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灰色の世界  作者: ken
第二章
19/140

第十八話 =可能性=

十八話です。よろしくお願いします。

『―――――今日は外食してくるから、夕飯ゆうはんはいらないわ』


 昼休みに一階のエントランスで姉に言われた言葉が、1人食事を取っている瞳の脳裏で再生された。少し前までは取締委員会の集会などで外食する事が多かった叶だが、最近はそういった事がめっきり減っていたものだから珍しいな、と何となく思ったのを覚えている。

 理由を聞けば、どうやら今日は優次郎の歓迎会らしい。


『――――――良かったら、瞳も来る? 見知った顔ばかりだし、来ても大丈夫だと思うけど』


 そう言ってくれた叶だったが、瞳は断った。

 表向きは、せっかくの飲み会に未成年の自分が居ては気を遣うだろう、という理由から。だが、それだけでは無い。やはり一番の理由は、優次郎と長時間顔を合わせるのが、どこか気まずかったからだ。

 しかし、今となっては断った事を後悔している自分がいた。

 もし優次郎の講義を受けた後だったならばどうか? おそらく誘いを受けていただろう。

 とにかく今は、優次郎と話したい。そして、今のこの感情の原因を突き止めたい。

 

 ―――――――優次郎の隣に、もう一度立つために。


 だがそれもこれも、もはや後の祭りだ。全ては瞳が自分で決めた事なのだ。

 放課後、やっぱり行くと叶に言えば、おそらく彼女は断らなかっただろう。面子も聞いたが、皆親しくしている講師ばかりだったし、何なら入学前から知っている顔しかいない。彼らなら、瞳が来ると言えば歓迎した事だろう。

 だが、瞳はそうしなかった。理由は単純にして明快。臆病になったからだ(・・・・・・・・・)

 優次郎が自分をどう思っているのか。それを知るのが怖かった。

 叶もそれを察していた。だからこそ、チャンスを与えた。

 しかし、瞳はそれを逃した。それだけでは無い。少し手を伸ばせば再び手にできたチャンスだったのに、それすらも手を伸ばそうとしなかった。

 自分はこんなにも怠惰で臆病な人間だっただろうか。少し離れた所に落ちていたのに、手を伸ばす事をしなかった。怠った。ためらった。臆病風に吹かれた。


「本当……嫌になるわね」

 

 姉と2人で住んでいる綾瀬川家のリビングは、1人には少し広かった。



      ■ □ ■ □  



 一方の叶たちはと言うと、現在注文を終え、義信の行きつけの店にいた。全席個室制で、テーブルは掘りごたつ式になっている。といっても時期が時期なので、火炎魔術を埋め込まれたりはしていなかったが。

 そんな中、今日の主役ともいうべき優次郎は―――――――現在机に突っ伏して、お疲れ気味だった。


「はぁ、嫌になっちゃうな……何もあんなあからさまにしなくても良いじゃん、皆」


 優次郎は人殺しの犯罪者だ。それも世界で最も有名な狂人なのだ。

 講師になったと言うニュースは、町に出たときの混乱を避けるために叶が公表している。その時にも一悶着あったのだが……今は触れないでおこう。

 『天才』の名を置き、優次郎を捕まえた張本人である叶の直々の監視下にいるのだから多少の安心感はあるものの、人々にとってやはりまだ水瀬優次郎の名は恐怖の象徴だった様だ。

 学院からこの店に来るまでに何人もの人が優次郎を見て後ずさり、陰口をたたき、果ては殺気丸出しで睨みつけて来た。

 隣には叶と、同じく数多の伝説を持つ一流の治癒魔術師である玲央がいた。その間を優次郎が歩く姿は、人々にとっては檻に入れられ、鎖でつながれた猛獣の様な光景だった。

 だからこそ。安全だと分かっていたからこそ。人々はここぞとばかりに優次郎に憎悪を向けたのだ。

 店についても、おしぼりを渡されて「ありがとう」と一言、それも笑顔で言っただけなのに、店員は肩が震えていたし、オーダーを取っている時もちらちらとこちらを見ていたのが分かる。


