであろう事は、優次郎の最後の笑顔を見ればよく分かる。

 瞳の表情は分からなかったが、おそらく前の様な悔恨の色は無かっただろう。


「魔術に長けた人って、皆あんな不器用人間の集まりなのかね全く……世話の焼ける先輩だよ」


 誰もいなくなった廊下を見つめながら、境子は1人呟いた。

 この学院に入学した時から―――――いや、その前からか。綾瀬川姉妹の名はよく聞いていた。

 あの水瀬優次郎を捉えた天才魔術師、綾瀬川叶。

 その姉に引けを取らない才能の持ち主、綾瀬川瞳。

 叶は学生だった頃から、その実力は群を抜いていたらしい。らしい、と言うのは去年履修していた魔術思想学の講義で聞いただけの話だからだ。

 天才的な魔術師の例として彼女の授業を行っていたが、その逸話はどれもこれも信じがたいものばかりだった。

 その後も叶が学生時代作った数々の伝説は、この学院にいる限りいくらでも聞けた。今の生徒たちの間でも語られているほどだ。


 だけど。


「水瀬先生の話って……そう言えば聞かないな」


 そう。そうなのだ。

 叶は有名人だ。それでいて、魔術の実力は世界でも群を抜いて高く、何故こんな小さな島国の学院に収まっているのか不思議に思えてならない程だ。

 だが、優次郎もまた世界でその名を知らない者はいない有名人なのだ。それだけでは無い。叶には及ばないかもしれないが、彼もまた彼女に次ぐ実力者である。それに考え方も面白い。学生になる前から魔術だけでは無く科学にも興味を抱いていたと本人が言っていたし、考え方の根本も変わっていないだろう。いつかの授業で、吸収の話を講師にしたとも言っていたし――まぁバッサリ切り捨てらたそうだが――。 

 そんな生徒なら。そして、その後あんな事をしでかしたのなら。

 学生時代の彼の話が出回っても、不思議ではないはずだ。

 だが、誰も彼の学生時代は語ろうとしない。魔術思想学でも、彼が狂人になってからの事しかやっていなかった。担当講師が、彼と長い付き合いである福原義信だったにも関わらず、だ。

 この世には光と影がある、なんて例え話はよく聞くが、叶と優次郎はまさにそれだ。


「何してるんだお前。もう日も落ちるぞ」


 その時、自分の世界から境子を引きずりだす声が木霊した。

 そちらを見れば、そこに立っていたのは今しがた仕事を終えたのであろう椎名だった。


「三木さんか。いや、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ」


「それは結構だが、時間が時間だ。続きは家で考えるんだな。もう講師も生徒もほとんど帰っちまったし、此処にいたってなんもする事無いぞ? まぁ、警備員が来る時間まで待ってるなんて物好きなんなら、無理にとは言わないが」


「私にそんな趣味ないよ」


「だったら早く帰りな。今の世の中、何かと物騒だぞ」


「そうだね、そうするよ…………ねぇ、三木さん」


「なんだ?」


 椎名の返答に一拍おき、視線を合わせずに境子は告げた。



「学生時代の水瀬先生ってさ、どんな人だったの?」



 息をのむ音が聞こえる。その行動を起こしたのは、椎名だ。

 それを受け、境子はやっと目を合わせる。


「ねぇ、どんな人だったの? 教えてよ」


「……何で、そんな事知りたがるんだ?」


 竹を割った様な、男気溢れる性格の彼女らしくなく、そうきき返した。


「分からないよ。分からないけど、知りたいんだ。水瀬先生の事……いや、違うかな。

 とにかく私は知りたい。だから教えてよ」


 目を反らさずに、境子は言う。

 椎名にも分かる。彼女は本気だ。本気で、学生時代の水瀬優次郎を知りたがっている。その真意は、彼女自身はっきりとしていないようだが。

 椎名はしばし目線を窓の外に向け、やがて口を開いた。


「―――――――まぁ。いつかは知るだろうし、黙ってる様な事でもないか」


 それは、明確なYesの返答だった。

 椎名は答えてくれるのだ。今の自分の質問に。学生時代の水瀬優次郎という人物を、教えてくれるのだ。

 内心高ぶりながらも、境子はその後の答えを待った。

 椎名は視線を境子に向けた。

 そして―――――――言葉を紡ぐ。



「アイツは――――――――っ!」



 だが、その言葉は途中で遮られた。

 目を見開き、境子を見つめている。

 何事かと首を傾げる境子。


 直後だった。


 椎名が境子の身体に覆いかぶさり、その場から飛びのいたのも。


 自分がさっきまで立っていた場所に、無数の魔術が突き刺さっていたのも。


 自分の後ろから声が聞こえたのも。



「外してしまったか……ただの料理人かと思っていたが、貴様もそれなりの魔術師の様だな、三木椎名」



 そしてその声が、先日から失踪している結界魔術の専門家、楠木隆盛のものだと理解するのも。



 全て、数秒の間に起こった、最悪の出来事だった。

ようやく、物語も本格的に動き出しましたね。

と言うか、一章で少しだけ出て来た楠木先生の事を覚えてる方はいらっしゃるでしょうか……ここまで書いてて少し不安です。後、あの時は使い捨てキャラだと思ってたんでそんな深く考えずにいましたので、キャラが掴めないと言う作者にあるまじき事に…………。

次回はしーちゃんvs楠木先生です。境子は……戦うのかなぁ? まだ学生だし、戦わないんじゃないかなぁ……はい、次回になってから考えます(汗)


よろしければ、次回もお願いします。

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