「まぁ慣れっこだけどさぁ……もう少し隠す努力をしてくれないかなぁ? 歩きづらくて仕方ないよ」


「そんなもんだろ、人間なんて。1人じゃ立ち向かえない敵でも、数が集まりゃ安心するもんさ」


「しかもその両隣には学院長と黒岩がいると来たもんだ。タイミングで言えば、絶好の機会だっただろうからな」


 そう告げたのは椎名と義信だ。呆れを隠そうともせず、真正面から言い放った所が、流石優次郎を古くから知っているだけはある、といった所だろうか。


「ま、大変だったりしちゃうとは思うけどさ。諦めて受け入れなよ。もしかしたら、ミナセ君が疎まれてるのがプラスに働いちゃったりしちゃう事があるかも知れないよ?」


「うーん、そうかなぁ……」


 疎まれてるのがプラスになる状況……確かにあるだろうが、あまり自分が狂人である事を武器にはしたくないと思う優次郎だった。

 

「これから町に出る機会もあるだろうし、こういう視線と扱いに慣れておくのも社会復帰の第一歩よ。頑張りなさい、ユー君」


 優次郎の隣に座る叶がニコリと笑っていい、そのまま優次郎の頭を撫でた。

 まるで弟みたいな扱いだな、と優次郎は複雑な感情に襲われたが、すぐにそれは過ぎていった。


「まぁ、いっか! その内なれるだろうしね。ボクも皆も…………それより、福原先生」


「ん?」


 突然名を呼ばれ、義信は不思議そうな顔をする。

 そんな彼に、優次郎はニヤリと笑って告げた。


「お酒入っちゃう前に、本題に入ってもらいたいんですけど」


「…………どういう事だ?」


「とぼけても無駄ですよ。ボクと福原先生、もう長いじゃないですか。先生の事は、結構知ってるつもりです。こういった雰囲気のお店より、居酒屋みたいなにぎわったお店で他のお客さんと話したりする方が、先生好みですよね? 昔、ボクやアイツ(・・・)がいるのもお構いなしにそんな店に連れてってくれたりしてましたし。

 そんな先生がわざわざ個室のお店を選んだんだ。何か言いたい事あるんじゃないですか?」


「…………はは」


 優次郎の推論に、義信は乾いた笑みを浮かべた。


「完敗だ。本当、お前はこういった事には鋭いな」


「いやだなぁ、そんな褒めないでくださいよ。慣れてないですし」


 照れた様に笑う優次郎を見て、4人も思わず笑った。


「それじゃあ、お前のお望み通り本題に入るとするか。これは学院長とも話していた事なんだがな……お前、楠木隆盛くすのき・りゅうせいは知ってるだろう?」


「? 誰それ?」


 突然出て来た知らない名に、優次郎はキョトンとした顔で首を傾げた。

 それを受け、義信は呆れた様にため息を吐く。それは、椎名も同じだった。


「お前なぁ……叶の話じゃあ、お前旧校舎の1件でアイツのプライドずたぼろに引き裂いてやったそうじゃないか」


「旧校舎? ……あぁ! あの時の結界魔術の人か!」


 ポン、と手を鳴らして、優次郎は言う。

 その通り。楠木隆盛は学院で結界魔術の講師をしている男性の名で、旧校舎の結界魔術を施しており、それを破られた事で叶と優次郎に粗を指摘された人物だ。

 今日の授業が結界魔術の分野だったため頭の片隅に存在は思い出されていたが、名前までは知らなかった様だ。


「そうだ、そいつだ。その楠木なんだがな…………」

  

 そこで言葉を切り、義信は叶を見る。

 叶は視線を合わせて頷き、それを隣にいた優次郎にずらした。


「実は楠木先生は、1ヶ月ほど前から失踪しているの」


「え?」


 そうなのだ。

 結界魔術の講義はここ3週間連続で休校となっており、受講している生徒たちはざわついている様で、何者かに殺されたのでは、などというあらぬ噂も立ち上がっているらしい。


「寮住まいだから、心配になって部屋にも行ったんだけど、荒らされた形跡は無かったわ。ただ、机の上にノートが一冊おいてあったのだけど、その内容が内容でね」


「どんな内容だったんだ?」


 そう問うたのは、椎名だった。

 叶は少しだけ迷った様だったが、やがて口を開いた。


「そのノートは日記みたいなものでね。ユー君、アナタに対しての恨み言がノートの半分ほど使って乱雑に書きなぐられていたわ」


 優次郎は、思わず目を細めた。

 叶が隆盛の部屋で見つけたノートの中。

 『水瀬優次郎は頭の芯から狂っている』

 『あんな奴を講師にした学院長の気が知れない』

 『自分が本気で張った結界魔術ならば、優次郎アイツでも手も足も出ないだろう』

 そんな内容ばかりだった。


「ミナセ君への恨みと、それから『自分は凄いんだ』って鼓舞しちゃったりしてる内容だね」


「そう。元からプライドの高い人だったけど、ユー君の理論を聞いてそのプライドが酷く傷ついたみたいでね。あぁ、ユー君の事だから大丈夫だとは思うけど、気にしなくてもいいからね?」


「あはは‼ 大丈夫ですよ! 気にしてないですから!」


 ケラケラと笑う優次郎を見て、叶も微笑んだ。


「それで、失踪理由は分かってるのか?」


「そこが分からないんだ。もし水瀬の1件が引き金となっているのならば、もっと早いうちにこういった行動を起こしている筈だ。

 …………いや、違うな。この行動自体が妙だ」


 椎名の問いに答える義信は、そう言って顎に手を当てた。

 それに賛同したのは、玲央だった。


「確かにそうだよね。あんまり話した事は無いけど、今聞いてる限りじゃ典型的な自分大好き人間だったりしちゃうみたいだし、失踪する前にまず学院長に直訴してミナセ君の懲戒免職でも進言しそうだし」


「玲央君の言う通りよ。でも、そんな話は一切受けていないの。周りの先生方の話では、あの事件以来よくユー君の愚痴を言っていた様ではあるのだけど…………」


「なるほどな。だが、それがどうしたって言うんだ? 1講師の失踪事件なら、こんな場所より職員会議で議題にした方が良いだろう?」


 そう言うのは椎名だ。 

 確かに彼女の言う通り、隆盛が3週間前から姿をくらませているという話なら、捜索をするべきなのだから、数は多い方が良い。だが、叶や義信はそうはせず、飲みの席でその話をした。それも職員内でのもめ事には関与していない椎名も同席して、だ。

 椎名の疑問に答えたのは―――――――優次郎だった。


「……玲奈ですか?」


 その名が出た瞬間、空気が凍った。

 玲奈。天ヶ崎玲奈。

 それは優次郎と同じ『狂人』に分類される者の名だ。

 優次郎に深く歪んだ愛憎を向け、優次郎を殺す事を最大の悲願としている少女。

 彼女は先の事件で健二の脱出を手助けし、彼をけしかける形で優次郎を殺そうとした。

 そして健二も、優次郎に対して恨みを持っていた。

 玲奈は同じ狂人でも、優次郎とはベクトルが違う。 

 優次郎は世界各国の重役を悉く殺していき、更には殺人予告まで出してまるでゲームの様にそれを楽しんでいた。

 対して玲奈は、その殺意のベクトルが優次郎のみに向いており、彼を殺すためなら手段を選ばない。

 


 ――――――――――優次郎に恨みを持つ者の心に漬け込む事だって平然とする。

 


 つまり叶たちはこういいたいのだ。

 今回の隆盛の失踪。その裏に、天ヶ崎玲奈がいる可能性があると。


「まぁ、確証はないけどね……でも、玲奈ちゃんもユー君が刑務所から出た事でまた動き出した。可能性としては十分にあり得るわ」


「確かにねぇ……あの子、見ようによってはミナセ君より過激派だったりしちゃうし。そのベクトルが限りなく一方通行だから、ミナセ君の周囲にしか被害は及ばないけど」


 凍った空気を溶かしたのは、叶と玲央の言葉だった。

 優次郎はいつもの笑顔では無く神妙な顔つきをしており、きれいに磨かれたテーブルに移った自分を見つめて何やら思考していた。

 

「とにかく、楠木の失踪に天ヶ崎玲奈が関わっている可能性があるって事だ。アイツの狙いが水瀬、お前だって事は、お前の身近にいる人間にこれを伝えた方が良いと思ってな」


「なるほど……確かにそうですね」


 義信は次に、その視線を椎名へと向ける。


「特に三木。お前は魔術は使えるとはいえ、講師では無く食堂勤めの従業員だ。もし天ヶ崎玲奈や楠木を見かけたら無理はするな。すぐに俺たちの誰かを呼べ、いいな」


「あぁ、分かった」


 義信からの忠告に椎名が答えた、その時だった。


「お待たせしましたー」


 店員が、5人分のビールを運んできた。

 やはり優次郎の前に出すのを少しためらっていた様で、思わず優次郎は苦笑する。

 その後、足早に退出していったのを見送り、5人はジョッキを手に取る。


「さて、話はこれくらいにして飲むか。学院長、音頭は頼みましたよ」


「え、私ですか? いつもは違う人なので慣れてないんですが……では手短に。

 ユー君。遅くなったけど、講師の話を引き受けてくれてありがとう。私たちは、アナタを歓迎するわ。これからも講師としてよろしくね。では、乾杯!」


 叶の声の後、4人の声とグラスが重なる音が木霊した。



      ■ □ ■ □  



 古谷境子は家事担当である。

 よって、勉強に時間をさけるのは家事が全て終わってからしかない。食事を作り、後片付けをし、お風呂に入り、掃除し、諸々の明日の準備を終えれば、現在時刻は午後9時をまわっていた。

 今日の授業の復習をしていた境子は、優次郎の講義を板書したノートと見つめている。


「結界魔術とは、『空気の半物質化』を行う魔術であり、魔力によって空気をかためる事がポイントとなる。対象の守護を目的とした使用が一般的だが、それを変化させて矢の様に尖らせての攻撃にも用いる場合もあり、更には何らかの効果を付属した使い方もある。例を挙げれば魔力無効化効果や、回復効果など。

 数年前までは『結界魔術』と『防護魔術』の二つのジャンルが存在したが、近年ではこの二つを一緒くたに『結界魔術』と称している。

 空気と言う気体を金属の様な硬度に変化させるという『防護魔術』にあるその特性は、魔術と言いながらも錬金術に近いものがある…………錬金術の知識まであるんだな、水瀬先生って」


 見れば見るほど、聞けば聞くほど、異常なまでの知識の広さを持ち合わせた講師だ。まさか魔術学院で錬金術なんて単語が出て来るとは思わなかった。

 魔術とは万能なものだと思われがちだが、優次郎はその一つ一つの理論を紐解き、それが神の様な力では無く、あくまで人間が想像しうる範囲の代物でしかないと言う事を端的に表している。それが優次郎の講義だと、境子は思う。

 魔術師の仕事では無い。水瀬優次郎は魔術師であると共に、魔術学者でもあるのかもしれない。 

 使い方に何はあったが、魔術師としても一流。そして魔術学者としても一流。

 窓の外に浮かぶ半月を見て、境子は思う。


「あの人、弱点とか無いのかな」


 それを知ってどうするつもりもないが、何となく浮かんだ疑問で、そのまま空気を震わせた。




      ■ □ ■ □  




「…………学院長」


「何ですか? 福原先生」


「俺は今、後悔しています」


「? 何をです?」


 日本酒を飲みながら首を傾げる叶。義信はと言えば、同じく日本酒の入った猪口を口元で掲げながら、目の前の光景を見つめていた。

 それは―――――――。



「れおせんぱーい。しーちゃんがボクをいじめるんれすよぉー」


「あっはは……僕には男に抱き着かれて喜ぶ趣味は無いんだけど……シーナちゃん、その辺にしといてあげちゃったりしちゃったら?」


「そーだそーだー!」


「だぁぁぁぁもう! うるっせぇな! ていうか水瀬! お前なんで2杯目でそんな酔っぱらってんだよ!」


 ギャーギャー騒いでいるのは、自分と叶をのぞいた他の3人だ。

 今の状況を説明しよう。

 優次郎は、現在顔を真っ赤にして玲央に抱き着き、自分を咎める椎名に反論を求めている。

 玲央は、優次郎の行為に苦笑を浮かべつつ、椎名を宥めている。自分が解放されたいから。

 椎名はそんな2人に頭を抱えつつ、優次郎にかみついている。だが酔っぱらった優次郎は意にも介していない様で、それがストレスとなって度々酒を煽っている。最早ヤケ酒だ。


「まさか水瀬がここまで酒に弱いとは……」


「ですねぇ……ユー君の思わぬ弱点を知ってしまいましたね」


 ため息交じりの義信に対し、叶はにこやかだった。

 間違いない。この人は楽しんでいる。こちらの気も知らないで

 しかし椎名の言う通り、優次郎はまだ2杯目だ。しかも2杯目のジョッキは半分ほど残っているので、事実上1杯半しか飲んでいない。だと言うのに、もう完全に出来上がっていた。

 どうやら彼は、酒に酔うと甘えたがりになってしまう性質らしい。正直言って、酔っ払いの中ではかなり性質の悪い酔い方の1つだろう。

 しかも優次郎は、1杯目を半分ほど飲んだ段階で既に顔は赤かった。優次郎本人も、自分は酒に弱いみたいだから、この辺にしておこうと言っていたのだ。

 だが――――――


「学院長が飲ませるからですよ、この惨状の原因は……」


「あら。だって見て見たかったんですもの。ユー君が酔ったらどうなるのか」


 この人は……。義信は頭を抱える。

 その時だ。


「かーなーえーさぁーん!」


「キャッ! ……っとと、どうしたのユー君?」


 優次郎が、逆に座っていた叶に抱き着いてきた。叶は少し驚いた風だったが、玲央は解放された事にホッとした様だった。


「きーてくらさいよぉー……れおしぇんぱいがー……ボクにだきちゅかれてうっとうしーっていうんれす……ひどくないれすかぁ?」


「えぇ!? そこまで言ってないよね!? ただ夏場だし暑いから少し離れてって言っただけだよね!?」


「あらあら、酷いわね。よしよし、大丈夫よユー君。私に好きなだけ甘えたらいいから」


「うぁーん! かなえしゃんはいいひとだー!! はくじょーもののれおしぇんぱいとはおおちがいだよ!」


「ちょっと!? 聞き捨てならないよそれ!?」


「えぇい黒岩! お前もかみつくな! 更に面倒になるだろうが!」


「うぅ……しーちゃんまでいじめる……」


「……椎名さん?」


「誰がイジメてんだ! あと叶! お前は何でそんな視線が冷たいんだよ!」


 大参事だ。椎名も更に酒を煽っているし、これは間違いなく2人とも二日酔いだな。

 そんな事を考えながら、義信は叶に素直な感想を述べた。


「楽しそうですね、学院長」


「えぇ、楽しいです。だって可愛いじゃないですか、こんなユー君も」


 そう言って、よしよしと満面の笑みで優次郎の頭を撫でる叶。

 優次郎自身、小柄とは言えないが背はさほど高くなく、中性的な顔立ちをしており、確かに可愛らしさはあるかもしれない。だが、ここまで酔っぱらっていては流石に笑えない。と言うより、何故この人は笑えるのだろうか。義信には甚だ疑問だった。


「えへへ……かなえさん、だいすきー……」


「嬉しいわ。私も大好きよ、ユー君」


「だから無視しないでよ! 僕そんな冷たい人間じゃないんだって!」


「あぁぁくそ! こうなりゃ酒だ! 酒もってこい!!」


 いつの間にやら叶に膝枕をしてもらいながら、だらしない顔で笑う優次郎。

 その頭を撫でながら嬉しそうに、そして楽しそうに笑う叶。

 自分が冷たい人間扱いされて必死に弁解を試みる玲央。

 ヤケ酒が止まらない椎名。

 …………………見れば見るほど大参事だ。

 

(もう二度と、水瀬に酒は飲まさん。少なくとも俺の前では)


 目の前の光景を他人事のように眺めながら、義信は1人決意した。

 主に優次郎が大量に頼んだ料理の空皿を見て、おごると言った事を後悔しながら。

優次郎の弱点が判明した様です。

酔っぱらうと甘えたがり人間になるそうです。

誰得なんだこれ…………優次郎の弱点を考えた結果こんな事に……。

反省も後悔もありません。ありませんとも(汗)。

もし瞳が同席して、この優次郎を見ていたらどうなっていたんだろうか……。

そんなわけで、平和(?)回でした。

また次回もよろしくお願いします。またアイツが動き出すかも……?



P.S 無事、鯖の味噌煮を食べられました。美味しかったです。

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